慢性炎症は万病の元!?

2023/08/16

 色々な健康情報を見ていると、体内の慢性炎症が、さまざまな不調や病気に関係していることが、徐々に明らかになっていると思います。現代の生活は、サバンナの上で暮らし、進化してきた人類の遺伝子にとって、炎症を起こしやすい環境です。今日は慢性炎症と病気の関係について、深堀りしてみたいと思います。

 特に近年、先進国で増えた病気に、この慢性炎症が関わっている可能性があるという仮説を紹介します。後進国では増えていませんが、先進国で特に増えている病気は、花粉症やアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患、肥満、うつ病や引きこもり、発達障害などの精神疾患です。それでは一つ一つ見てみましょう。

 まずアレルギー疾患ですが、これは特定の抗原に対して免疫反応が過剰に働くことで起きる病気です。蒼野も30歳の春に、手術中、急に鼻水が止まらなくなり、手術のマスクがびしょびしょになった日から、スギ花粉症になりました。1961年にはじめて報告された花粉症の患者数は、年々増加の一途をたどり、今や日本人の約3人に1人は花粉症です。

 それ以外にも食物アレルギーや気管支喘息、アトピー性皮膚炎など、アレルギー疾患は増加の一途を辿り、国民の50%は何らかのアレルギーがあるのです。本来は細菌・ウイルス・寄生虫などから身体を守るシステムである、免疫反応が、過剰に働き、本来は害にはならないはずの、花粉や食べ物などに反応してしまうようになったものが、アレルギー疾患なのです。

 たかだか80年程度で遺伝要因が変わるはずもなく、先進国と後進国で発症に差が出ていることを考えると、原因は環境であり、生活習慣と考えられます。有力な仮説として「衛生仮説」という考え方があります。衛生環境が劇的に改善されたため、免疫が訓練されず、特定の物質(アレルゲン)に対して、過剰な免疫反応を起こしやすくなったという説です。

 細菌・ウイルス・寄生虫などを生活環境から遠ざけて、もっと健康になろうとしたことで、病気が増えたとすると、皮肉ですよね! 兄弟が多いとか1)、家畜やペットがいる家で育った子供は、感染の機会が多くなり、免疫が訓練されるために、アレルギー疾患の発症が少ないという論文が報告されています。

 日本では1960年代まで普通に居た、回虫やノミ、シラミなどが居なくなり、それに対抗していた免疫反応が、日常で多く接する物質に対して起こるようになったと考えられています。最近の除菌グッズの浸透も、アレルギーを増やす後押しをしている様です。赤ちゃんの時に、そこらじゅうを舐めるのは、腸内細菌の多様性を増やすために必要ですが、除菌を徹底するとそれができなくなります。

 また近年では、抗生物質の使用で、本来の健全な腸内細菌叢が変化してしまうために、アレルギーを起こしやすくなるとも言われています。必要な場合は仕方がないですが、乳児や幼児には極力抗生物質の投与は慎重になる必要がありますね。免疫反応が起こるということは、そこに炎症が起こると言うことです。免疫の過剰反応状態=体内の慢性炎症なのです。

 次は肥満です。体内に慢性炎症があるということは、免疫細胞から炎症性サイトカインが分泌されている状態です。具体的にはTNF-αやIL-6などのサイトカインが増えています。TNF-αやIL-6は、インスリン抵抗性を増し、体の細胞が糖を取り込めなくなることで、消費できなくなります。余った糖は脂肪に変えられ、蓄積するため、肥満につながります。

 またTNF-αやIL-6は、中枢神経系に作用し、食欲を増加させ、エネルギー消費を低下させます。たくさん食べて、使わなくなれば、必然的に肥満に繋がります。また慢性炎症は腸内細菌にも作用し、デブ菌を増やします。食べ物からのエネルギーの取り込みが良くなり、体重が増えるのです。

 最後は精神疾患です。特にうつ病や不安障害、認知障害などは、慢性炎症と関連しているエビデンスが増えてきています。がんやウイルス性肝炎の治療に使用する炎症性サイトカインの一種であるIFN-αを投与すると、約50%の患者にうつ病が起こります2)。また実験的に体内炎症を起こすエンドトキシンを投与すると、TNF-αやIL-6レベルが上昇し、同時に不安や気分の落ち込みが有意に増えることも証明されています3)。

 メカニズムとしては、体内炎症は、脳内の炎症も引き起こし、トリプトファンからセロトニンが作られにくくなり、トリプトファンからキヌレインが作られる経路が活性化してしまうのです。過剰なキヌレインは神経毒性を持ち、海馬の神経新生を抑制し、認知機能にも影響します。神経新生の減少は、うつ病の発症とも関連しているのです。

 慢性炎症は、脳のストレス反応を制御するHPA軸(視床下部-下垂体-副腎軸)を活性化します。コルチゾールが出やすくなり、ストレスの悪循環が起こりやすくなるのです。また慢性炎症が腸のバリア機能を低下させ、リーキーガットを誘発することで、腸脳相関の点でも脳に影響が出やすくなります。リーキーガットによりさらに、体内の炎症が増悪する悪循環が生まれます。

 体内の慢性炎症の指標として、TNF-αやIL-6によって分化して出てくるTh17 (T helper 17)細胞と、炎症を抑えるサイトカインを放出するTreg (regulatory T)細胞の比率が調べられています。Th17/Treg cell比の増加は、炎症が促進されていることを示します。

 アレルギー疾患や喘息、アトピー性皮膚炎、肥満と糖尿病4)、うつ病やADHDや自閉症、などで調べたところ、全てにおいてTh17/Treg cell比の有意な増加が確認されており、体内炎症が強いほど、重症度が高まることが報告されています。Th17/Treg cell比が高いと、心筋梗塞や狭心症が起きやすくなることも報告されています5)。

 アルツハイマー病や関節リウマチなどの自己免疫疾患においても、Th17/Treg cell比が高くなっているという研究が多数報告されています。今日のブログは分かりにくかったかもしれませんが、平たい言葉で言えば、体内の炎症を示すリンパ球が、体内の炎症を抑えるリンパ球よりも多い状態=体内の慢性炎症の状態が、さまざまな病気の原因の一つになっている可能性が高いと言うことです。

 より便利になった先進国の環境が、我々の免疫応答を狂わせて、慢性的に炎症を引き起こしています。それがアレルギー疾患や、うつなどの精神疾患、発達障害や肥満、心疾患、2型糖尿病、自己免疫疾患、アルツハイマー型認知症などの増加につながっている可能性が高いと言うことです。

 もちろんそれぞれの病気の、原因は様々ですが、共通項目として、体内の慢性炎症があるという事は、意識していると良いと思います。毎日元気に、快適に過ごすためには体内の慢性炎症を抑える生活習慣が重要です。今日は長くなってきたので、慢性炎症対策については、明日のブログで書きたいと思います。

 炎症を減らす生活習慣を増やすことで、近年は、ほとんど花粉症の症状が出ない蒼野でした。

参考文献:
1)Hay fever, hygiene, and household size. ; BMJ. 1989 ; 299 (6710) : 1259–1260.

2)Cytokines sing the blues: inflammation and the pathogenesis of depression. Trends Immunol 2006; 27: 24-31.

3)Cytokine-associated emotional and cognitive disturbances in humans. Arch Gen Psychiatry 2001; 58: 445-452.

4)Th17 and Treg lymphocytes in obesity and Type 2 diabetic patients. ; Clinical Immunology 197 2018, 77-85

5)The Th17/Treg imbalance in patients with acute coronary syndrome. ; Clinical Immunology 127 (1) 2008, 89-97

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