身体に良い脂質、悪い脂質ついて調べていて、蒼野が最近知ったことについて書きたいと思います。脳の発達やメンテナンス、メンタルにも大きく影響するBDNF(脳由来神経栄養因子)がオメガ3脂肪酸によって分泌されるらしいのです。BDNFが多ければ、脳は衰えずに良い状態が保てます。”魚を食べれば頭が良くなる~”というのは脳科学的にも、裏付けが取れたことになります。
まずは動物実験です。脳に外傷性脳損傷を加えたラットでは、脳に炎症、酸化ストレスが高まり、認知機能が低下します。それに伴ってBDNFレベルが低下します。通常食群とオメガ3強化食群に分けて4週間観察したところ、オメガ3強化群では、BDNFの値が正常化し、脳の保護、神経機能レベルの維持に寄与していました1)。
次の研究は人間です。うつ病を患う小児が、オメガ6/オメガ3の比率が高いことに注目し、血液を調べたところ、オメガ6/オメガ3が高いほど、体内の炎症、血栓形成に関与するトロンボキサン(TXB)が上昇していました。そしてオメガ6/オメガ3が低いほど、BDNFの血中濃度が高くなることがわかりました。58人に対する、オメガ3の魚油乳剤補充のランダム化比較試験を12週間行ったところ、オメガ3補充を行った群では、TXBが下がり、BDNFが上昇していました2)。
人の海馬がオメガ3脂肪酸であるDHAで増えたという論文もあります。健康な中高年成人を対象に、DHAを含むサプリメントを16週間摂取した場合の効果を調査しました。その結果、DHAを含むサプリメントを摂取したグループは、プラセボを摂取したグループと比較して、海馬体積が増加し、認知機能の改善も見られました3)。海馬を増やすのには、BDNFが関与しています。
認知症の始まりである軽度認知障害(MCI)では、やる気がなくなり、メンタルも鬱々としてくる場合が多いです。MCIの高齢者を3群に振り分けて、6ヶ月間ランダム化試験が行われています。EPAの多いオメガ3脂肪酸群とDHAの多いオメガ3脂肪酸群、リノール酸の多いオメガ6群です。
総勢40名の小規模な試験ながら、うつ病のスコアはリノール酸群に比べ、EPA群とDHA群で有意に改善が見られ、さらにDHA群では言葉の流暢性が高まりました。参加者の自覚症状としては、DHA群で元気になったと感じる人が多い結果でした。6ヶ月では、認知機能自体の改善には至っていませんが、うつが改善して、活動的になれば、認知症の進行も遅らせることができると考えられます4)。
これらを見ると、やはり魚を食べると、頭が良くなるし、メンタルも良くなるようです。そのメカニズムの一つが、BDNFです。BDNFは、神経細胞の成長と発達を促進することで、神経結合の形成や維持に関与しています。記憶の中枢の海馬を増やすのもBDNFの役割の一つです。
海馬が圧倒的に減少するアルツハイマー病などの神経変性疾患では、BDNFの減少が報告されており、認知機能の低下と関連していると考えられています。またメンタル疾患、特にうつ病などの精神疾患では、BDNFの減少が観察されています。抗うつ薬の一種であるセロトニン再取り込み阻害剤 (SSRI)は、セロトニンを増やす事によって、神経細胞のシグナル伝達に影響を与え、BDNFの増加を起こすのです。
BDNFは脳内伝達物質、セロトニンやドーパミン、オキシトシンなどとも関係しており、セロトニンはBDNFの発現を促進しますし、逆にBDNFが上昇することで、セロトニン濃度が上がります。ドーパミンやアルツハイマーで不足するアセチルコリン、オキシトシンとBDNFも相互関係があります。
BDNFはさまざまな脳内伝達物質と一緒になって、脳の健康を守っている物質です。脳内で神経細胞がシナプスで繋がれ、新しい神経回路ができてゆくことを、脳の可塑性と呼びます。脳の可塑性が低下すると、記憶も悪くなり、学習効果が低下し、認知機能が低下します。またメンタルのコントロール力やモチベーションも低下してしまいます。
加齢に伴い、脳の可塑性は低下してきます。またシナプス形成の際にも、リミッターが働くようになるのです。BDNFは神経回路の可塑性を取り戻し、リミッターを解除する働きがあります。歳を取っても、BDNFを出し続ければ、脳の可塑性は取り戻せるのです。実際に高齢でも頭脳明晰な人は沢山いますよね!
脳の可塑性を低下させ、シナプス形成にリミッターをかける要因は次のとおりです。 1、慢性的なストレス 2、体内の慢性炎症 3、脳損傷(外傷や脳卒中、神経変性疾患で脳機能が低下する人がいますよね) 4、薬物(アルコールや喫煙、覚醒剤、オピオイドなどの鎮痛剤) 5、運動不足 の5つです。これらはいずれもBDNFの発現を低下させるものです。
これらを避ける生活習慣とBDNFを増加させる生活習慣が、脳の健康のためには必要です。BDNFを発現させるには、まず運動です。一般的には有酸素運動を週に3~5回、30~60分程度行うことが推奨されています。しかし筋トレで筋肉から分泌されるマイオカイン、特にイリシンというマイオカインは、BDNFを増やすことがわかってきました。
次はストレスコントロールです。嫌なことは運動やヨガや瞑想で吹き飛ばすのが最も効果的です。お酒や食べ物、買い物やゲームなどの、安易にドーパミンが出る行動でコントロールするのは難しいです。ドーパミンは、刺激を強くし続けないと出なくなるので、それらの依存症に陥りやすくなります。最初は良くても、そのうちにストレスコントロールができなくなります。
3つ目は睡眠です。BDNFは良質な睡眠中に分泌されます。体内時計に従って、規則正しい生活をしてゆくのはとても大切です。睡眠不足は身体だけでなく、脳機能にとっても、メンタルにとってもBDNFの低下の点からも、大きな影響が出ます。
4つ目は栄養です。オメガ3、特にDHAの摂取が有効のようです。青魚、ナッツ、アボカドなどを意識して食べましょう。オイルは亜麻仁油やエゴマ油を使うと良いです。カカオ、緑茶、ワイン、オリーブオイルなどに含まれるポリフェノールは、BDNFのレベルを増加させます。ターメリックに含まれるクルクミン、ベリー類に含まれるアントシアニン、ビタミンDもBDNFレベルを上げる事がわかってきました。
5つ目は社交的な活動です。オキシトシンとも関係するBDNFは、友人や家族との交流を深めたり、新しい人と出会ったりすると分泌されます。人間は一人では生きていけません。他人との交流には、共感力や洞察力が必要です。古代からBDNFで脳機能を高めることが必要になる場面なのです。
今日はオメガ3がBDNFレベルを上げて、脳機能を改善するというお話から、BDNFレベルを上げる生活について調べる事ができました。運動、ストレス、睡眠、食事、社会活動という5つを整える生活は、世界の長寿地域で行われている生活に酷似しています。
脳に良い生活習慣は、身体にも良い生活習慣なのだなあと、改めて再認識した蒼野でした!
参考文献:
1)Dietary Omega-3 Fatty Acids Normalize BDNF Levels, Reduce Oxidative Damage, and Counteract Learning Disability after Traumatic Brain Injury in Rats. ; J Neurotrauma. 2004 Oct;21(10):1457-67.
2)The Effect of Omega-3 Fatty Acids on Thromboxane, Brain-Derived Neurotrophic Factor, Homocysteine, and Vitamin D in Depressive Children and Adolescents: Randomized Controlled Trial. ; Nutrients. 2021 Apr; 13(4): 1095.
3)Beneficial effects of docosahexaenoic acid on cognition in age-related cognitive decline. Alzheimer’s & Dementia, 6(6), 456-464.
4)Effects of n-3 fatty acids, EPA v. DHA, on depressive symptoms, quality of life, memory and executive function in older adults with mild cognitive impairment: a 6-month randomised controlled trial, ; British Journal of Nutrition (2012), 107, 1682–1693;
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