脳と腸内細菌と皮膚の新しい関係!

2022/11/26

  『病は気から』という言葉がありますが、近年脳と身体が繋がっているメカニズムについての研究は、どんどん進んでいるようです。蒼野は脳腸相関という言葉は知っていましたが、最近では脳-腸-腸内細菌-皮膚の相関があるという話を読んで、面白いなあと思ったので紹介します。

 まずは基本の脳腸相関からです。蒼野が医学生だった頃は、脳からの命令で、腸などの内臓はコントロールされていると習いました。しかし腸には神経細胞が沢山存在し、脳の命令なしでも、その腸神経系によって自立して活動していることがわかってきています。腸が第二の脳と言われる所以です。

 生物の誕生の過程では、まず腸ができて、腸をうまく機能させるために神経が発達し、脳が進化したと言われています。腸と脳は自律神経や、神経伝達物質、免疫系やホルモンやサイトカインなどによってお互いにやり取りし、影響しあっています。これを脳腸相関と呼びます。

 例えばストレスによって、便秘や下痢が起こりますし、腸管の炎症(IBS 過敏性腸症候群など)によって不安感を感じたり、鬱の症状が悪化したりします。そのメカニズムは自律神経のやり取りで、蠕動運動が変わるためと思われていましたが、近年ここに腸内に生息する1000種類、1000兆個の細菌叢が大きく関与していることがわかってきました。

 通常時とストレス時では、腸内細菌が変化していることが、便中の腸内細菌のゲノム解析などで判明してきています。乳酸菌を与えているマウスは、与えていないマウスと比べて、ストレス時に、ストレスホルモンの値が上がりにくかったという実験があります。同じストレスがかかっても、腸内細菌が違えばストレスに強くなる可能性があります。

 人為的に、腸内細菌のいないマウスを作ると、落ち着きが無く、普通のマウスは近づかないような危険な場所に行きやすくなるという実験結果もあります。赤ちゃんの時の腸内細菌叢が脳に影響すると主張する学者もいます。帝王切開で生まれたマウスは経腟的に生まれたマウスとは異なる細菌叢を持ち、不安度が顕著に高く、うつ病の症状を示すことを見いだし報告しています。

 腸内細菌は、体の中にあるドーパミンの50%、セロトニンの90%を生成していると言われています。乳酸菌とビフィズス菌は神経伝達物質であるγアミノ酪酸(GABA)を産生するものがいることも確かめられています。 腸内細菌が作り出す物質、ポストバイオティックスが、脳に大きな影響を与える可能性は高いと思います。

 ということで、脳腸相関は脳-腸-腸内細菌相関という考え方に進化してきているということです。実験的には同じ系統のマウスでも、供給会社が違えば、腸内細菌が違い、薬の効き方が違ったりするため、同じ結果にならないということもわかってきました。まだまだ分からないことだらけではあるのですが、腸内細菌の移植などで、メンタル疾患まで治る時代がくるのかもしれませんね!

 そして新しい考え方がもう一つあります。脳-皮膚相関です。『皮脳同根』という考え方があります。人が受精卵から細胞分裂し、組織を作っていく過程で、外胚葉、中胚葉、内胚葉という3 つの細胞層に分かれて成長してゆきます。同じ外胚葉から作られるのが中枢神経や末梢神経、感覚器なので、脳と皮膚のルーツは同じなのです。

 皮膚には神経細胞の端末が多く存在し、神経伝達物質の受容体も沢山あるのです。例えば極度のストレスで蕁麻疹が出たり、肌荒れやニキビが出たりします。アレルギーが起こっていないのに蕁麻疹が出るのは、脳-皮膚相関を考えなければ説明できません。

 逆にアトピーがひどい状態の時には、メンタルが悪くなります。うつ状態の確率が上昇し、睡眠相後退(夜更かし、昼夜逆転)も起こりやすくなります。湯船に浸かって気持ちが良くなると、ホッとして気持ちが良くなります。痛いところをお母さんが撫でてくれると、痛みが和らぐのです。考えてみたら不思議ですよね!

 『皮膚は第三の脳』とも言われています。皮膚にある「セロトニン」「ドーパミン」「アドレナリン」などの皮膚受容体が刺激されることで、肌が感じると幸せや意欲などの感情が作り出されるのです。スキンシップも、マッサージも、エステも、気持ちが良いものは、全部脳に良い影響を与えます。

 皮膚の皺伸ばしにも使うボトックス注射ですが、表情筋は脳と密接に繋がっており、ボトックス注射をすることで、うつのコントロールが改善したという報告が出ています。笑顔を作ると気持ちが明るくなるという話は聞いたことがあるでしょうか? 楽しいから笑うのではなく、笑うから楽しくなるという話です。

 2021年の論文では、美容や医療目的でボトックスを打った4万人を分析したところ、不安症のリスクが最大72%減少していました1)。ボトックスを眉間に打って、しかめっ面を減らすことで、経口抗うつ剤の2倍以上のうつ症状緩和効果があったとされています。ボトックスは片頭痛の治療にも、海外では認可され効果を上げています。皮膚に影響を与えることで、脳に影響が及ぶことは間違いないようです!

 健康になると美しくなるというのは、当然だと思われていますが、美しくなると健康になるということが、脳-皮膚相関で説明されてきています。認知症の人を綺麗に化粧して上げることで、認知機能が改善するという研究があるのです。

 2021年の岡山大学の報告でも、化粧療法は開始直後から認知症患者さんの情動機能改善効果があり、AIを用いた顔解析で、化粧療法により認知症患者さんの見た目年齢が若返り、喜びが増加することが発見されています2)。

 あらゆることが人間の健康に影響しているというのは本当に面白いですね。『ネイチャー』誌、『ニューサイエンティスト』誌のシニア・エディターを歴任したサイエンス・ライターのガイア・ヴィンス氏は、ヒトが猿と違うのは、「火」「言語」「美」「時間」を使いこなし、進化させたからだと書いています。

 美の追求は、人類の本能の一つであり、美しくなると健康になるということも真実なのかもしれません。健康長寿のためには、美の追求も大事なんだなあと改めて認識した蒼野です。ファッションやオシャレ、デザインなんかに関しても、もっと勉強してゆきたくなりました!

参考文献:
1)Postmarketing safety surveillance data reveals protective effects of botulinum toxin injections against incident anxiety. ;  Scientific Reports vol. 11,Article number: 24173 (2021)

2)岡山大学 PRESS RELEASE  認知症患者さんに対する化粧療法の早期効果を臨床試験で証明! 
https://www.okayama-u.ac.jp/up_load_files/press_r2/press20210318-3.pdf  

参考書籍: 進化を超える進化 サピエンスに人類を超越させた4つの秘密  ガイア・ヴィンス

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