今日は腫瘍内科医の押川勝太郎先生が監修された『「抗がん剤は危ない」って本当ですか?』の出版記念講演会をオンライン視聴し、同じ医療者として、沢山知らない事を知り、気づきを得たので、ぜひ書いておきたいと思います。
よく知らないというのは恐ろしいなあと思います。蒼野の父は、中学生の時に広島で被爆し、蒼野が覚えているだけでも4カ所くらい癌の手術を受けています。皮膚癌や耳下腺の悪性腫瘍は早期の治療で事なきを得ましたが、70代になってからの、食道癌と肝内胆管癌は、大きな手術でした。術後の化学療法(抗がん剤)を受けたのですが、余りに辛そうなのが見ていられずに、1回だけでその後の治療はお断りしました。
蒼野が行ってきた悪性脳腫瘍の標準治療でも、可哀想だった思い出しかありません。当時は手術して、放射線治療+化学療法を行っていました。患者様は、白血球が下がり、だるさとキツさを訴え、調子が良い時期に短期間退院は出来るものの、余命の大半を病院で過ごす時代でした。当時の抗がん剤は、腫瘍細胞は殺しますが、血液細胞や毛母細胞なども同時に障害する物しかなく、当時はもし身内が悪性脳腫瘍になったら、抗がん剤は使いたくないと考えていました。
近年、免疫療法をはじめとする、新しいがん治療には、目を見張るものがあり、医学は進んだなあと思っていました。しかし抗がん剤治療に対する悪いイメージは、まだ根強く残っており、昨日までは、自分が癌になったら、予後が短くなっても、抗がん剤は使わずに、出来るだけ自宅で過ごしたいと、正直考えていたのです。
しかし押川先生の話を聞き、本を読むと、それは間違いだった事に気付かされ、抗がん剤のイメージが変わりました。医師に色んな人がいるのは、色んな病院で見てきたので知っています。西洋医学の悪いところは、病気がターゲットであり、病気を治すのにはどうしたら良いかという教育しかされていない事です。
癌の治療医は、出来るだけ癌を取り去ったり、取りきれなかった部分を小さくすることに執着しやすく、癌に罹った患者様の生活を親身に考えてくれる医師というのは、あまりお目にかかった事がありませんでした。データを見て、まだ余力がありそうなら、出来るだけ腫瘍をたたける治療を選択するのが良いと考える医師が多いという事です。
機械を治すのなら、悪い所を徹底的に無くすのが最善かもしれませんが、人間は違います。基本的に癌細胞を殺す薬は、正常細胞にとっても良い物ではありません。大なり小なり副作用が出やすい薬なのです。癌が転移し、取り切れない状況で、副作用が出てもどんどん使うというのは、その人の残りの人生を考えると、選択すべきではないと思っていたのです。
しかし今回蒼野が知ったのは、癌患者の残りの人生の質を第一に考えて、出来るだけやりたい事が出来るようにサポートしながら行う癌治療です。押川先生は、残った癌と共存し、どんどん大きくなって症状が出ないように、抗がん剤を使いますが、患者様自身の自覚症状に辛い副作用が出ない程度の容量を探りながら行っていると話されていました。
副作用の少ない抗がん剤や、副作用を抑える制吐剤などは、近年すごく発達してきており、癌の遺伝子検査を行うことで、一番効く抗がん剤を選べるようにもなっています。抗がん剤の治療成績に関する、さまざまなデータからも、抗がん剤を拒否するよりも、使った方が、やりたい事ができる幸せな時間が長くなる可能性が高いという事なのです。
印象的だったのは緩和ケアをしている有名な医師が、癌になり、抗がん剤を使ったときも、その辛さを実感して、抗がん剤を否定する発信を行ったという話です。昨日までの蒼野も、その本を読んだら、深く納得してしまい、もし自分や身内が癌になったら、抗がん剤を使わない治療を選ぶと思います。
でも押川先生のように、癌患者の生活を第一に考えてくれる治療方針であったなら、辛くない少量の抗がん剤治療で、有意義な時間が長くなるのでしょうね! 最初から患者様の生活の質を重視し、緩和ケアも一緒にしてゆくという「アクティブ緩和ケア」という発想は目から鱗が落ちました。蒼野は、治療する手段がなくなったら行うのが緩和ケアだと思い込んでいたからです。
もし昨日までの蒼野が癌になったら、情報を探してネットの波を彷徨うでしょうね。元々の健康オタク気質もあって、何とか自分に合うと思う、標準治療以外の、副作用が少なくて、理論上効果がありそうな先進医療を探し回ったと思います。その治療が高価だったとしても、「高価だけに効きそう」と思ってしまったに違いありません。ねぎを背負った鴨ですよね!
押川先生が言われるように、癌自体も様々で、患者自身の身体も様々ですから、他人の経験談は、自分には当てはまら無いというのは、冷静に考えればわかります。ネット情報では、標準治療が上手く行った人は発信する必要が無く、何らかの不満や、訴えたい気持ちを持った人が発信するので否定的な意見が大勢を占めるというのは、その通りだと思いました。
沢山悲しい情報を見ると、人は不安になります。しかし癌の標準治療はどんどん進歩しており、治験結果を見ると、確かに現時点で、有意差の出た最善の治療であることは間違いないのです。標準治療で死ぬ思いをしたとか、普通の生活が出来なくなったとか、頑張ったのに再発したという不幸な記事は、治療の優先順位が違っているからだと、押川先生は言われます。
日本人の死因の第一位は、癌です。生涯のうち2人に1人は癌になるという統計もあります。蒼野が子供の頃、悲劇的なドラマは、不治の病=癌が描かれていることがほとんどでした。なりたく無い病気ですが、もし四人家族であれば、誰も癌にならない家庭は10に一つよりも少ないのです。長い人生では、癌と向き合う場面は、必ず出てきそうです。
癌になった時のことを、ちゃんと知っておく必要がありますね。それまでの知識やネットの情報で、治療の判断を誤ってしまう人は沢山居られる様です。癌は進行していれば、完治を目指す疾患では無いことを知り、人生の質を担保しながら、残された時間を目一杯楽しむのが最善です。それを指導してくれる、押川先生のような腫瘍内科医がいてくれるというのは本当に心強いです。
ただそんな先生はあまり沢山は居ないのでは無いかなあと、医師の目で見ても、思ってしまいます。「医は仁術」と言いますがそうでも無い先生、患者様とコミュニケーションを取らない先生を、山ほど見てきたからです。医師の取るべき優先順位は、病気を完治することではなく、患者様の幸せをサポートすることだ!と蒼野も思います。押川先生の考え方がもっともっと広がって、そんな先生が増えると良いですね。
人間はいつかは死にます。考えようによっては、心臓や脳卒中で突然死するよりも、癌という死に方は良い死に方かもしれません。しっかり準備できて、残った人生を目一杯楽しむ時間もあり、周りの人に感謝する時間が残っているからです。苦しまずに人生のアディショナルタイムを伸ばせる治療が、標準の治療になるまで、押川先生の知識は、まず患者側が頭に入れておくべきだと強く感じました!
参考書籍: 押川先生、「抗がん剤は危ない」って本当ですか? 押川勝太郎 おちゃずけ
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