今日は、昨日書き尽くせなかった、癌免疫療法の続編です。昨日は「癌がかけている免疫ブレーキをはずす治療法」である、免疫チェックポイント阻害剤の話でしたが、今日は「がんに対する免疫(がん免疫)を増強する治療法」について書いてみたいと思います。7つあるのでそれぞれ解説してみます。
1、昔からあるものとしては、癌免疫を活性化すると考えられる、免疫賦活剤です。結核予防に使われてきたBCGは、膀胱がんでは癌細胞に対する免疫を促進するため、膀胱がん再発予防に使われています。またキノコに含まれるβ-グルカンやポリサッカライド、キノコ多糖体なども、免疫の活性化やサイトカイン分泌を促進します。アガリスク茸は一時有名でしたね! カワラタケから抽出される多糖類であるピシバニールも、使われる事があります。
2、免疫細胞が産生・放出するがん免疫を高める物質=サイトカインを合成し、投与する治療法も結構古く(1980年代)からあります。インターフェロンαやインターロイキン2といったサイトカインが、がん治療に使用されています。最近では免疫チェックポイント阻害薬と組み合わせて使用されたりします。
3、癌細胞は元々は自分の細胞であるため、免疫システムが認識しにくい性質があります。これを敵として認識させる、癌に対する免疫反応を高める方法が癌ワクチン療法です。
癌細胞から取り出した特定のペプチドを、ワクチンにする抗原ペプチドワクチン。癌細胞から取り出したDNAを体内に投与して、作られるタンパク質を、免疫に認識させ癌細胞を攻撃させるDNAワクチン。癌細胞の表面タンパク質や産生タンパク質を、ウイルスベクターに入れて投与し、体内で作られる癌関連タンパク質を、免疫に認識させるウイルスベクターワクチンなどがあります。
4、同じように癌を認識する樹状細胞を、3のような体内ではなく体外に取り出して、培養環境で直接がんの目印を覚え込ませ、体内に戻す治療法が樹状細胞ワクチン療法です。樹状細胞とは、樹木のように、数多くの突起を持ち、その突起で、異物や異常細胞を検知します。その情報を他の免疫細胞(T細胞やB細胞)に伝達し、免疫応答を誘導する細胞です。
5、免疫細胞を体外に取り出して、増殖、活性化させてから体内に戻す治療法もあります。がんを直接攻撃する免疫細胞はT細胞やNK細胞です。T細胞を取り出し、成長因子や抗原提示細胞と一緒にして活性化してから体内に戻す、活性化(自己)リンパ球療法です。
取り出したT細胞に遺伝子治療を施し、特にがん細胞を攻撃する能力が高いとされるαβT細胞を増幅してから戻す、アルファ・ベータT細胞療法もあります。治療の副作用が少ないと言われていますが、まだその有効性や安全性については、十分なデータが得られていません。
一部の白血病と悪性リンパ腫などの血液がんで有効性が証明され、保険適応の治療法となっている方法もあります。取り出したT細胞の抗原受容体遺伝子を修正し、がん細胞を攻撃する能力を強化したT細胞を、大量に増幅して戻す、CAT療法などがあります。
NK細胞を取り出して活性化させ、患者に戻すNK細胞療法もあります。免疫反応の最初に活躍する自然免疫細胞であるNK細胞を取り出し、IL-2やIL-15などの成長因子を加えて、攻撃能力を高めてから、体内に戻します。臨床実験が進められています。
6、分子標的治療薬というものもあります。がん細胞表面にある受容体に異常がある癌細胞に対して、抗体薬を投与してブロックすることで、癌の成長や増殖、生存を邪魔することができます。
EGFR(上皮成長因子受容体)阻害剤(タルセバやイレッサ)、HER2(人間上皮成長因子受容体2)阻害剤(乳がんに使うハーセプチン)、慢性骨髄性白血病細胞の持つ異常タンパク質を阻害するBCR-ABL阻害剤、がん細胞の周りに新しい血管を形成するVEGF(血管内皮成長因子)を阻害するアバスチンなど、各種の分子標的治療薬が使われています。
7、最後は抗体をつけた抗がん剤治療です。正式には抗体医薬物質輸送(ADC)療法と言います。癌細胞に特異的な抗体をつけた抗がん剤を投与することで、癌細胞に結合し、細胞内に抗がん剤を送り込む事で、癌細胞を破壊します。リンパ腫の治療に使うアドセトリスや、乳がん治療に使うカドサイラ、膀胱癌に使うエンホルツマブ・ベトチン(パドセブ)などがあります。
こうしてみてゆくと、すごい種類ですね。これらを手術、放射線、化学療法などと、どう組み合わせれば最良の結果になるのかは、個人差もあり確定はしていないのだと思います。それぞれのメカニズムは何となく理解頂けたでしょうか?
昨日も書きましたが、毎日作られる5000個の癌細胞を、毎日自分の免疫力で退治し続けるのが最も効率的で、最善の癌治療(癌予防?)だと思います。良好な免疫力を保つのは、日々の生活習慣です。食事、運動、睡眠、ストレスコントロールのバランスを、ある程度の変動の範囲内に収めてゆく事が重要だと思います。
60歳を超えると、免疫力が落ちてきて、癌が増えてきます。若いうちは無茶して楽しむのも良いと、蒼野は思います(自分も無茶してきたので……)。今の歳になってくると無茶すると後がキツいです。睡眠時間の確保だけは、どんなに忙しくても保ちたいなあと思っている蒼野でした。
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