群発頭痛!

2022/01/25

 今日は世の中で一番辛い、と言われる頭痛について書いてみたいと思います。あまりの痛みに我慢できず、頭を壁や床に打ちつけたり、海外では耐えきれずに銃で頭を撃ち抜いてしまったケースもあるそうです。片頭痛はきつくて寝込む頭痛ですが、動き回らずにはいられないほどの激しい頭痛で、かつその痛みが毎日、多いときは1日に何回も起こる大変な頭痛が、群発頭痛です。

 群発というくらいなので、ある時期にかたまって頭痛が起こります。群発期に入ると、典型的には、毎晩夜中から明け方にかけて、1時間程度の激しい頭痛発作が起こります。「目玉の奥を火箸でえぐられるような痛み」と表現されたりする痛みです。多くの場合は、片目の奥の激痛で、目の充血や鼻水、鼻詰まり、顔面の発汗や紅潮などを伴います。不眠にも悩まされます。

 頭痛の頻度は1日に1回から、多い人では8回くらい起こります。持続時間は15分から180分くらいです。それが数日から、数ヶ月続きます。有病率は非常に低く、1000人に1人程度と言われています。群発頭痛は20~40代の男性に多く発症しますが、女性に起こらない訳ではありません。ベースに片頭痛を持っていることが多いです。

 頭痛の発作が起こる時期がすぎると、嘘のように全く発作のない時期が、数ヶ月から数年ほど続きます。1回の群発期で治まる場合もありますが、典型的なケースでは10年以上にわたり、半年~2年おきに、群発期を繰り返します。 

 蒼野は頭痛クリニックに勤めるまでは、稀にしかみたことがありませんでした。季節の変わり目や年末などに起こりやすく、一般的な痛み止めが効きません。大酒家やヘビースモーカーに多いと言われていて、寛解期は大丈夫なのに、群発期にアルコールを飲むと発作が起こります。

 ある日突然症状が現れるため、昔のアメリカンインディアンやスカンディナヴィアの一部では、一定周期で流涙を伴う強烈な頭痛を発現させる者を、悪魔が憑いた等の理由で、悪魔祓いや処刑の対象としていたこともあるようです。なんとも気の毒な話です。

 群発頭痛の原因は、まだ確定はされていませんが、視床下部の機能異常が関与していると考えられています。眠ってから2時間ほどで起こることが多く、毎日ほぼ同じ時間帯に起こるのは、視床下部がつかさどる、体内時計が影響しているためと考えられています。

 群発頭痛患者の発作期には、頸静脈血中に、片頭痛でも分泌されるCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)などのニューロペプチドが上昇しており、目の奥の内頸動脈が拡張して、炎症が起こるため、周囲にある三叉神経を刺激することで、群発頭痛で起きていると考えられています。

 発作時の治療は、片頭痛の時にも使う、血管を収縮させて炎症を抑える作用がある、トリプタン製剤を使います。効果発現が早いものでないと効かないことが多く、イミグランの点鼻薬か、イミグランの自己注射キットを使います。注射でなければ効かない人も多いです。

 もう一つの方法は、酸素吸入です。在宅酸素療法といって、業者に頼んで、自宅に酸素ボンベを用意しておいて、発作時にフェイスマスクを装着して、7L/分の酸素吸入をしてもらいます。7分以内に62%で改善がみられ,さらに8~10分後に31%で改善がみられます。

 注射は3割負担で1筒が700円ちょっと、毎日数回使う場合は負担になる価格です。一方酸素ボンベの貸し出しは月3万円かかります。発作が多い患者様の場合は、経済的な問題も馬鹿になりません。そこでなるべく予防薬も併用して、頭痛回数を減らします。

 一般的な予防薬としてはベラパミル(240 – 360mg)をよく使います。回数が減らない場合には、炭酸リチウム(600 – 900mg)を追加します。ひどい発作の場合には、初診時にプレドニン(副腎皮質ホルモン剤)を追加する場合もありますが、プレドニンを使うと、発作期間が長引くことがあると言われています。(免疫力が下がって、ヘルペスウイルスがさらに暴れるため)

 処方してみた感想ですが、ベラパミルは9錠(360mg)まで使うと、結構効きます。発作が数日に1回に減ると、患者様はかなり楽になるようで、喜ばれます。狭心症や頻脈に使う薬なので、徐脈や低血圧、心不全の人には使えないので注意が必要です。

 蒼野はまだ経験がありませんが、TMS治療(磁気刺激治療)は群発期の短縮や1日あたりの頭痛発作の減少などが報告されており、長期的な視点で、なるべく薬に頼らない治療を行いたい場合には有効と言われています。脳の特定部位に磁気刺激を与えることで脳機能を正常に戻す治療法なのですが、まだ群発頭痛に対する保健適用はなく、金額的にハードルが高い治療になります。

 群発頭痛は、珍しいこともあって、普通の内科などでは、診断してもらえず、群発期には仕事もできずに、苦しんだという人も結構おられます。餅は餅屋ではないですが、やはり頭痛専門のクリニックや病院を受診するのが重要と考えます。

 最近ではネットで調べて、自分で群発頭痛ではないかと言われて受診される方も多くなっている印象です。1度経験すると、2度と起こしたくない頭痛のようで、予防のためのワクチン接種について質問されることも多くなっています。

 これは、2007年に 東京女子医科大学脳神経外科客員教授の清水俊彦先生が、反復性群発頭痛患者ではVZV(水痘帯状疱疹ウイルス)抗体価が高いことを発表されたことが始まりです。その後もVZVワクチンの群発頭痛予防効果に関する研究を重ねてその結果が発表されました。

 反復性群発頭痛と診断された患者94例、全例にVZVワクチンを投与し、発作の状況を56カ月間追跡しました。ワクチン接種により「良くなった」と回答した患者では、頭痛予防薬や自己注射などの使用量に減少傾向が認められました。

 また投与36カ月後に行ったアンケートでは、71%が「改善した(発作が起きていない)」と回答、「変化なし」と答えた29%をさらに追跡したところ、56カ月後には63%が「改善した」、26%が「発作は起きたが短期間で改善した」と回答しました。 

 VZVワクチンに関しては、元々帯状疱疹の予防のための薬です。2回の接種が必要なシングリックスという、42000円かかるワクチンと、1回の接種で済む、8000円程度かかる不活化水痘ワクチンの2種類があります。不活化水痘ワクチンは、帯状疱疹の発症を69.8%減らしてくれますが、シングリックスの帯状疱疹予防効果は97.2%です。8〜9年間くらいは有効と言われています。

 効果が良いのではないかとは思うのですが、値段の問題からか、初回にシングリックスを希望される方はほとんどおられません。蒼野のクリニックでは、群発期が終わって、3ヶ月くらい経って、落ち着いた発作間欠期に、希望された方に不活化水痘ワクチンを打っています。

 効果に関しては、ケーズバイケースで、半年ごとに発作があった人が、起こらなくなったので、打ってよかったという人もいれば、ワクチンを打ったのに、3ヶ月で再発したという人もいて、絶対の効果がある訳ではないようです。

 今日は、群発頭痛について、現在蒼野が行っている治療について書いてみました。頭痛や神経の痛みと深く関係している水痘、帯状疱疹ウイルス、単純ヘルペスウイルスについては、今後さらに色々なことがわかってくるのではないかと思っています。

 ヘルペスウイルスが暴れるのは、自分の免疫力が低下した場合です。オミクロンにしても、最後は自分の免疫力が頼みの綱です。栄養、運動、睡眠のサイクルを守って生活してゆくことが、一番重要なことなのだと思います。まだまだ感染が心配な世の中ですので、頑張ってゆきましょうね!

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