今日は、昨日書ききれなかった、慢性炎症への対処法について書きたいと思います。炎症というのは、病原体や異物、癌化などで変性した細胞などに対して、免疫細胞がそれを排除しようとする反応です。そして排除してしまえば反応は収まるのが普通であり、それが急性炎症です。
狩猟採集生活だった、かつての生活環境では排除しなければならないものは決まっており、炎症が慢性化することもありませんでした。しかし激変した現代生活において、身体の中に入った、様々な新しい物に対しても、炎症反応が起こる様になりました。常に排除するものがある状態だと、炎症は次々と起こり続けて、慢性化します。
例えば狩猟採集時代に、内臓脂肪が溜まっていた人間は皆無です。その時代には、エネルギーが余りすぎて、内臓に脂肪が溜まることは無かったのです。飽食の現代では、その内臓脂肪細胞が分解されると、放出された飽和脂肪酸に反応して白血球が集まり、炎症が起こります。
炎症性サイトカインが放出され、さらに白血球が集まり、サイトカインによって内臓脂肪から遊離脂肪酸が放出されます。これが血流に乗って全身に広がり、広がった先の臓器や組織でも炎症反応を起こし、慢性化するのです。膵臓の慢性炎症は、インスリン分泌を低下させます。また炎症が起こった細胞では血糖の取り込みが悪くなる、インスリン抵抗性が出てきます。つまり糖尿病になりやすくなるのです1)。
血管に炎症が起これば、動脈硬化の原因になります。血管が硬くなったり、狭くなったりするため、高血圧にもなりやすくなります。高濃度の遊離脂肪酸は、LDLコレステロールを上昇させ、HDLコレステロールを低下させます。いわゆる高脂血症も起こってくるのです。いわゆるメタボリックシンドロームの始まりには、慢性炎症が潜んでいます。
内臓脂肪以外にも、慢性炎症の原因があります。人間の免疫の要である、腸の透過性が亢進すると、腸内細菌やその代謝産物、未消化な蛋白質などが、腸壁を通過して体内に入り、血流に乗ります。それを免疫細胞が攻撃するため、全身で炎症が起こります。腸の透過性が亢進する状態=いわゆるリーキーガットは、慢性炎症の大きな原因です。
気道の免疫の要所は、上咽頭です。コロナウイルスや、その抗原も残りやすく、ここで慢性的な炎症が続くと、全身の免疫応答が活性化します。歯周病も同様です。歯茎は口腔内の細菌が直接血流に入り込める唯一の場所です。細菌が運ばれた先の組織や、臓器で炎症反応が起こります。アルツハイマー型認知症患者の脳から、虫歯菌が見つかる場合があり、歯周病がアルツハイマー病の原因の一つになりうることを示唆しています。
喫煙やアルコール摂取も、含まれる有害化学物質の除去のために、炎症反応が起きます。また有害物質が細胞を障害すれば、その排除のためにも炎症反応が起こります。体内で酸化や糖化の反応が過剰に起こると、慢性炎症が起こるのです。昨日書いたように、体内の炎症が亢進した状態では、アレルギー疾患や肥満、精神疾患、メタボリックシンドロームなどの、現代医学だけでは治しにくい病気が出てきてしまうのです。
全国の元気な百寿者を調べてみると、体内炎症レベルが低く、糖尿病と無縁であることが分かっています。慢性炎症が持続すると、中枢神経系や自律神経系、免疫系、代謝系などの生理機能を低下させます。いわゆる老化が進んだ状態となるのです。逆に言えば、慢性炎症への対処はアンチエイジングにもなるということです。
それでは慢性炎症の対処法を説明します。まずは食事です。栄養たっぷりで満足できる食事は、過食にはなりません。現代に溢れている加工食品やファストフードは、添加物や化学物質が炎症を起こします。食欲を増す様にできていることから、カロリーオーバーとなり、内臓脂肪を貯める原因にもなります。まずはこれらを減らしてゆきましょう。
糖質、炭水化物過多の食事は、代謝が落ちてくる年代では、血糖スパイクを作ることで、糖化を促進し、全身の炎症を起こします。余った糖質は内臓脂肪に変わるため、慢性炎症の元になるのです。食べ過ぎないことが重要です。野菜中心に組み立て、中年期以降は主食は少なめで、腹八分目が理想です。
リーキーガットを起こす食べ物は、減らしましょう。甘い飲み物に含まれるブドウ糖果糖液糖や、糖質ゼロの添加物、小麦のグルテンや、牛乳のカゼインは腸に悪い食べ物です。肉やバター、生クリームなどの飽和脂肪も、腸内細菌叢を変化させ、細胞のオートファジーを低下させるため、壊れたミトコンドリアが処理されずに、酸化ストレスが高まりやすくなります。
勿論トランス脂肪酸や、酸化した油も減らして欲しいです。揚げ物が多いと炎症を増すオメガ6脂肪酸を多く摂ることになります。オメガ3とのバランスが取れなければ、体内で炎症が起こりやすくなります。アルコールは消化器や肝臓に炎症を起こします。喫煙は肺から全身に炎症を起こすため、万病の元になります。
逆に炎症を抑えるオメガ3たっぷりの新鮮な魚や、ポリフェノールやフィトケミカルの豊富な、抗酸化作用のある野菜や果物、オリーブオイルなどは積極的に摂りたい食品です。リーキーガットを防ぐ、短鎖脂肪酸を作ってくれる腸内の善玉菌を増やす、食物繊維やプロバイオティックスも重要です。多様な腸内細菌が強い腸内フローラを作ってくれるため、旬の野菜などを含めた多種多様の食事を摂ることが重要です。毎日同じものを食べていると、腸内細菌は偏ります。
食事は手作りの和食、一汁三菜で、多種多様の植物を中心に、魚を食べるのを基本としたいものです。勿論、肉やお菓子も食べても良いのですが、毎日沢山にならない様に心がけましょう。「まごはやさしい」が基本です。忙しい時でも、野菜たっぷりの、具沢山味噌汁は食べる様にしましょう。
十分な睡眠は、炎症反応を低下させます。睡眠不足が続くと、免疫細胞の機能が低下します。サイトカインの生産が増加して、炎症が起こりやすくなり、ストレスホルモンが出続けるために、さらに免疫力は低下します。細胞の修復時間が短くなることから、壊れた細胞での炎症も持続します。自分の年代に合った、十分な睡眠時間の確保は本当に重要です。
適度な運動は、サイトカインの生産を減少させ、免疫力を適正化します。歳を取っても身体が動ける様に、毎日の柔軟やストレッチ、合間合間の肩回しや股関節回しは必要です。そして内臓脂肪を減らしてくれる、週150分程度のウォーキングなどの中強度の有酸素運動と、週2~3回の自重筋トレがお勧めです。運動の時間がなければ階段を使ったり、掃除を頑張ったりするのも有効です。
口腔ケアは必須です。加齢と共に歯周病は多くなります。歯磨きとフロスは忘れず行いましょう。歯茎が腫れて痛まないよう、ケアを続けましょう。上咽頭のケアのための鼻うがいも、炎症対策としても、感染予防としても重要です。ぜひ習慣に落とし込みましょう。
最後はストレス管理です。ストレスは生きている限り生じてきますし、短期的なものであれば問題ありません。しかし慢性ストレスは、コルチゾール分泌が続くことで、免疫力を落とし、慢性炎症を増加させます。考え方の癖を見直し、気持ちを切り替えて、リラックスする時間を大切にしましょう。毎日の良かったことや楽しいことにフォーカスすることが重要です。
注意点が多岐にわたるため、一度には難しいかも知れません。しかし慢性炎症のコントロールは、健康的なダイエットにもなり、毎日快適に幸せを感じながら、長生きするためには本当に重要なスキルだと感じています。できることから、ぜひ取り組んで習慣にしていって欲しいと思います。
これらに取り組むようになって、毎日の体調が40代の時より良くなり、仕事も捗るなあ!と感じている蒼野でした!
参考文献:
1)Abdominal visceral and subcutaneous adipose tissue compartments: association with metabolic risk factors in the Framingham Heart Study. ; Circulation 2007. 116, 39–48
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