睡眠時無呼吸症候群

2022/01/20

 皆様は睡眠時無呼吸症候群(SAS)という疾患をご存知でしょうか? いびきをかいて寝る、というのは普通のことのようなのですが、そこにリスクが隠れています。今日はそのことについて書いてゆきますね!

 睡眠時無呼吸の診断をするには、1時間あたりの無呼吸回数+低呼吸回数(AHI)で分類します。5≦AHI<15が軽症、15≦AHI<30が中等症、30≦AHIを重症と判定します。日本人には、軽症が2,200 万人、中等症以上の成人閉塞性睡眠時無呼吸の有病者数が900万人も存在する、と推測する報告が2019年に発表されており、潜在人数の多い、とてもありふれた疾患でもあります。

 しかし、ちゃんと診断を受けて、適切な治療を受けている人は50万人にも達していません。SASと診断された男性患者385 名で、1時間あたりの無呼吸回数が、20 回/時以下である 142例の 8 年生存率は 96 ±2%であるのに対し,20 回/時を超える104 例 では 63±17%まで低下する、恐ろしい疾患です。ちゃんとCPAP治療を行った 25例の5年生存率は100%でしたので、治療によって、大きく予後が変わる疾患でもあるのです。

 睡眠は本来、日中に活動した脳と身体を十分に休ませるために絶対に必要なものです。しかし、睡眠中に無呼吸や低呼吸が繰り返されると、身体の中の酸素が不足します。それを補うために身体は心拍数や血圧を上げて対応するのです。目は瞑っていて、はっきりとした記憶がない状態であっても、脳も身体も深い眠りには入れずに、断続的に覚醒した状態で朝を迎えることになります。

 その結果、日中に強い眠気や倦怠感、集中力低下などが引き起こされ、さまざまな活動に影響が生じてきます。高血圧となるだけでなく、酸素濃度の低下により動脈硬化も進み、心筋梗塞や脳梗塞を起こしやすくなります。さらに睡眠不足によるストレスにより、コルチゾールの分泌が増す事で、血糖値やコレステロール値が高くなり、さまざまな生活習慣病やメタボリック・シンドロームがひきおこされます。

 逆に高血圧患者さんの多くが、睡眠呼吸障害を合併しているというデータも報告されています。高血圧とSASを合併すると、脳卒中などの脳血管疾患や、心筋梗塞などの心血管疾患の発症リスクが高まります。

 SASの患者さんでは、夜になっても血圧が下がらなかったり、逆に昼間より高くなることがあります。降圧剤を服用していても、血圧が下がらない患者さんの約80%がSASという報告があります。降圧剤で昼間の血圧が正常に近づいても、SASのために早朝や夜間の血圧が上がっている場合もあります。早朝や夜間の血圧が高い人は、心血管疾患や脳卒中のリスクや死亡リスクが高くなるのです。

 睡眠中に、たびたび呼吸が止まってしまうので、そのたびに呼吸を再開させるため、交感神経が働きます。ただでさえストレス社会で亢進気味の交感神経が活性化し続けることで、自律神経失調が慢性化し、血圧が上昇し、メンタルも含めた、様々な不調の原因となるのです。 

 重症のSASの治療としては、CPAP(シーパップ:経鼻的持続陽圧呼吸療法)が使われています。これは寝ている間の無呼吸を防ぐために、機械で気道に空気を送り続けて、気道を開存させておくものになります。CPAP装置からエアチューブを通して、鼻に装着したマスクから気道へと、空気が送り込まれます。

 慣れるまでは眠りにくいかもしれませんが、実際に使い続けている人に聞くと、ものすごく楽になって、機械が手放せないので、旅行の時だって持って行くとのことでした。ぐっすり眠れて、疲れが取れるようになり、朝エネルギーが満タンになるとのことです。

 慣れるまでの眠りにくさ、無意識に空気を飲み込んでお腹が張る感じ、マスクがあたる鼻の周りがかぶれたり赤くなったりする皮膚トラブル、鼻や喉が乾いてしまう 目や口が乾いてしまう 耳鳴りがするなどが、副作用に挙げられていますが、フィッティングや機械の設定の変更で対処可能です。

 軽症から中等症まで治療には、歯科装具(マウスピース)で治療するケースもあります。下あごを上あごよりも前方に出すように固定させることで上気道を広く保ち、いびきや無呼吸の発生を防ぐ治療方法です。重症の方には効果が不十分なことが多いです。

 最後は外科治療ですが、小児の多くや成人の一部で、SASの原因がアデノイドや扁桃肥大などの場合は、摘出手術が有効な場合があります。

 睡眠時無呼吸症候群が怖いのは、やはり突然死です。心血管系の原因で突然死が見られる時間帯は、一般には朝6時から12時が最多ですが、SAS症例では、夜0時から6時が最多となっています。重症SASでは、健常人と比べて死亡する確率は2.6倍と報告されています。日中の眠気が強い人は、交通事故率が高い事も報告されています。

 SASの原因は、睡眠中に気道が狭くなる事です。元々の顎の形や下顎の小ささが影響したり、体重増加によって、あごの周りや首周りが太くなる(脂肪がつく)事や、泥酔して舌根が落ちてしまう事などが影響します。

 顎の形はすぐには対処は難しいのですが、10%の体重増加でSASの重症度は32%増加し、10%の体重減少でOSAは26%減少することから、体重過多でいびきがひどくなっている人は、まずダイエットから始めるのが重要と考えられます。

 SASといえば、肥満した人のイメージが強いのですが、日本人では、4割は肥満ではなく、また約半数は、日中傾眠を感じていませんでした。肥満・日中傾眠の有無にかかわらず、いびきが大きいとか、呼吸が止まっていることを指摘されたことがある人は、全員検査を行うべきであると言われています。

 CPAP治療で死亡率が減少するため、ちゃんと診断して、治療につなげておく事が一番大事なことになります。身近な人でいびきが大きい人、呼吸が止まる人には、教えてあげてくださいね。肥満でなくても、日中眠くなくても、安心はできませんから。

 具体的には、睡眠時無呼吸症候群や睡眠外来の標榜のある専門のクリニックや病院で相談してみてください。いびきを指摘されたため、調べてみると、軽症睡眠時無呼吸症候群だった蒼野でした。

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