健康長寿にとって歯が大事と言うことは、今までにも何度か書かせて頂いています。特に歯周病と認知症の関係などは、最近注目されている話題です。歯周病以外にも歯がなくなる原因があるのをご存知でしょうか。ありふれているけどあまり注目されていない「歯ぎしり」です。今日は歯ぎしりについて調べてみました。
歯を無くさないためには、歯周病に対するプラークコントロールだけではなく、歯にかかる力を適正にする「力のコントロー ル」も重要です。人間のかむ力は自分の体重程度といわれていますが、寝ているときの歯ぎしりではその倍! 100キロ前後の力が歯に加わります。この状態が続くと様々な病態につながりかねないのです。
日本人の約8000人の聞き取り調査によると、歯ぎしりは、小児で約20%、成人で5~10%、高齢者では4~5%と、結構ありふれた疾患です。しかもこれは気づかれている歯ぎしりと言うことになります。寝ている間に上下の歯を繰り返し強くこすり合わせると、キュッキュッとかキリキリとかの甲高い切ない音がします。これが典型的な歯ぎしり(グラインディング)です。
問題になるものは音がするものだけではなく、食いしばり(クレンチング)といって、上下の歯を強く食いしばる種類のものもあります。覚醒時であれば、物を噛む時や力を入れなければいけない時などに、歯を食いしばることはありますが、いくら長くても、20分を超えることはありません。寝ている時に長時間に渡り、力をかけ続けるのは問題になります。
頻度が少ないタイプとしては、上下の歯をかちかちかちと噛み合わせる(タッピング)です。寒くて震えている時のような状態で、歯を小刻みにぶつけ、小さな音が続きます。この3種類が歯ぎしりの主な分類になり、正式にはブラキシズムと呼ばれます。
これらがある人は次のような問題につながる事があります。
1、歯がすり減る 割れる、治療したところが壊れる。
寝ている間の歯ぎしりは、コントロールが効かないため、強い力がかかり続けることで、歯がすり減ったり、壊れたりして、噛めなくなりします。
2、歯周組織への影響
力は歯茎や顎骨にもかかるため、ダメージを受けます。歯と歯茎や顎骨の間に隙間が出来やすく、細菌が入り込みやすくなり、歯周病が悪化します。歯の神経も変化して過敏になることがあります。
3、知覚過敏
歯の表面のエナメル質が減ってゆくと、温度が伝わりやすくなり、温度差のあるもので知覚過敏が出てきます。重度になると、歯ブラシを当てるだけでも痛くなってしまうため、硬いものが食べれないだけでなく、メンテナンスも難しくなり、大きな問題となります。
4、顎関節症
顎関節にも強い力がかかることから、顎関節症の誘因となります。悪化すると会話や食事も難しくなるため、起床時に顎の痛みを感じる場合は、放置せずに歯科や口腔外科などで相談しましょう。
5、筋肉に影響し、肩こり、頭痛の原因になる
噛む筋肉は、連動している首や肩、背中などの筋肉にもつながっており、噛む筋肉がカチカチになると、これらに影響します。慢性化すると辛いので、歯ぎしりへのアプローチが必要になります。
6、歯並びが乱れる
長年の歯ぎしりで、徐々に歯並びが乱れ、咀嚼機能の低下、歯周病の悪化、虫歯が発生しやすくなるなどのトラブルが出やすくなります。ちゃんと噛めなくなると消化不良にも繋がります。
どんな病気でもそうですが、根治するためには、その原因を知る必要があります。しかし歯ぎしりの原因はまだはっきり分かっていません。いくつか、異なる原因があるのではないかと言われています。脳波と睡眠レベルと歯ぎしりの関係を調べると、歯ぎしりは睡眠に関連したメカニズムが考えられています。
歯ぎしりの80%は、REM睡眠に移行する浅いnon-REM睡眠の時に起こります。元々咀嚼には独自の神経回路が存在します。咀嚼するとき、歯や咀嚼筋にあるセンサーで食品の硬さや性状を検知し、その情報は神経を伝って脳に伝達されます。脳は、その情報をもとに咀嚼筋へ指令を出し、食品の硬さに適した力でかむように調整しているのです。
睡眠中にこの回路の作動が起こってしまう事で、歯ぎしりが起こると推測されています。歯ぎしりを起こす数秒前から脳の活動や心拍数が上昇します。誰にでも睡眠中はnon-REM睡眠とREM睡眠を反復しているため、咀嚼回路へつながるかどうかが、歯ぎしりの有無を決めていることになります。しかしまだそのメカニズムは謎のままです。
歯ぎしりにつながりやすい要素は、ある程度分かっています。過度な疲労、喫煙や飲酒、カフェイン摂取が多い人や、抗うつ薬などの薬剤を服用する人では、歯ぎしりをする頻度が高いのです。ドーパミンやセロトニンといった神経伝達物質の関与があるようなのです。
家族性も認められており、遺伝的な要素もあります。人によっては、歯ぎしりがストレスに応答して発生したり、悪化したりします。またいびきをかくと通常の1.4倍、睡眠時無呼吸症候群の人は通常の1.8倍歯ぎしりが認められると言われています。ちなみにアルコールも1.8倍でした。
歯ぎしりのスイッチのメカニズムが解明されれば、根本治療に繋がるのでしょうね。現時点では、リスク因子をできるだけ排除することや、ナイトガードと呼ばれるマウスピースを装着して眠り、歯や顎にかかる力を軽減する方法などの対症療法しかありません。
実は蒼野も、歯医者さんで歯の擦り減りを指摘され、妻からも歯ぎしりを指摘されていたため、ナイトガードを作った事があります。1万円もしたのですが、つけると違和感で眠れないのに耐えきれず、数日で治療を諦めた過去があります。
深酒しなくなってからは、あまり歯ぎしりも指摘されません。患者様が生きるか死ぬかの手術をしていた当時に比べれば、ストレスも随分減っていると思います。運動が増えて、夜よく眠れるのも大きいように思います。健康的な生活習慣が歯ぎしりを減らすことは報告されており、それに加えて、加齢で減っても来るようなので、このまま様子を見たいと思います。
子供の歯ぎしりは珍しくはなく、成長と共に減少する事が多いです。子供の咀嚼機能の発達に関係する可能性も指摘されているため、歯や顎の痛みが無ければ様子を見て良いようです。心理的に不安定な場合も歯ぎしりは発生しやすいため、環境が変わったり、受験やいじめ、表情が暗くなっている時などはしっかり寄り添ってあげる事が重要です。
現時点では、歯も歯茎も顎も自覚症状がない蒼野です。ずっと自分の歯で、美味しいものを食べてゆきたいなあ!
参考ページ:公益社団法人 日本補綴歯科学会 診療ガイドライン委員会編、
ブラキシズムの診療ガイドライン 睡眠時ブラキシズムの治療(管理)について.2021
https://hotetsu.com/files/files_540.pdf
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