巷に溢れる老化加速物質!

2023/05/24

 今日は現代社会に溢れている老化物質、リンの話を書きたいと思います。リンは我々にとって必須のミネラルであり、我々の堅牢な歯や骨を作っているヒドロキシアパタイトの原料の一つです。骨の70%、歯のエナメル質では96%がこのヒドロキシアパタイトでできています。これは化学的には、カルシウムとリン酸から成る結晶で、非常に硬く、耐久性があります。

 海で生まれた生物は、何億年もかけて陸に上がれる様に進化しました。最初の魚はコラーゲンとプロテオグリカンというタンパク質で出来た軟骨魚類でしたが、これがリン酸とカルシウムを原料とする硬骨魚類に変化し、そして重力に負けない骨格が作れる様になったのです。

 リンは歯や骨だけでなく、様々な働きを持っています。RNAの原料でもあり、またエネルギーそのものであるATPはアデノシン三リン酸です。血液中のPHを調節する役割もあり、リン脂質は細胞膜を作ります。神経伝達物質や、様々な酵素の原料としても使われています。

 非常に重要な役割があるため、血液中のリン濃度は厳密に保たれています。多すぎれば排出し、不足すれば骨から供給されます。副甲状腺から分泌されるパラトルモン(PTH)というホルモンは、骨のカルシウムとリン酸を溶かして、血液中に供給します。医学部では骨から取るもん、パラトルモンと覚えたのを思い出します。腎臓からのカルシウム吸収も促進します。

 逆に甲状腺から分泌されるカルシトニンは、骨吸収を抑制し、カルシウムの腎臓排出を促し、消化管からのカルシウムの吸収抑制を行い、血中のカルシウム値を下げるのです。リン濃度が高まった場合には、フィブロブラスト成長因子23(FGF23)というホルモンが、骨から分泌され、腎臓の受容体と結合することで、腎臓からのリン酸排出を促します。

 自治医科大学 抗加齢医学研究部教授の黒尾 誠先生が、遺伝子操作の動物実験中に、非常に早く老化するマウスが見つかりました。その原因は何年も不明でしたが、その遺伝子が、腎臓のFGF23受容体をコードしていることが判明しました。血中のリン酸の値が上がっても、この遺伝子が機能していない場合には、分泌されたFGF23が、リン酸の腎排泄につながらず、血中のリン酸の高値が続いてしまうのです。

 まだ確定したメカニズムは分からないのですが、長期間の高リン酸血症は、細胞の酸化ストレスや炎症反応を高め、DNAを損傷したり、代謝の異常が起こったりすることで、細胞老化が加速すると言われています。血中のリン酸がカルシウムと結合し、カルシウムリン酸塩結晶となると、血管壁に沈着して硬化させたり、血管内皮を損傷したりします。それも細胞老化の原因の一つと考えられています。

 高リン酸血症はATP産生にも影響して、細胞のエネルギー代謝が上手くいかなくなる可能性も指摘されています。血中のリン酸濃度は高過ぎてもいけませんし、低すぎると骨から溶け出すので、骨粗鬆症の原因となります。健康長寿のためには、狭い範囲にコントロールされていることが必要なのです。リンが老化加速物質であることは間違いない様です。

 蒼野が手術してきた、動脈硬化の強い人の中には、血管壁が石みたいに硬い人もおられました。血管壁にカルシウムリン酸塩結晶が、溜まってしまった状態なのですね! まさに動脈が硬くなる『動脈硬化』なのだと思いました。高リン酸血症は血管を老化させる一つの原因です。

 蒼野としては、リンをあまりたくさん食べたくないなあと考えてしまいます。リン酸は様々な食べ物に含まれています。動物性の食べ物では、牛や豚や鶏などの食肉、魚やエビカニなどの魚介類、ミルクやチーズ、ヨーグルトなどの乳製品、豆類や、玄米や小麦などの全粒穀物などには、有機リンが含まれています。

 動物性食品からのリン酸の吸収率は、比較的高く(約60-70%)、一方で、植物性食品からのリン酸の吸収率は比較的低い(約20-50%)とされています。植物性食品に含まれるリン酸は、フィチンという化合物に結合しており、フィチンは人間の消化酵素により分解することができないため、吸収率が悪くなる様です。

 それよりももっと危険な食べ物があります。リン酸塩は食品の賞味期限を延ばすため、食品の風味や色を改善するため、または保存料として加工食品に広く使用されています。~リン酸塩と表示のある食べ物は、皆様目にされたことがあるのではないでしょうか。添加されているリン酸は無機リンで、実はほぼ完全に(90-100%)吸収されてしまいます。

 冷凍食品、ピザ、パスタ、揚げ物、ファーストフード、ハムやソーセージ、ベーコンなどの加工肉、加工されたチーズにも多く含まれています。飲み物でも色の濃いコーラなどの炭酸飲料、カップ麺やカップスープなどのインスタント食品、レトルトタイプの食品、シリアル類などには、この無機リンがたっぷり含まれているのです。

 吸収されたリン酸は、血中のリン酸濃度を高めます。身体はこれを排出するために、FGF23を分泌し、腎臓からの排泄を促します。全身のリン酸が集まってくる腎臓、中でも濾過されて濃くなったリン酸にさらされるのが糸球体です。糸球体は生まれてからずっと働き続けている組織の一つでもあり、加齢と共に機能が低下するという宿命がある臓器です。

 蒼野が診ていても、お年寄りは腎臓が悪い人が多いです。糸球体が高濃度のリン酸や、カルシウムリン酸塩結晶で常に痛めつけられれば、腎機能の低下は加速します。現代生活の中で、我々は数々の加工食品を口にする様になりました。実はそれらが、我々の腎臓を痛めつけ、老化を加速しているとしたら恐ろしくないでしょうか? 現代の日本では、誰もが必要量をはるかにオーバーしたリン酸を摂取しているのが現状です。

 特に腎機能が悪くなりかけている高齢者は気をつけなくてはいけません。基本的には、吸収率の低い植物性の食品の比率を増やすのが重要です。特に大豆のリン酸は、フィチン酸との結合が強く、ほとんど吸収されません。腎臓が悪くなったら、出来るだけ豆腐などからタンパク質を摂ることが勧められます。

 リン酸には、味もニオイもありません。目に見えるわけでも無いのです。商品によっては表示のないものもあったりします。ゼロには出来ないことは認めた上で、いかにもリンが多そうな食べ物を減らしてゆくのが、具体的な対処法となります。

 1、ハム、ソーセージ、ベーコンなどを減らす。

 2、魚肉ソーセージ、かまぼこ、練り物などを減らす

 3、元の素材やかたち」ば見える商品を選ぶ

 4、カップラーメンを減らす

 5、「とんでもなく日持ちがするもの」は買わない

 6、スナック菓子を食べるなら、個包装のものを選び、一袋食べたりしない

 7、色の濃いお菓子、カラフルなお菓子は避ける

 8、ファーストフードの回数を減らす

 9、加工食品を食材で使うときは、下茹でしたり、茹でこぼしたりする

 10、値段が安すぎる食べ物は選ばない

 などが、対処法になるでしょうか? 表示に「○○料」「○○剤」と沢山書いてある物はなるべく避けましょう。リン酸が多いと、血液中でカルシウムと結合してしまうため、カルシウム濃度が低下し、骨からカルシウムが溶け出します。骨粗鬆症の原因にもなりますので、50歳を超えたら出来るだけ手作りの料理を食べたい物です。植物食中心にすれば完璧です。

 加齢と共に減ってゆく糸球体は、ほとんど分裂・増殖する能力がありません。高齢者や高血圧、糖尿病など糸球体を痛めやすい人は、透析にならないためにも、加工食品をなるべく減らすことから始めましょう。もちろんいつまでも若々しくいたい人なら尚更です。

 新しい知識で、スーパーでの食材選びがますます難しくなりそうな蒼野でした 

参考書籍: 『腎臓が寿命を決める 老化加速物質リンを最速で排出する』 黒尾 誠

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