アルツハイマーは感染で起こる?!

2023/02/11

 今日は健康長寿の大きな壁として存在する認知症について、分かってきたリスク因子について書いてみたいと思います。認知症の中で研究が進んでいるのはアルツハイマー型認知症ですが、その原因となりうる要素は多すぎて、1回のブログでは書ききれません。今日はアルツハイマーは感染が一つの原因かもと言うお話です。

 アミロイドβが脳に溜まって神経毒性を発揮する様になると、脳細胞が特に海馬など記憶の中枢で減ってゆく事が、アルツハイマー型認知症の一因であるということは、ほぼ間違いないとされています。アミロイドβを減らす超高額の抗体薬(薬剤費年間約350万円)がアメリカで今年の1月に承認され、日本でも申請されているという事はご存知の方もおられるかもしれません。

 蒼野が最近知ったのは、アミロイドβは、人間だけが持つ物ではなく、サルもマウスも魚でさえ、同じタンパク質を持っているという事です。厳しい自然界の中で生き抜くために、必要なタンパク質だからこそ、沢山の生物の中にあり、本来の機能があるはずだという事です。

 もし病気を起こすだけの役割しかない物であれば、進化の過程で病気になるような遺伝子は残りにくく、多くの生物の中にあると言うのは何か有用な役割があると考えられるのです。ヒトのアミロイドβも他の生物のアミロイドβもほぼ同じ物質ですので、何か重要な機能があるはずです。

 微生物の培養液にアミロイドβを加えると微生物が死ぬと言う事が発見され、アミロイドβは微生物と戦うための武器になるタンパク質では無いかと考えられています。ハーバード大学で、遺伝子操作によって脳内にアミロイドβが産生されるマウスと通常マウスの脳内に致死量の細菌を注入する実験が行われました。

 アミロイド生産マウスの脳内には、アミロイドβが集積して、アルツハイマーの時に出来る特有のプラークが形成され、中に細菌が閉じ込められることで生き延びました。しかし通常マウスはそのまま息絶えてしまうという結果になりました1)。追加で行った線虫での実験でもアミロイド産生が出来る個体の方が生き延びました。

 どうやらアミロイドβは脳の免疫系での役割のあるタンパク質の様なのです。次の論文は、2015年にアルツハイマー型認知症患者と認知症がない人について、死亡後に脳や脳血管を詳しく調べた研究です。認知症患者の脳の中に数種類の真菌(カビ)やそれに関連した物質が見つかりましたが、認知症がない人には見つからなかったのです2)。

 その後もアルツハイマー型認知症患者の脳からは、古細菌が感染した後が見つかったり、虫歯の原因菌であるP. gingivalisの持つリポ多糖(LPS)が脳内から検出され、LPSによって脳内の免疫細胞であるミクログリアが活性化して脳内に炎症を起こしていることが発見されたりしています。

 またアルツハイマー患者はヘルペスの抗体価が高いことから、実験で培養した脳細胞にヘルペスウイルスを感染させると、アミロイドβの凝集塊が現れることや、そこに抗ヘルペス剤を投与するとアミロイドβが出てこない事が確認され、ヒトでもヘルペスウイルス感染者が抗ヘルペス薬を使わなかなった場合に、感染がない人に比べアルツハイマー型認知症のリスクが2.5倍になることが台湾の疫学研究で発見されています3)。

 抗ヘルペス薬を使えば、アルツハイマーリスクは正常レベルに戻ります。アルツハイマー患者の剖検脳からはヘルペスウイルスの痕跡が多数認められており、アミロイドβの凝集塊の中にヘルペスウイルスが確認されました。もし口の周りにぶつぶつとヘルペスが出るような人は、放置せずにその都度抗ヘルペス剤を内服しておくほうが良さそうです。妻をはじめとする蒼野家の女性陣は、疲れると口唇ヘルペスが出来る事があるので、すぐに薬を持って帰る様にします。

 その他にも、全員ではない様ですが、クラミジア肺炎を起こすChlamydophila pneumoniae(性感染症のクラミジアとは別物)やカンジダ・アルビカンスという真菌も、アルツハイマー患者の脳内で見つかっています。結局脳内で感染の防衛のための炎症反応が起こる時に、アミロイドβが出てきて凝集し、最近やウイルスを取り込んで殺してしまうのではないかと推測されています4)。

 もちろん他の原因でも脳内には炎症が起こるため、アルツハイマーは感染で起こるとは断定はできないのですが、これらの論文を見ると、感染は一つの原因にあってもおかしくない様です。アルツハイマーを遠ざけるには、感染を起こし続けない事が重要です。

 具体的には歯周病を起こさない事です。P. gingivalisは歯周病の原因菌です。歯周病があると、歯茎から直接血管内に細菌が入り込んでしまうことが分かっています。朝晩の歯磨きはもちろん、歯間ブラシの使用は必須です。定期的に歯医者さんで歯石除去などのメンテナンスをしてもらうことも重要です。

 家にあるカビは掃除が大事です。エアコンの掃除も大事です。環境内からカビを駆逐しましょう!こまめな掃除でカビの餌を除去し、換気、部屋干しを避けたり、家具の後ろや横に隙間を作ったりなどで、湿気対策を行う事が重要です。湿度を60%以下にしておけばどんどん生えることは無い様です。

 ヘルペスウイルスに関しては、水痘帯状疱疹ウイルスと単純ヘルペスがあり、よく似たウイルスです。どちらも一度感染すると知覚神経節の神経細胞の中の核に遺伝子の形で潜伏しています。水疱瘡に罹った事がある人は持っていると言うことになり、日本人の9割が持っているウイルスです。

 免疫力が下がると遺伝子がウイルスを再生し始めて増殖し、症状を出します。抗ウイルス剤を使えば脳内のウイルスを、沢山のアミロイドβでやっつける必要がないのでアルツハイマーリスクは下がるはずです。無理をして体調を落とし、免疫力を落とさない生活が大事だと思います。

 つい先日の患者様ですが、一人暮らしを始めた20代女性が、仕事が忙しいのと、職場の隣に店があると言うことで、夏からずっとハンバーガーかコンビニのものしか食べていませんでした。強い耳の裏から後頭部の痛みで訪れ、抗ヘルペス薬を処方しましたが、その後皮疹が出てきて、結局帯状疱疹という診断になりました。

 やはり若くても、栄養不足になる添加物だらけの食事をしていると、感染も起こしやすくなるのだなあと、改めて納得した蒼野でした。時に無理するのは仕方ないかもしれませんが、身体に良い生活を増やしてゆくことが、認知症予防にとっても大事なことになると思いました。

参考文献:
1)Amyloid-β peptide protects against microbial infection in mouse and worm models of Alzheimer’s disease. ; SCIENCE TRANSLATIONAL MEDICINE : 2016. 8 (340) 340ra72.

2)Different Brain Regions are Infected with Fungi in Alzheimer’s Disease. ; Scientific Reports  5, Article number: 15015 (2015) 

3)Corroboration of a Major Role for Herpes Simplex Virus Type 1 in Alzheimer’s Disease

4)Are infections seeding some cases of Alzheimer’s disease? ; Nature 587, 22-25 (2020)

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