万人に共通の健康法は存在しない!?

2023/05/04

 健康長寿について調べていて「万人に共通の健康法って無いのかも」と、最近思ったりしている蒼野です。と言うのも、20歳からタバコを吸い続け、117歳でようやく禁煙したジャンヌ=ルイーズ・カルマンさんは、週に1kgのチョコレートを食べ、野菜嫌いで、毎日赤ワインを飲んでいたにもかかわらず、122歳という人類最高齢を達成しています。

 特殊な例と思われるかもしれませんが、アメリカの百寿者研究では、100歳以上の人の50%近くの人は肥満体で、60%の男性と50%の女性は喫煙習慣があり、日常生活の中で、ほとんど運動していない人も50%もいると言う、健康指導するには不都合な真実が、報告されているそうなのです。

 たまたま不健全な生活習慣にも関わらず、長生き出来る、病気にかかる要素の無い最強の遺伝子を持つ人が100歳を達成できると考えることもできます。しかし実際に長生きの人の遺伝子を、調べてみたところ、癌が出来やすい遺伝子も、アルツハイマーになりやすい遺伝子も持っていることが判明しました。その点では、長生きできない人を何ら変わらないのです。

 しかしよく調べてみると、喫煙しても長生き出来る人は、タバコから肺を守る遺伝子の変異が発見されました。喫煙による肺の炎症を抑え、長年の喫煙生活でも、閉塞性肺疾患を発症しないのです。この遺伝子変異を持つことで、持たない人に比べて80%近いリスクの減少をもたらすことが判明しています。

 様々な病気のリスク遺伝子は持っていますが、老化を遅らせるような遺伝子変異を持っているために、病気から保護されている人がいるのです。今までの病気の遺伝子研究は、病気になった人を研究して、病気のもとになる遺伝子を発見することが中心となっていました。これからは発想を転換して、病気になる遺伝子を持っているにも関わらず、病気を発症していない人を、研究する方が、病気の予防や治療に、本当に有効な情報が得られる可能性が高いのです。

 医学が進むことで、最近では、この方法で治療法が発見された疾患があります。エイズは不治の病として、1980~90年台の発見当初は、大変恐れられた病気です。その治療法のヒントになったのは、エイズになった人と繰り返し関係を持っていたのに、エイズを発症しない人々が一定数発見されたことでした。

 エイズはHIV(ヒト免疫不全ウイルス)が、免疫細胞に侵入して増殖することで、感染した免疫細胞が破壊されて、感染者の免疫システムが崩壊してしまうことで死んでしまう病気です。免疫細胞に侵入するときに、ウイルスが結合するCCR5受容体という膜蛋白質があります。ウイルスはCCR5受容体が無ければ免疫細胞内に入れないのです。

 エイズを発症しない人の遺伝子を調べると、CCR5受容体を作る遺伝子に変異が認められ、CCR5受容体が上手く作れない人だということがわかりました。アメリカの白人の10%に認められる変異でした。このことが分かったことで、CCR5受容体を阻害する薬剤が開発されました。

 HIVに感染しても、薬によって、それ以上の感染の拡大が防げるようになり、感染者でもウイルスが増殖できず、一般と同様の寿命が期待できる人が出てきています。HIVのウイルス株によっては、CXCR4受容体を使って感染するタイプのものもあり、CXCR4受容体阻害薬も開発されてきています。これらは発想の転換から生まれた薬なのです。

 この考え方で、治療法を見つけようという研究は現在も進行中です。『レジリエンス(抵抗性)・プロジェクト』と名付けられ、病気に抵抗する遺伝子変異を見つけようという研究が、イギリスのオックスフォード大学で始まっています。これは国家プロジェクトとして2006年から始まり、英国バイオバンクでは既に50万人分の遺伝子が解析され、現在も登録者が追跡されています。

 イギリス恐るべし!本当に頭の良い方法ですし、これからどんどん良い薬が開発されてくるように思います。遺伝子は民族によって違いがあるため、我々に本当に役に立つのは、日本人の研究であるはずです。しかし世界一の高齢国家である我が国での研究は残念ながら、周回遅れになっているようです。遺伝子解析に関しては、中国とアメリカがトップを走っています。

 画期的な糖尿病薬として開発されたSGLT2阻害薬は、この考え方から生まれた薬です。家族性腎性糖尿という、変わった病態の人々がいます。オシッコが含む糖が、非常に多く、まさに糖尿の状態にも関わらず、一切糖尿病の合併症は起こさず、元気な人達なのです。

 腎臓にあるSGLT2(Sodium-Glucose Co-transporter 2=ナトリウム・グルコース共役輸送体)は、腎臓で濾された原尿に含まれる、ナトリウムとブドウ糖を、近位尿細管で再吸収する役割を持った膜タンパク質です。飢餓の歴史を生きてきた我々が、貴重なブドウ糖やナトリウムを、少しでも体の中に溜めておくための装置なのです。

 家族性腎性糖尿の患者さんたちは、遺伝子の変異で、SGLT2が作れません。血液中の糖やナトリウムがドンドン尿として排出されてしまうのです。しかし飽食の時代となった現代では、ナトリウム過剰、糖質過剰による病気の方が深刻です。餓死することはない、今の時代であれば、塩辛いものもや糖質を、思う存分食べても病気にならない羨ましい遺伝子とも言えるのです。

 家族性腎性糖尿の人々は、糖尿病や高血圧にならずに天寿を全うする人が多い、という事実も既に分かっており、薬によってSGLT2を阻害しても、副作用が起こりにくいことも最初から分かります。食べた糖はどんどん排出され、血圧も下がり、血糖値が上がらないため、贅肉にもなりません。遺伝子データを元に、イギリスの会社を中心として、国際研究で生まれた画期的な薬なのです。

 とても興味深い話だと思います。世界中の人の、遺伝子の違いは、人である限り0.1%の違いしか無いと言われています。数にして約300万個の違いです。丁寧に調べてゆけば、病気になる遺伝子を持っていても、発症していない人の遺伝子が発見され、病気にならない薬が作れるかもしれないのです。

 元々の西洋医学は、ばい菌が居るから感染するので、抗生物質でばい菌を殺そうという発想で行われてきました。ずっと西洋医学にたずさわってきて、医学が発達しても、病気を発症すると、完全に元には戻れない人を数多く見てきました。しかしばい菌に晒されても、感染しない人は一定数います。元気で幸せに暮らすには、生活習慣を整えて感染しない人になるという、予防医学の発想が一番大事だと考えて、蒼野は最適な健康法を探してきました。

 様々な身体に良いものを食べて、害になるものを避け、適度な運動と睡眠、ストレスをコントロールして、良好で多様性のある腸内細菌を維持できれば、病気を発症しにくくなると思っていましたが、遺伝子という要素は、これから鍵になるのでしょうね! 西洋医学も予防の方向に大きく舵が切られてきている気がします。 

 遺伝子のちょっとした違いが、タバコを吸いまくっても、お酒を飲みまくっても、糖質を摂りまくっても大丈夫な体質を作ることがあると知ると、やはり万人にとって、絶対の健康法は無いのだと感じます。自分の健康については、色々試して行くしか無いと思いました。

 「~したら病気になるよ」というアドバイスは、これからは控えようと思っている蒼野でした!

参考書籍:  NHKスペシャル 「人体」  遺伝子  医学書院

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