現代の疾患を減らす古代のライフスタイル!

2023/05/23

 人類も生物の一つで、ホモサピエンスになってから、約200万年の間、厳しい自然環境の中で生き延びてきたと考えると、生き延びるために進化した遺伝子は急には変わらないはずです。農耕生活に入ったのが1万年前ですから、そこから急速に食べるものが変わりました。さらにその後の急速な文明発達により、環境自体の変化は、遺伝子がついて行けない程変わりました。

 それが現代の病気=生活習慣病の原因として、大きな要因となっているという論文がありました1)。今日はその論文について解説してみたいと思います。旧石器時代に我々の遺伝子に刻み込まれた要素としては、身体活動、食物が有効に活用出来る代謝システム、日光の中での活動、睡眠などが挙げられます。

 常に生き残りのために、人間の遺伝子も変異してきているのですが、農業革命以後の遺伝子変異の主なものは、病原体、致命的な疾患、過酷な環境などに対するもので、現在問題となっている、運動不足や食事の偏り、屋内での生活や睡眠不足などは、歴史が短く、新し過ぎる変化のため、まだ対応する遺伝子変異は起こってはいません。

 例外としては、乳糖に強くなる遺伝子変異=「成人のラクターゼ持続(ALP)」が挙げられます。大半の人間は、乳児期までは母乳の乳糖を分解するラクターゼが産生できますが、離乳後は失われるのが普通です。しかし乳製品を多く消費する北西ヨーロッパや一部のアフリカ人、ベドウィンの牧畜民地域など、世界の35%の人では、乳糖不耐症の症状が出ないような遺伝子変異が多くみられるのです。

 11000年前からの世代交代は366世代に過ぎません。現代の生活に合わせて遺伝子を変えるには、短すぎる期間しか経っていないのです。タイムマシンはまだ存在しないので、本当の意味での旧石器時代の生活スタイルは分からないのですが、世界各地に残る、現代生活にほとんど影響を受けていない狩猟採集民の生活スタイルと健康状態が、その裏付けにもなると考えられます。

 例えばパプアニューギニアのキタバ人は、主に根菜、果物、魚、ココナッツを食べて生きています。穀物、砂糖、酒はほとんど摂りません。体力を使う日常的な活動を行い、社会的に助け合いながら、ストレスの少ない生活を送っています。その結果、動脈硬化、心臓病、脳卒中、高血圧、糖尿病、肥満などの、生活習慣病の発症はとても少ないことが報告されています。

 その他にも、アフリカのサン人(ブッシュマン)、ピグミー、北極圏のイヌイット、オーストラリアのアボリジニや、アマゾンの原住民アヤワワ族やヤノマミ族などが、いわゆる狩猟採集民族です。しかしこれらの地域に、文明がもたらされ、加工食品や工業製品が入ってゆくにつれて、先進国と同様の病気(慢性退行性疾患=生活習慣病)が増えてくるのは、やはりライフスタイルと健康が密接に繋がっている証拠です。

 狩猟採集生活時代と比べて、現代人が長寿であるのは、現代の食事や生活様式のためではなく、衛生状態が良いために感染症が減ったこと、ワクチン接種が行われていること、抗生物質の発達や、飢える事がなくなったこと、医療サービスの充実、外傷の機会の減少などによって、若い人の死亡が減ったことが大きいとされています。

 現代残存する狩猟採集生活者は、若い頃に死ぬもの(幼児死亡)を除けば、その平均年齢は68~78歳であり、ピンピンコロリのライフスタイルです。遺伝子に合った生活を続けている事で、現代人のように60歳を境にどんどん病気が増える事はなく、高齢になっても、肥満や2型糖尿病、痛風や高血圧、虚血性心疾患や癌などにかかる人は稀なのです。近年若い人にもこれらの病気が増えてきていて、死ぬ前10年は介護状態となる現代人とは対照的です2)。

 それでは旧石器時代と比べて、現代の生活では何が急速に変わったのでしょうか。飽食の時代と言われるように、豊かになり過ぎたものがあれば、一方便利になり過ぎて減ったものもあります。昔は無かったものが多く出回る様になり、かつての環境に合わせて変異してきた遺伝子にとって、環境の中で多すぎるもの、少なすぎるもの、新すぎるものがあることが分かります。

 多すぎるものの例としては、食事回数、摂取カロリー、糖質・炭水化物、オメガ6脂肪酸(揚げ物、加工食品など)、塩分や飽和脂肪酸、座位時間などが挙げられます。少なすぎるものの例としては、食物繊維、オメガ3脂肪酸、抗酸化物質、ビタミン、ミネラル、タンパク質などです。日常の運動や睡眠時間が、少なくなっているのも間違いなさそうです。

 そして過去に無かった物としては、トランス脂肪酸や食品添加物、農薬成分の残る食べ物、人工甘味料、ブドウ糖加糖液糖やスマホなどのブルーライトや電磁波、環境内の化学物質や汚染物質、レントゲン被曝などが挙げられます。長期間の身体への影響についてもよくわからないものが多いのです。

 遺伝子が本来の力を発揮し、自然治癒力を最大限にする生活は、多すぎるものを減らし、少なすぎるものを増やし、過去に無かった物には、慎重になることです。便利だからこそ普及しているものも多いため、ストレスを余計に溜めないためにも、頑なに拒絶する必要はないとは思います。しかし全体としては、こういうかつてのライフスタイルに近づけてゆく機会を増やす事が、一番健康的であろう、と蒼野は思います。

 人によって、取り入れられる習慣とそうでないものがあることは、蒼野も承知しています。まずは睡眠時間を優先して確保することと、運動の習慣をつけること、加工食品の割合を減らすことの3つはぜひ取り組んでいただきたい事になります。最初から、全部を完璧にしなくて大丈夫です。

 我々の脳自体も、旧石器時代の考え方がデフォルトとして残っているため、新しい事に挑戦するという事にはとても抵抗があるのです。新しい、知らない土地で獲物を探すよりも、いつもと同じ土地で食べ物を探す方が敵に会う確率は少なかったからであると言われています。人間は急にはライフスタイルを変えられません。ベイビーステップで少しずつなら脳が許容してくれます。

 睡眠時間は最低6時間、出来れば7~8時間を心がけましょう。しっかり眠れば食欲も落ち着き、糖質や脂質の過剰摂取が防ぎやすくなります。毎日の就寝と起床のリズムを大切にしましょう。次の運動は取り組みにくい人は多いですよね! ちょこちょこ運動が効果的です。タイマーや砂時計を使って15~30分に1回、机から立ち上がりましょう。肩回しと体回しと側屈を行い数回スクワットを行うだけで、仕事の効率も戻りやすくなります。

 夕食後の散歩は特に、ダイエットには効果的です。血糖値が上がりにくくなり、太りにくくなります。もちろん朝散歩は最高です。1日が清々しくスタートできますし、セロトニンが分泌され気分も良くなります。夜の良眠にも繋がるので、ぜひ習慣にしてもらいたいと思います。運動の習慣はなかなか付きにくいと言われていて、3~4ヶ月はかかるので、休んだからといってもうダメだと思わず、できる時にやろう、からでも良いので、歩き続けましょう。蒼野は毎日歩かないと気持ち悪いレベルまで、身についています。

 加工食品については、時間の無い時や、どうしても食べたい時には、美味しく食べて下さい。しかし毎食にしない事が本当に重要です。加工食品は我々の食欲を増進させるために、糖質過多、脂質過多のものが圧倒的に多く、添加物もてんこ盛りです。原始人が食べていたであろう食材を、なるべく取り入れる食生活を心がけましょう。

 こういうこともちゃんと論文があるのですね! 遺伝子が喜ぶ生活を送れば、幸せを感じやすくなります。食事はずっとこだわってきましたが、事故に遭ってから、それ以前に比べて睡眠と運動が劇的に変化し、毎日幸せが感じられる様になった蒼野でした。

参考文献:
1)The western diet and lifestyle and diseases of civilization. ; Research Reports in Clinical Cardiology 2011 :2 15–35

2)Comparison with ancestral diets suggests dense acellular carbohydrates promote an inflammatory microbiota, and may be the primary dietary cause of leptin resistance and obesity. ; Diabetes, Metabolic Syndrome and Obesity 2012:5 Pages 175―189

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