食欲の不思議!

2021/11/18

 生き物はどうやって健康を維持し、繁殖しているのか? その大きな要素が食です。何をどれくらい食べれば健康を維持できるのかについて、自然界が出した答えは、生き物は計算なしに栄養素をベストバランスで食べているということです。

 ベストバランスで食べるための能力が、食欲です。単細胞生物である粘菌は、餌となる培地で、タンパク質対炭水化物比が2:1になる部分で最も成長し、それ以外の比率の培地ではコロニーを形成しません。

 オックスフォード大学でのバッタの実験では、バッタには強烈な、タンパク質欲があり、タンパク質と炭水化物の比率を変えた餌を与えた場合、様々な割合の餌がある場合には、どのバッタも、食べたタンパク質と炭水化物の割合は、全く同じでした。

 高炭水化物で、タンパク質の割合が低い餌を与えられたバッタは、成虫になるまでに、通常よりも時間がかかり、しかも肥満になっていました。一方、低炭水化物で、タンパク質の割合が高い餌を与えられたバッタは痩せすぎており、成虫になるまで生き延びる可能性が低かったのです。バッタには成長と生存を、最も促進する炭水化物とタンパク質の比率が存在し、それが達成しにくい場合には、タンパク質を重視して食べることが分かりました。

 その後の実験で、ゴキブリや蜘蛛、犬や猫の場合でも、制限がなければ、炭水化物とタンパク質の比率が、一定となるように食べていました。偏った比率の餌の場合には、タンパク質が基準に達するように、肥満になるのも厭わずに食べたり、カロリー不足になってもタンパク質が基準値をクリアすれば、食べずに痩せたりするのです。

 生物は食欲に従って食べれば、タンパク質欲を満足することを最も重視していることが分かりました。それが人間にも当てはまるかどうかの実験も行われました。スイスの山小屋に集められた大学生の被験者は、二日間はビュッフェで好きなものを食べ、それを含まれる栄養と共に記録しました。次の二日間は二つのグループに分けられ、低炭水化物、低脂肪、高タンパクの食材のビュッフェと、高炭水化物。高脂肪、低タンパクの食材のビュッフェで食事を摂りました。

 最初の二日間は全員、タンパク質比率は18%程度の摂取になっていました。次の二日間は、二つのグループは共にタンパク質比率は18%をクリアするだけ食べていましたが、高炭水化物グループの摂取カロリーは35%増加しており、低炭水化物グループの摂取カロリーは38%減っていたのです。

 人はバッタと同じように、ターゲットになるタンパク質をクリアするように食べていることがわかりました。人間の食欲も、他の生物と同じであり、成長と繁殖のために、最も大切なタンパク質が、満たされるだけ食べていたのです。

 このことから、近年の肥満率の増加の原因がはっきりしてきました。1961年から2000年にかけて、アメリカの平均的な食事組成で、タンパク質比率は14%から、12.5%に減少しています。人間は必要なタンパク質を食べるために、カロリーを増やしてでも、沢山食べているということです。

 興味深い事に、タンパク質が不足する食材を多く食べている人は、スイーツではなく、旨味のあるしょっぱいスナックなどを好み、その分が増加した余剰カロリーになっていたのです。旨味や塩味がするものは、昔からタンパク質を多く含む食べ物でした。体がタンパク質を欲し、食欲と味覚に騙されているという事なのです。

 逆に高タンパク食にすれば、人はタンパク質の過剰摂取を避けるために、炭水化物と脂肪の摂取量を減らすのです。痩せようと思うのなら、高タンパク食が有利になります。

 しかしタンパク質の過剰摂取も好ましくは無い面を持っています。ショウジョウバエを使った実験では、高タンパク、低炭水化物食のハエは早死にし、低タンパク、高炭水化物のハエは最も長生きしました。適正なタンパク摂取のハエは、最も多くの卵を産んだのです。

 その後マウスでの大規模研究が行われました。低タンパク質、高炭水化物のマウスが最も長寿で、健康状態も良いこと、繁殖能力が最も高かったのは高タンパク質、低炭水化物のマウスでした。

 ブルーゾーンと呼ばれる超長寿地域に暮らす沖縄の人の食事も、蛋白質9%、炭水化物85%、脂肪が6%と、実験最長寿のハエやマウスが摂取していた比率と、ほぼ同じなのも偶然では無いでしょう。しかしその地域では、炭水化物が多くても、肥満が少ない理由は、豊富な運動と、主食が、精製穀物ではなく、サツマイモなどの、食物繊維がとても豊富な食事を摂っているためでした。食物繊維が多いと食欲のタンパク質欲が抑えられることが分かっています。

 低タンパク食がオートファジーを活性化することも、既に分かっています。私たちは、食欲をコントロールする食べ物を、うまく選ぶことで、寿命を延ばすことも、縮めることも、繁殖を促進することも、阻害することも、筋肉量を増やすことも、減らすこともできるのです。

 蒼野はオートファジーのために、朝食抜きの16時間ファスティングを、夏前から続けているのですが、筋肉が減りやすいため、タンパク質は多めに摂取し、筋トレは続けています。タンパク質で食欲が満足されるために、食べ過ぎることが無いことと、飲酒が減ったこと。毎日1万歩程度歩くことから、何も我慢はしていないのですが、本日タニタ食堂で測定した体脂肪率は、9.4%まで下がっていました。気力も体力も上がっているので、しばらくは続けてみるつもりです。

 ただ欲を言えば、もう少し筋肉はつけてゆきたいかなと思ったりもします。食事に関しては、何が正解なのかは分かりません。人生を楽しんで生きていきたいと思っていますので、今後も食欲をコントロールしながら、何をどれだけ食べていくのかは、考え続けてゆきたいと思います。

 次回は食欲を狂わせる、加工食品について、もう少し詳しく書きますので、また一緒に勉強しましょう。

参考書籍: 『科学者たちが語る食欲』 食べすぎてしまう人類に贈る食事の話

 デイビッド・ローベンハイマー、 スティーブン・J・シンプソン

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