今日は癌について少し考えて見たいと思います。実はもう亡くなった蒼野の父親は、中学校の時に広島で原爆に遭っています。爆心地から約850mの位置で被曝しており、学校で数人生き残った内の1人だったのです。最終的には自宅でテレビを見ている時にポックリ亡くなったので、癌で死んだ訳ではないのですが、一生の間に何度も癌の手術を受けています。
皮膚癌や耳下腺癌、食道癌や肝内胆管癌など、結構な致死率のある癌を何度も切り抜けて、77歳まで、寝たきりになる事なく生きてくれました。本当に感謝しかありません。しかし蒼野のDNAにも被曝の影響は大きく残っているはずですので、そろそろ癌年齢に差し掛かってきた自分としては、癌になりにくくなる方法が、とても気になります。
今日はその中で、食べ物に注目したいと思います。もちろん発がん性物質入りの食べ物を食べ続けたり、喫煙したりはしませんし、飲酒も控えています。癌の餌となる糖質過多の生活もしていないのですが、最近の研究では、タンパク質と癌や死亡率との関係が、話題になっているので紹介したいと思います。
今までのブログで、たんぱく質の重要性は何度も書いてきました。高齢になって寝たきりになるのは、筋肉が落ち、動けなくなる人がかなりの割合を占めていることから、意識して摂取するようお勧めしています。タンパク質として、美味しく、食べやすいのは肉や卵、乳製品などになります。
しかし2020年の論文では、タンパク質摂取量が増えるにつれて死亡リスクが上がるというデータが報告されています1)。オランダの研究で、7786人を13年間追跡したところ、3589人の死亡が確認されました。多変量解析で補正した結果、総タンパク質摂取量が多いほど、全死亡率が高くなっていました。
内容を詳しく解析すると、タンパク摂取でも、主に肉と乳製品からの動物性タンパク質の摂取が、心臓や脳の血管病と関連しており、死亡率と関連していることが分かりました。しかし、マメ科植物、ナッツ、野菜、果物からのタンパク質の摂取量が多いほど、全死因死亡率のリスクが低くなっていました。
この結果から、オランダのロッテルダム研究(350,452 人の参加者のうち合計 64,306 人が死亡)した研究を同様の視点で解析したところ、動物性たんぱく質摂取が多いほど、死亡率が増えることが、裏付けられました。
これは2020年の他のメタ解析の論文でも検討されました。31件の前向きコホート研究で、18歳以上の715128人を追跡期間は3.5年から32年の期間中に、113039人が死亡しています。うち心血管死が16429人で癌は22303人でした2)。この論文では、総蛋白摂取が多いと全死亡リスクが下がり、特に植物性たんぱく質の摂取が下げているという結論になりました。
じゃあどうすれば良いんだよということになるのですが、総蛋白の中でも、動物性タンパク質を摂り過ぎていると、死亡率は上昇する傾向にあり、植物性のタンパク質が多いと死亡率が下がるというのは共通している所見のようです。
どんなタンパク質が良いかについては、29のコホート研究を含むメタアナリシスの結果を見ると、死亡率の低い順に、植物<鶏肉<魚<乳製品<赤身肉<卵<加工肉という結果になっています3)。タンパク質を選ぶ際に、加工肉や卵ばかり食べるというのは不利になる可能性が高くなりそうです。
さらに次の論文では、動物性タンパク質摂取量を報告している50~65歳の回答者は、その後の18年間で全死亡率が 75% 増加し、がんによる死亡リスクが 4倍増加しました。ただし、植物性であればリスクは増加していません、しかし65歳以上の人は動物性タンパクを多くとっていると死亡リスクが相対的に低めでした4)。
フレイルやサルコペニアに対しては、動物性タンパク質摂取は大きなメリットがあり、その年まで心臓や癌などを患っていないという事が前提であれば、それ以降の摂取で大きな影響が出にくいということのようです。65歳からは積極的にステーキも良いかもです!
そこで癌細胞という視点から考えてみます。癌細胞の栄養は糖質だと言われており、PET検査もその性質を応用しています。蒼野はそれを知った時に糖質制限をすれば癌の栄養が無くなるので、癌になりにくいのではないかと思い、12年前から糖質制限を始めました。
しかし近年わかってきたこととしては、癌細胞は多彩な栄養代謝が行える能力を持っていて、糖分がない場合には、アミノ酸特に体内に多く存在するグルタミンを餌にすることができるので、極端に糖質を制限しても癌細胞が餓死することはないのです。
癌の増殖にはmTOR酵素が必要です。mTOR酵素を活性化するのは糖とアミノ酸です。効果としてはアミノ酸の方が強いのです。特に癌の増殖を促進するのはロイシンやシスチンです。これらは動物性のタンパク質から誘導されるアミノ酸です。筋肉を作るのにロイシンが必要というのは有名ですし、プロテインドリンクにもたっぷり含まれているものになります。
マウスの大腸癌に対して化学療法を行う際に、タンパク制限を1ヶ月行ったマウスと行わなかったマウスを比較すると、mTOR酵素の活性が抑えられ、癌細胞の抑制が顕著であることが分かりました5)。しかし、ずっとタンパク質を制限していると、筋肉が落ちやすく、寝たきりになりやすくなります。
結局食事はバランスという結論になりそうです。食べ過ぎは良くありません。糖質でも動物性タンパク質でも、食べ過ぎるとインスリン→IGF-1→mTOR酵素が活性化して成長モードが続くため、癌も成長モードになるために増えやすいのです。しかしタンパク質の不足が続けば、筋肉が減ってフレイルやサルコペニアで健康を害してしまいます。
これらの論文の研究は、例えば牛肉であれば、グラスフェッドかグレインフェッドかの区別はつけられていませんし、肉に含まれる飽和脂肪の影響が大きい可能性も否定はできません。ある意味まだ分からないことだらけですが、原始人に獲物が獲れた日と獲れずに空腹を我慢した日があったように、メリハリをつけた食べ方が一番良いのかもしれませんね!
現在日本人の半数が一生のうちに罹る病気であり、死亡率1位の癌を防ぐためには、毎日5000個作られている癌細胞の増殖を助け続けるのは得策ではありません。腹八分目ができる人はそれでも良いですし、できない人にはプチ断食が良いように思います。ずっと食べ続ける生活はNGです。お腹が空いてから食べることを心がけたいですね!
できれば加工肉は、たまに少量が良さそうです。毎日肉や卵、プロテインを食べ続けるのではなく、湯豆腐にする日を作るなど、植物性タンパク質中心にしたり、食べたくない時には野菜や未精製の穀物中心に済ませたりというのが良いのでしょうね!
世界の長寿地域ブルーゾーンでの食べ物は、植物性食品が中心で、動物性の物は特別な日にだけ食べます。腹八分目で摂取カロリーは低いのです。ということで蒼野は、プチ断食を続けながら、ロカボで、日によってタンパク源を変化させる食事を心がけたいなと思います。
参考文献
1)Dietary protein intake and all-cause and cause-specific mortality: results from the Rotterdam Study and a meta-analysis of prospective cohort studies. ; Eur J Epidemiol. 2020; 35(5): 411–429.
2)Dietary intake of total, animal, and plant proteins and risk of all cause, cardiovascular, and cancer mortality: systematic review and dose-response meta-analysis of prospective cohort studies. ; BMJ. 2020 Jul 22;370:m2412. doi: 10.1136/bmj.m2412.
3)Milk and Health. ; N Engl J Med 2020;382:644-54.
4)Low protein intake is associated with a major reduction in IGF-1, cancer, and overall mortality in the 65 and younger but not older population. ; Cell Metab. 2014 Mar 4;19(3):407-17.
5)Dysregulated Amino Acid Sensing Drives Colorectal Cancer Growth and Metabolic Reprogramming Leading to Chemoresistance. ; Gastroenterology 2022 Nov 18;S0016-5085(22)01273-2. doi: 10.1053/j.gastro.2022.11.014.
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