アルコールと心臓病の新しい論文!

2023/02/21

 今日は何度か書かせていただいているアルコールと健康のお話です。蒼野自身も事故までは毎晩飲まずにはいられなかった人間ですので、お酒が大好きな人の気持ちは分かります。今までに少量のアルコールは心血管病リスクを下げるとの論文が出ており、身体に良い赤ワインなら毎晩飲む方が良いんだと考えていた時期もあったのです。

 しかし去年、精度の高い、アルコールと心血管病リスクの関係を調べた論文が発表されました。平均年齢57歳、37万人の参加者について、アルコール以外の要素の影響を完全に排除できる、今まで行われていないメンデルランダム化と呼ばれる解析手法での、調査が行われたのです。

 結果は今までの、少量のアルコールならリスクが減るという結果にはなりませんでした。少量からアルコール量が増えるほど、心血管病リスクが上昇していることが分かりました。少量であれば影響は少ないものの、全然飲まない人に比べて、やはりリスクが上昇していたのです。

 ではどうして過去の論文で、少量のアルコールなら心血管病変が減るというJカーブの結果が出てたのでしょうか? それはアルコールの持つ性質とも相関しているようです。アルコールは脳のドーパミンを分泌する飲み物です。1杯で満足できていたのが、慣れてくると1杯では十分なドーパミンが出にくくなってきます。

 2杯になり3杯になるというのが、本来当たり前の飲み物です。そこで1杯の適量のみで抑えられる人と言うところに、バイアスが働いていました。1杯(アルコール7.9g)で止めることが出来る人は、健康的なライフスタイルを目指している人です。今回の調査では、他の健康的なライフスタイルの要因(交絡因子)の影響を取り除くことで、アルコールと心血管病リスクはJカーブではなく、正の相関、しかも指数関数的に増加する関係がある事が分かったのです1)。

 残念ながら交絡因子を除くと、心血管病においてアルコールが心臓を守っていたと言う、今までの仮説が覆されてしまいました。少量~中等量の飲酒(週14杯=アルコール110g)くらいまではリスクは少しだけ高まり、多量飲酒領域(週21杯=アルコール166g)になると心血管病と高血圧のリスクは飛躍的に高くなってゆきます。

 分かりにくいので、実際のお酒の量で言うと、週110gなら5%の普通のビールで2.2L、1日当たりなら314mlです。多量飲酒の166gなら週3320ml~、1日当たり474ml~です。お酒呑みの方の量としては結構少ない印象ですよね! 缶ビール1本で満足できる訳ないじゃないか!と言う方が居られるのは承知しております。

 コロナパンデミックになって、世界中で飲酒量は増加が報告されています。2020年のアルコール関連死は、それまでと比べて25%増加したそうです。パンデミックになってから、平均血圧も増加しており、体重増加だけでは説明できないため、謎とされていました。この論文から飲酒量の増加によって血圧上昇がもたらされた可能性が推測されています。

 別の2018年の論文で、アルコール摂取と死亡率が正の相関があることが判明し、「飲酒量はゼロが良い」と言うことは判明していました。この論文は、195の国と地域で26年間の観察を行なった研究結果でした。心血管病リスクは少量飲酒で下がっていましたが、高血圧、脂質異常症、脳出血、乳がんを始めとする様々ながんのリスクなどは、飲めば飲むほど高まるため、結論としてゼロが良いと言う報告がなされていました2)。

 飲むとしても、死亡率をあまり高めない飲酒量は1日10gまで、週に100gを超えないことが推奨されていました。血糖スパイクで生じる体内の糖化反応は、アルデヒドのスパイクで起こることが分かっています。アルコールは代謝過程で、必ずアセトアルデヒドに変化するため、強烈に糖化反応を促進し、体の全てのタンパク質を焦げつかせてしまうのです。

 これはすなわち組織や細胞の老化です。アルコールは皮膚を老化させるだけでなく、血管老化による動脈硬化、糖尿病、脂肪肝、骨の老化である骨粗鬆症や関節老化による関節症、脳の老化である認知症のリスクになると言うことなのです。またアセトアルデヒドは強力な発がん物質でもあります。

 昨日の睡眠の柳沢先生によれば、アセトアルデヒドが出ている間は、脳の整理とメンテナンス、記憶の定着に必要なREM睡眠が抑えられてしまいます。寝酒は特に悪く、寝付きはアルコールの鎮静効果で少し良くはなるものの、睡眠前半のREM睡眠が減るため、後半に増加し中途覚醒が多くなります。アセトアルデヒドの交感神経刺激作用によっても、良い睡眠が取れなくなるのです。

 毎日晩酌、特に寝酒をしていたら、本当に健康にとって重要な睡眠の健康効果が得られにくくなります。蒼野も事故後に飲まない日が多くなったので、実感しているのですが、飲まない日は朝の疲れの取れ方、頭のスッキリ感、気持ち良さが飲んだ日とは全く違うことが分かるようになりました。毎晩飲んでいたら今もわからなかったと思います。

 もし飲むなら寝るまでにアセトアルデヒドが代謝されてしまうような早い時間に、少しだけと言うのが睡眠に影響しにくい飲み方のようです。『寝酒は睡眠を壊す!』と言うことは肝に銘じておいてほしいと思います。

 話は変わって、日本の5年毎の、2020年の都道府県別平均寿命の調査では、男女総合トップ5は、滋賀、長野、京都、奈良、岡山でした。滋賀県は1965年には、男性27位、女性31位と低迷していたのですが、今回は男性1位、女性2位、男女総合でも全国トップとなりました。

 その理由として県の資料から分かるのは、たばこを吸う人や多量飲酒をする人が少ない(男性1位と4位)、スポーツをする人が多い(男性2位、女性6位)、学習・自己啓発をする人が多い(男性5位、女性6位)、ボランティアをする人が多い(男性2位、女性4位)などの影響が考えられました。

 ランキングの下位を見ると、ワースト1の青森から秋田、福島、岩手、沖縄と続きます。酒類の消費額は青森が1位、秋田が5位、福島が7位、岩手が6位です。沖縄は若年層の死亡が多く、特にアルコール性肝疾患の死亡率が高く、男性では全国平均の2倍です。沖縄特有の飲酒文化で、極端な飲酒をする人が多いと言う指摘があります。

 単なる数字の調査で、因果関係まで分かるわけではありません。しかし世界の論文も考えると、良い影響があると言われた心血管病リスクさえ下がらないことも判明しており、飲めば飲む程、健康長寿は遠くなる確率は高まるのは間違いなさそうです。

 今の日本では、若い人ほど飲酒離れが進んでいます。20代、30代の過半数が日常的な飲酒習慣をもたないようです。一方コロナ禍で飲酒量が増える人も多くなり、統計では30代以上の女性の飲酒率が増加しています。これには女性の社会進出も影響があるようです。

 特に女性においては、アルコールの分解能力が男性よりも低い人が多いため、男性の3分の2の飲酒量で肝硬変になったり、半分の期間でアルコール依存症になったりすると言われています。アルコールはPMSを悪化させ、特に乳がんリスクを高め、骨粗鬆リスクが高まります。老化を進めないためにも、アルコールのリスクを知っておいて下さいね!

 こんなことを書く蒼野も、未だに少し飲みたくなることがあります。酔うほど飲むことはなくなりましたが、飲んだ日の明け方は目が覚めてしまい、やっぱりなあと思います。まあこれからも、たまの楽しみとして、量を考えながら付き合っていきたいと思っています。

参考文献:
1)Association of Habitual Alcohol Intake With Risk of Cardiovascular Disease. ; JAMA Netw Open. 2022;5(3):e223849. doi:10.1001/jamanetworkopen.2022.3849

2)Alcohol use and burden for 195 countries and territories, 1990–2016: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2016;Lancet. 2018. 22(392) : 1015 -1035.

参照ページ: 厚生労働省 令和2年都道府県別生命表の概況
 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/tdfk20/dl/tdfk20-10.pdf

過去ブログ:

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