せっかくのゴールデンウィークなので、少し壮大な研究についての解説をしたいと思います。交通事故で、今までできていた事が出来なくなった経験をしてから、仕事に戻れるようになるまで、時間が急に増えたこともあって、大層ではあるのですが、蒼野は”自分が生きる意味”とかを考える機会が増えました。
まだはっきりと結論は出ておらず、色々考えるのですが、人類についてよく知ることが、その答えに繋がると考え、身体のことや心のことを調べ始めました。人類の元を辿ってゆくと、哺乳類であり、生物です。生物がなぜ生まれ、生きているのかが、大きなヒントになるはずです。
生物の起源を辿ると、40億年前に、様々な分子が溶けた海の中で、たまたま結合した塩基が、自己複製できるRNAとなり、一気に数を増やしました。複製の過程では必ずコピーエラーも起こりますので、新種は産まれ続けます。たまたま周囲のRNAを攻撃し、持っている塩基を取り込んでしまう自己複製子が生まれると、それが一気に数を増やします。
コピーエラー(突然変異とも言う)を繰り返しながら、その時の環境に、より適したものが数を増やします。RNAよりも安定しているDNAを遺伝情報に使ったり、それを守るために脂の膜を纏って保護したりするものが現れ、単細胞生物に近づいてゆきます。これは “最後の共通祖先”(Last Universal Common Ancestor, LUCA)と呼ばれています。
地球上の生物は全て、”最後の共通祖先” から進化して、現在に至ります。全ての生物のDNAには、共通の遺伝的要素が確認できるのです。時代が進み、細胞の中にプロテオバクテリアを取り込んで共生を始めるものが現れます。これがミトコンドリアとなり、圧倒的なエネルギーを生み出せるようになり、多細胞生物へと変化してゆくのです。
全ての生物は、自己を複製し、DNAを残そうとします。そうしない生物は絶滅しますからね!今、蒼野はリチャード・ドーキンスの「利己的な遺伝子」と言う本を読んでいます。本にも書いてあるのですが、生命の進化を見ていると、人間も含めて生物は、自分の遺伝子が残ってゆくように作られていると考えるのは、理に適っています。
我々の脳も、遺伝子が残る確率が増えると、嬉しく感じるように出来ていると思います。毎日元気に過ごせれば嬉しいですし、自分の仲間、家族と一緒に居ると嬉しい。成功したりお金持ちになったり、みんなに認められ、モテモテになると嬉しいのは、全て自分の遺伝子を後世に残す確率が増える事柄ばかりだからと考えられます。
逆に、病気にはなりたく無いですし、死にたくはありません。孤独にはなりたく無いですし、いじめられたくも無いです。貧乏も嫌ですし、自分が役に立たない人間だとは思いたくありません。遺伝子が残りにくくなることは、全て避けたいと思っているはずです。
ドーキンスが言った『生物は遺伝子の乗り物に過ぎない』と言うのは、きつい言葉と感じる人もいるかも知れませんが、蒼野は正しいと思います。人間も、自分の持っている遺伝子を、なるべく多く残すために生きている『遺伝子の乗り物』だとしてもおかしくは無いのです。
自分に近い遺伝子は、子孫に残りますし、子孫が残らなかったとしても、他の人が生きてゆくのを助ける生き方は、全ての人類に99.9%共通している、人類の遺伝子を、残してゆくことに繋がります。遺伝子はそうして生きる事を、細胞の一つ一つから我々に命令しているのかも知れません。
ウチのわんこを見ていても思うのですが、毎日生きているのが嬉しくてたまらないのがよく分かります。『生きてるだけで丸儲け』と言うのも、遺伝子としては当たり前のことなのです。我々が、毎日幸せを感じて生きてゆくことは、遺伝子にとっても都合の良いことに違いありません。
最近読んだ論文で、びっくりした遺伝子の秘密は、遺伝子はコピーをわざとミスすることで、生存の可能性を増やしていると言うことです。この論文は人口34万人のアイスランド人のゲノム研究から生まれました。人口密度が極端に少ないアイスランドには、1000年以上に及ぶ家系図の記録が残っています。
アイスランド人は少数の移植者が祖先になっていて、移動も少なかったため、遺伝子の多様性が低く、今までに無かった遺伝子が発見しやすいと言う特徴があります。血縁関係も家系図ではっきりしているため、遺伝子が伝わってゆく過程での、突然変異が検出しやすいのです。
ここに注目した研究者は、15000人のアイスランド人親子のゲノムを解析し、両親が全く持っていない新たな塩基配列を検出しました1)。その数を平均すると、70.3個。これは子供の新たな可能性を示唆する数字です。もちろん我々の中にも必ずある変化だと思います。我々一人一人は常に唯一無二の存在だと言えるのです。
哺乳類の突然変異は8分の7は精子からのものです。適齢期になると精子は1日1億個も作られます。一方卵子は胎児の段階ですでに作られており、増えることはありません。思春期には5万個あって、生理のたびに1000個ずつ減ってゆきます。毎日コピーされ分裂している精子の方にコピーミスが多いのは必然です。
また両親の年齢が上がるごとに、突然変異は増えてゆきます。コピーエラーが蓄積してくるからです。高齢でも精子側の変異が8割を占めています。しかし調べてゆくと、特定の10%の遺伝子領域では、精子と卵子のそれぞれの変異が同等であることがわかりました1)。
この領域に起こることは、チンパンジーには見られますが、ゴリラでは少なく、オランウータンではほとんど見られません。人類が進化の過程でわざと、変異しやすい領域を残していると考えられるのです。もちろんこの変異は、病気につながるものかも知れませんし、その時点の環境では生存に不利になるものかも知れません。
昨日のSGLT2の発見の元になった、家族性腎性糖尿と言う病気は、飢餓の時代にはとても不利な変異だと思いますが、飽食の現代では、有利な変異とも言えるのです、ある意味特殊能力ですよね。世界を見渡すと、びっくりするような才能の元になる遺伝子を持った民族がいます。
インドネシアの海の民「バジャウ」は労働時間の60%を海の中で過ごします。そして誰もが10分以上息継ぎなしに潜水が可能で、60mの素潜りも可能なのです。バジャウの人々は、陸で暮らす人の1.5倍の大きさの脾臓の遺伝子を持っています。酸素たっぷりのヘモグロビンを、脾臓内に蓄えることで、息継ぎなしに海に潜れると言うことです。
また酸素濃度が平地の60%しかない、4000m以上の高地で一生を過ごすチベットの人々は、赤血球の数を増やすことなく、ヘモグロビン量だけを高め、脳梗塞や高山病にかかる事なく、全身に酸素を運べる遺伝子を持っています。厳しい環境で、その遺伝子変異を持った人が残ったのです。
遺伝子はどんな環境にも対応できるよう、わざと突然変異を起こす領域を用意しています。それが1代ごとに70個もあると言うのは、我々全員が、他の人ができない特殊能力のDNAを持っていると考えられますよね! まるで『僕のヒーローアカデミア』や『X-MEN』です。しかし残念ながら、それが病気になりやすい遺伝子であったりすることもあり得ます。
「自分を知る」と言うのは、この「才能遺伝子を探すこと」かも知れません。そして健康法も昨日書いた通り、最適の物は自分で見つけるしか無いようです。人の役に立つ特殊能力が発揮できれば、幸せを感じられるはずです。それは遺伝子が満足していると言うことだと思います。
遺伝子の命令のままに、つまり自分のやりたい事をやってゆく事が、”自分が生きる意味”なのかもなあと思っている蒼野でした!
参考文献:
1)Parental influence on human germline de novo mutations in 1,548 trios from Iceland. ; Nature 549, 519-522 2017
参考書籍: 利己的な遺伝子 リチャード・ドーキンス
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