早歩きは長生きの秘訣!

2023/04/26

 皆様は長生きの指標となる物差しをご存知でしょうか? 年齢、性別、慢性疾患、喫煙歴、血圧、体格指数など、研究では様々な指標が、寿命に関係している事がわかっています。今日はその中でも、歩く速度について注目してみたいと思います。

 2011年の論文に、歩く速度と生存率について調べた大きな研究があります。1986年~2000年に行われた9つの研究の、65歳以上の34,485人の高齢者のデータを用いて、歩行速度データを6~21年間追跡したものです。平均年齢は73.5歳、平均歩行速度は0.92m/sでした。

 追跡期間中に17,528人が死亡し、歩行速度は、すべての研究で生存率と関連していました。生存率は歩行速度が速いほど増加し、0.1m/s ごとに増加しました。75歳で考えると、歩行速度が遅い人の10年生存率は、男性で19%、女性で35%でしたが、最も早い人は男性87%、女性91% でした。これは大きな違いですよね1)。

 もう少しイメージしやすいように、平均余命で考えると、70歳の男性の場合、極めて遅い歩行速度の0.2m/sなら7年、最も速い歩行速度の1.6m/sであれば23年生きます。女性であれば、歩くのが遅い人は10年ですが、早い人は平均30年=100歳まで生きるということになります。70歳でも、若い人と変わらない速度で歩けることが、健康寿命を維持して、長生きできるということになります。

 速く歩けるために必要な物は、筋肉と神経です。加齢とともに筋量は減少し、高齢者の場合は年に平均1~2%程度減少します。中でも上肢と比べて、筋量の大半を占める下肢の筋肉は3倍も低下しやすいことが報告されています。もともと上肢に比べて下肢のの筋肉は、重量が4倍もあります。下肢の筋肉をキープすることが、長生きに繋がるのです。

 重力の小さい宇宙ステーションで長期間仕事をして帰ってきた宇宙飛行士は、毎日筋トレしているにも関わらず、地上ではすぐには歩けません。低重力環境での筋肉の減少や骨密度の低下、さらには平衡感覚の衰えは防ぎきれないためです。数週間から数か月のリハビリテーションでようやく元のレベルに回復します。

 これは転倒や肺炎などで、入院したお年寄りも同様です。2週間ベッドで寝ているだけで、身体からは1年分の筋肉が無くなります。ずっと寝ていると神経も弱り、起き上がると、神経が弱っているために、めまいが起こります。元に戻るためには、少なくとも寝ていた期間の3倍の期間のリハビリテーションが必要だと言われているのです。

 蒼野も交通事故で生まれて初めて入院したのですが、10日間の入院で足が細くなり、太るはずの白米を、毎食大きな茶碗で全部食べていたのにも関わらず、体重が3kg減っていました。その分筋肉が落ちたのだと思うと恐ろしいですね。入院中も3日間は寝たきりでしたが、動けるようになってからは、病院内をできるだけ歩き回っていたにも関わらずです。

 何かの病気で入院したお年寄りが、動く気力がなければ、あっという間に寝たきりになるということは、知っておくべき真実です。歩けるようになったとしても、自宅に帰って運動しなければ、さらに筋力が低下し、足が上がりにくくなり、つまづいて転びやすくなるという悪循環が待っています。骨折でもすれば、寝たきりまっしぐらです。

 退院してからの運動の重要性を認識しておかなければいけません。大切なご家族であれば、一緒に歩いてあげるのが重要です。元々の運動習慣がなければ、自宅に引きこもってしまう人がほとんどだからです。コロナの外出制限も、お年寄りの筋力を大きく落とすことになったと思います。コロナに罹らなくても、寝たきりになったら元も子もありません。

 歩くことには、様々なメリットがあります。生活習慣病のリスク管理にも非常に重要です。身体の中で、一番大きな下肢の筋肉運動ですから、カロリー消費も高まります。エネルギーとして糖質や脂質が消費され、筋肉が刺激されることで、筋肉が増えるため、加齢による減少に歯止めをかける事ができます。

 食事の中の糖質が消化吸収され、血糖値が上がるとインスリンが分泌されます。インスリンは身体の細胞に血糖を取り込む働きがあるのですが、通常は余分な血中ブドウ糖の約75%が、筋肉に取り込まれるのです。筋肉が少なくなれば、糖尿病のリスクに直結します。

 運動すると、筋肉内で脂肪や糖質が代謝されます。ATPが作られ、使われてAMPに変化します。すると細胞内の酵素AMPキナーゼが活性化されます。活性型AMPキナーゼは、脂肪酸合成や中性脂肪合成を抑制し、コレステロールも下げてくれます。脂肪酸分解を促進し、体脂肪をエネルギーとして燃やす作用があるのです。

 つまり当たり前ですが、運動すると太りにくく、痩せやすくなるという事です。AMPキナーゼは筋肉へのグルコースの取り込みも促進するため、少量のインスリンで血糖が下がるようになります。つまりインスリン抵抗性が改善し、糖尿病リスクが無くなるのです。

 肥満は歩行速度の低下と相関しています。2010年の13個の横断研究と、15個の縦断研究のレビュー論文でも、高齢者の肥満度が、増加するにつれて、下肢の可動性が低下する事が示されました。BMIが35を超える肥満は、歩行や階段昇降、椅子からの立ち上がりなど能力の低下に影響しており、特に女性で顕著でした2)。

 BMIと死亡率との関係については、他にも巨大な研究があります。世界中の239件、1062万人を13.7年間追跡した前向き研究において、慢性疾患の無い、非喫煙者を取り出して検討すると、総死亡率はBMIが20–25kg/m2で最小になっていました。痩せすぎも、BMI25を超える肥満も、全世界的に、同じく、死亡率が増加することが判明しています3)。

 小太りが長生きと言われますが、やはり限度はあるようです。WHOが示している成人の健康的なBMIの範囲については、20代~50代までは18.5 – 24.9、60代19.0 – 25.9、70代以上19.0 – 26.9となっています。60代を過ぎると、ほんの少し小太りでも大丈夫なようです。

 測りやすい値であるため、研究ではよくBMIが指標とされていますが、筋肉が多くてBMIが高い人もいれば、脂肪が多くてBMIが高い人もいます。筋肉量を正確に測るのは難しいので、やはり歩行速度が大きな指標になります。体脂肪率も、ある程度の目安にはなると思います。家庭の体脂肪計では、体水分量などで値が変動しすいため、一喜一憂する必要はありません。同じ時間に測って、変化を確認しましょう。

 一般的に健康的で、寿命が長くなる体脂肪率は、男性10%-20%、女性20%-30%です。健康寿命の指標として、まずは歩行速度、それからBMIと体脂肪率が参考になるように思います。自分の筋肉を、毎日育てる意識が大事ですね! 忙しいとは思いますが、日々の生活の中に、運動を取り入れてゆきましょう。最後にそのためのポイントを挙げておきます。

1、通勤や通学、買い物、散歩などで、歩く機会を意識して増やしましょう。

2、時間が無い時でも、10分の短い散歩は行いましょう。朝や夕方、昼休みなどに、数回行う習慣をつけることで、筋力低下が防げます。

3、一緒に歩く友人や家族がいると継続が楽になります。

4、歩数計や、歩くと稼げるアプリ、ポケモンG0などの利用も有効です。

5、公園や自然の中を楽しみながら歩いて、同時にストレスを発散し、セロトニン分泌を促しましょう。犬の散歩はオキシトシンも出ますし、毎日のことになるので習慣化には最適です。

6、歩きながら、好きな音楽やポッドキャスト、YouTubeなどを聴くのは、勉強にもなって、楽しいです。蒼野も毎日やっています。

7、ウォーキングイベントもオススメです。ウォーキングシューズを買って参加しましょう。

8、歩けない時には、片足立ちや踵上げ、スクワットなどを、少しでも良いので行いましょう。糖質の多いものを食べた時には、食後に行うと血糖スパイクが防げます。

 筋肉を減らさない生活習慣は、健康を目指す人ならば、誰もが身につけておくべき習慣です。通勤や犬の散歩で毎日1万歩以上歩いているので、以前よりも、随分早く歩けるようになった蒼野でした。

参考文献:
1)Gait Speed and Survival in Older Adults. ; JAMA. 305(1),50-58, 2011

2)Obesity and mobility disability in the older adult. ; Obesity Reviews, 11(8), 568-579. 2010

3)Body-mass index and all-cause mortality: individual-participant-data meta-analysis of 239 prospective studies in four continents. ; The Lancet, 388, (10046), 776-786 2016

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