脳内伝達物質は、脳をちゃんと働かせて、健康なメンタルを保つのに本当に重要な物質です。今日は、蒼野が気になっているアセチルコリンについて調べてお伝えしたいと思います。認知症と関係し、我々が飲んでいる薬に影響される物質でもあるので、その注意点について是非お話ししたいのです。
アセチルコリンは、脳内だけではなく、身体の広い範囲における神経伝達に、関与している物質です。脳内では、認知機能、記憶、学習、注意、覚醒、REM睡眠などに関わっています。アルツハイマー型認知症では、アセチルコリンの濃度が低下し、認知機能の障害が生じることが知られています。
アセチルコリンは海馬細胞同士や、海馬と大脳皮質とのシナプス伝達に使われており、短期記憶から長期記憶への移行などにも関与しています。学習や記憶の形成に重要な物質であることから、低下すると認知症を発症します。REM睡眠中や覚醒中もアセチルコリンが放出されることで、脳活動が高まるのです。
また自律神経のうち、副交感神経のシナプス伝達も、アセチルコリンが担っています。内臓や各種器官に、休息と消化を促進する様に働き、身体を休息モードにするのです。交感神経とは逆の作用ですので、戦う状態の反対の状態を考えると、その働きが理解しやすいです。
副交感神経が優位になると、心拍はゆっくりになり、血圧は下がります。消化管が活発に働き、消化液もたくさん分泌され、栄養が取り込まれます。便や尿などの排泄も、活発になります。瞳孔が縮小し、鼻水を増やすことで、鼻腔内の異物や細菌・ウイルスを洗い流します。
そして筋肉においても、運動神経と筋肉との接点である、神経筋接合部において、筋肉の収縮を引き起こす命令がアセチルコリンによって伝わります。この3つが主な役割ですが、細かくみてゆくと、間接的に、脳下垂体に働きかけて、成長ホルモン分泌を刺激する作用もあります。これも身体を修復させるのに大いに役立ちます。
さらに調べてみて、蒼野が初めて知った役割は、免疫系に働いて、抗炎症効果を示すという作用です。アセチルコリンは、炎症性サイトカインの産生と放出を抑制し、免疫細胞による炎症反応を抑制します。緊張やストレスの多い現代社会、慢性炎症が沢山の病気につながっている現代においては、ありがたい作用だと思います。
蒼野がとても心配なのは、抗コリン薬の乱用とも思われる現状です。抗コリン薬は、アセチルコリンによる神経伝達をブロックする薬です。つまり、先ほど書いた様々なアセチルコリンの作用をブロックするので、身体の広範囲に影響が出る薬なのです。
過敏性腸症候群(IBS)の人に使えば、消化管の動きが鈍くなるので、下痢が止まりやすくなります。胃酸過多や胃潰瘍、逆流性食道炎などに使えば、胃液が少なくなるので、改善しやすくなります。過活動性膀胱や、夜間頻尿に使えば、おしっこの回数が減ります。花粉症や風邪に使えば、鼻水が止まり、気道が広がるので良くなった様に感じます。
短期間の使用は問題にはならないと、蒼野も思うのですが、身体のあちこちにこれだけの影響が出るアセチルコリンを、ブロックし続けるのは本当に怖いなあと思うのです。胃酸分泌抑制薬や、高齢者の夜間頻尿などは、患者様にお薬手帳を見せてもらうと、何年も飲んでいる人が結構居られるのです。中には市販の風邪薬を常用している方も、たまに見かけます。
一般的な副作用は、口の乾燥や便秘、尿閉、めまい、視力障害などです。飲み始めて悪くなったと気付ければ良いのですが、ずっと休息と消化の邪魔をし続けるのは、健康にとって大きなデメリットになり得ます。気をつけてみてみると、医療現場ではこの抗コリン薬と便秘薬が一緒に出されていることは多いのです。頻尿で泌尿器科に行き、便秘で内科で相談すれば、それぞれ処方されてしまうことは当たり前です。
通院している高齢者では5種類以上の薬を服用している人が多く、薬が多くて胃がもたれるということで、胃酸抑制薬もついでに処方されているケースも多いです。これらは脳にとっては大きな問題では無いかと蒼野は思っているのです。
一般には、身体の症状に対して処方される抗コリン薬は、血液脳関門(BBB)を通るものは少ないため、脳への影響は無いと言われています。しかし体内炎症が上昇しているような、リーキーガット、リーキーブレインの状態では、普通通らない物質が脳内にも流入します。アセチルコリンは抗炎症作用がある物質ですから、抗コリン薬を飲んでいれば、体内炎症は増し、脳内に抗コリン薬が影響してもおかしく無いです。
アルツハイマー型認知症は、アセチルコリンを生成する神経細胞が破壊されることで、記憶や学習、認知機能の低下が生じている疾患です。現在処方可能な4つの、アルツハイマーの薬も3つはアセチルコリンを分解するのをブロックすることで、アセチルコリン濃度を高める薬(アセチルコリンエステラーゼ阻害薬)なのです。
また、アセチルコリンを強力にブロックすると、特に高齢者では筋力低下につながることがあります。これはほとんど気付かれない副作用だと思います。歳を取れば誰でも筋力は低下する、と思われやすいからです。その発生率は分かっていませんが、転倒リスクにつながることは判明しています。
抗コリン薬の累積使用が、認知症の発症リスクを高めることを示す研究があります1)2)。その使用量が多いほど認知症リスクは上昇していました。また抗コリン薬の使用が、認知機能低下、転倒、入院、死亡のリスクを高めることが示された研究も存在します3)。身近にあるのにけっこう危険な薬で、しかも短期的な副作用では無いので気付かないという特徴があるのです。
医療に専門性が問われる様になって、もう久しくなりました。弱って入院されたお年寄りのお薬手帳を眺めていると、自分の専門には詳しくても、自分が出している薬の長期的な影響を意識しているお医者さんは少ないと感じます。しかし他所の先生が出した薬を止めろとは言いにくく、蒼野も、抗コリン薬が高齢者の認知機能やサルコペニアに影響していないのかなあ、と心配することしかできていません。
将来的には、もっと医療分野にAIが入ってきて、その人の病状を継続的に追えるようになると思います。薬の副作用で出てきた可能性がある症状に気づけるようになるのでは無いかと、期待しています。現状では、抗コリン薬を何年も飲んでいる高齢者が、頭や身体が弱ってきた時には、抗コリン薬の副作用を疑ってみるのが、大事なのだと思います。
ネットで何でも調べられる時代です。医療関係ではない皆様も、自分や家族が飲んでいる薬については、効果や副作用などについて、調べて、当てはまる症状が無いかを考えておく事が重要だと思います。「お医者様が出した薬だから大丈夫だろう」では、意識していないと、気がつけない副作用は沢山あるのです。
まだ全ては解明されていない、複雑なメカニズムで繋がっている我々の身体に対して、強力で広範囲に作用がある薬を飲み続けるというのは、リスクと隣り合わせです。目標の症状は回避できても、全体の健康に悪影響が出る可能性があるかもしれない、ということは知っておいてほしいなあと思っています。
薬の使用は最小限にして、生活習慣の改善で、沢山の病気に対処できるようになることを、夢見ている蒼野でした!
参考文献:
1)Cumulative use of strong anticholinergics and incident dementia: a prospective cohort study. JAMA Intern Med. 2015;175(3):401-407.
2)Anticholinergic burden quantified by anticholinergic risk scales and adverse outcomes in older people: a systematic review. BMC Geriatr. 2015;15(31). https://bmcgeriatr.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12877-015-0029-9
3)Drugs with anticholinergic properties as a risk factor for cognitive impairment in elderly people: a population-based study. J Clin Psychopharmacol. 2008;28(6):654-659.
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