『無くして初めて分かる健康の大切さ』という言葉があります。しかし検査データも悪いし、肥満で血圧も高く、血糖も上がっている人が、どうして健康の優先順位を上げて、生活習慣を変えられないかと言うことについて、最近気付いたことがあるので、今日はそれをシェアしたいと思います。
蒼野自身は、昔から健康に興味があり、医療に関わる仕事をしているため、健康は人生において一番大事なんじゃ無いかなとずっと思って来ました。みんな頭では分かっていても、まだ大丈夫だと思って後回しにして、良くない生活習慣を続ける人は多いです。その結果、ある日突然脳卒中を発症し、命を無くしたり、寝たきりや麻痺などの重篤な後遺症が出てしまった人を沢山見て来ました。
しかし身の回りや家族に脳卒中などで倒れた人が居なければ、「今まで大丈夫だったのだから、自分に限って、脳卒中なんかになるはずが無い」と思ってしまう心理は誰もが持っているのでは無いでしょうか?
これは日常に様々なことが起こっても、心理的ストレスを受けないために、「正常な範囲に納まっていると認識する」「心の平穏を守る」ための機能であり、正常性バイアスと呼ばれています。ある意味ポジティブ思考の範疇に入るものであり、蒼野自身も、「大丈夫だあ」と毎日過ごしてしまう元になる考え方でもあります。
正常性バイアスが強い人は、メンタル疾患になりにくいとか、不安や心配が減るとか、ストレスを感じにくい、などの良い面も多いのですが、本当の緊急時には、逃げ遅れなど、危険に巻き込まれる原因にもなり得ます。
学校や職場で非常ベルが鳴っていたとすると、貴方はどんな風に反応するでしょうか? 1、点検だと思う。2、皆んなが避難しているかを見る。3、煙が出てないので大丈夫と思う。4、安全な場所に避難する。4つのうちで認知の偏り、思い込み、先入観=バイアスがかかっていないのは4だけです。
火事なんかそうそう遭遇することはありませんよね! 蒼野も自分が居る建物で火事が起こった経験は62年間で一度もありません。また非常ベルが鳴っても、周囲の人が落ち着いてその場に居たら、自分だけ走って逃げるという選択は無くなりそうです。これが正常性バイアスであり、同調性バイアスも働いている状態です。
これは東日本大震災でも、逃げ遅れた人に働いた心理状態では無いかと推測されています。災害時など、滅多に起こらないことに関しては、想定して正しく行動することが出来ないのです。蒼野自身、病気には気をつけて暮らしていましたが、交通事故は全くの想定外でした。車の運転でも、自転車でも、自分は絶対に事故に遭わないと、根拠のない自信があったのです。
これは新型コロナに対する人々の様々な反応の中にも見られます。論文になっている調査によると、東京都の20~60代の710名をWebアンケートで調査した結果、正常性バイアスが強い人は、自分は罹らないと思っていて、自粛行動に従いにくかったことが分かりました。逆に感染して死ぬかもと思う人は、厳しく自粛するあまり、運動不足から筋肉が落ちたり、鬱になったりする人もいました1)。
心筋梗塞は、心臓に栄養を届ける冠動脈が、動脈硬化をベースに、急に閉塞することによって、心筋細胞が死んでしまう病気です。詰まりかけると、心臓を掴まれて締め付けられるようなキューっとなる胸痛が起こります。早く治療を受けて、冠動脈を再開通させることで95%は助かる病気であり、治療を受けなければ24時間以内に30%の人が亡くなる恐ろしい病気なのです。
健康番組の特集で、ある日突然、経験したことのない胸痛を感じた人のうち、半数はすぐには病院を受診していないと言うデータがありました。助かった人に聞いてみると、1、自分は大丈夫だと思った。2、症状が一時的に収まった。3、まさか心筋梗塞だとは思わなかった。と言われていました。
蒼野はなるほどと思いました。皆様全員が健康は大事で、病気になりたくないと思っているはずですが、自分が正常だと思い込むことで、適切な対策が取れていない人が一定数おられるのだなあと思ったのです。蒼野自身、脳天気で、何事も大丈夫と思い込めるタイプなのでよく分かります。
しかし蒼野は、突然救急車で、意識が無くなったり、片麻痺になったりして運ばれてくる患者様を沢山見てきました。ご家族に話を聞くと、日頃は元気で明るいメタボのおじさまで、「俺は血圧も血糖も高いんだけど元気なんだよ」と、毎日バリバリ睡眠を削って仕事をして、外食して、お酒を沢山飲み、タバコを吸っていた、なんていうパターンが多いことを知っています。
でも本人の認知としては、健康診断で色々言われるけど、まだ自分は大丈夫とか、自分に限って病気にはならない、と思っておられるのだと思います。これこそ正常性バイアスです。同じ世代の人は、同じようにメタボだけど誰も入院してないよ、と言う同調性バイアスも強く働いていそうです。
こうした認知の歪みを改善するのは、結局はそれを知っているかどうかなのだと思います。蒼野は脳天気でも、動脈硬化や肥満にならない生活習慣は昔から追求して来ました。突然人生が病気で激変してしまった人を沢山知っているからだと思うのです。ぜひ日本人全員が健康に興味を持って、病気のリスクを知って欲しいと思います
生活習慣も然りです。若い頃と同じように食べる。毎日飲んでいても何ともないし、楽しいから飲む。時間が無いから睡眠時間を削る。一日中座って疲れたから運動しない。でも今まで大丈夫だったから、明日もきっと大丈夫!と言う考え方は、本当に危険だと思います。
今までも何度も非常ベルは鳴ったけど、誤作動ばかりだったから今度も大丈夫と言うのと同じです。逃げ遅れると死んでしまいます。誰もがついつい過去と同じように考えたくなるのは、本能の一つなので仕方ありません。しかしその都度、様々な可能性を想定しておくことが防災にも繋がりますし、自分の健康を守ることにもなるのです。
加齢と共に様々な病気は出て来ます。健康診断の異常値も、その段階で病気が見つかるチャンスかもしれません。厚労省のメタボ撲滅キャンペーンも、理由があってのことなのです。健康は幸せの前提条件です。病気は一発でノックアウトもあり得ます。是非自分の身体に注意を向けて、様々なシナリオを想定し、元気なうちに対策を立ててゆきましょう。
正常性バイアスは、心の平静を得るためのメカニズムですので、ポジティブ思考に繋がる考え方でもあります。根拠のない自信も、何かを成し遂げる上でとても大切だと思いますが、健康と防災に関しては、正常性バイアスに陥らないよう、心に留めておいてほしいと思います。
またみんなと同じように生活しているので大丈夫!と言う同調性バイアスにも注意が必要です。日本人は人生の最後は、平均で男性で9.13年、女性で12.68年の寝たきりなどの要介護期間があるのが普通です。今みんなと同じように生活していると、みんなと同じように寝たきりになります。
もちろん心配し過ぎも、ストレスが掛かるため健康にはマイナスです。ちゃんと対策をとった上で、大丈夫!と信じて毎日過ごすバランスが重要だと思います。
日本で健康に関する教育が、義務教育に組み込まれるべきだと思っている蒼野でした!
参考文献:
1) 新型コロナウイルス感染症拡大状況において正常性バイアスは見られるのか?―新型コロナウイルス感染症に関する認知とその影響― 教育心理学研究 2022年 70巻2号 178-191
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