瘀血(おけつ)!

2022/01/30

 蒼野が漢方医学に興味があるのは、古来より「未病を治す」という言葉があるからです。病気になる前の、軽微な症状の段階で、病気にならないように、身体を整える治療が、人間の幸せに直結すると思うのです。病気になってから、病気をやっつければ良い考える西洋医学にはない発想です。

 西洋医学は、抗生物質という薬の発見で、昔の感染症には、驚くほどの勝利を得て、成功と信頼を収めましたが、耐性菌の出現で、旗色が悪くなっています。現在一番の問題となっている、ウイルス感染症に対しても、最終的には個人の免疫頼みであり、多くの慢性病に対する治療も上手くいっていません。

 予防医学を重視している漢方治療には、面白い発想が沢山あるので、今日はその中から、瘀血(おけつ)について書いてみたいと思います。瘀血とは、一言で言うと、微小循環の障害です。平たい言葉で言えば、血液ドロドロ状態とも言えます。

 漢方での血は、西洋医学の血液とは少し異なります。身体の栄養を「血(けつ)」と呼んでいるのです。血は身体の物質を作るための原料になると考えられていて、血液だけでなく、皮膚や髪の毛、爪、筋肉、骨、臓器、さらにはホルモンに至るまで、身体のあらゆる細胞は、血によって修復・増強され健康な状態に保たれているとされています。

 瘀血は、各種の病気の発現に関係し、また多くの慢性病の体質的な基盤になっていることが多いのです。身体の隅々まで栄養が届かなくなれば、栄養不足の細胞は、機能が保てません。それが積み重なると、慢性疾患を発症するのです。

 東洋医学においては、瘀血が最も重要な病理思想の一つとされており、瘀血に対する薬も多種多様な病態に対処できるように、様々な薬が揃っています。病態とひとりひとりが持つ証にあった漢方薬を使うことで、現代医学の及ばない効果を発揮することがあるのです。

 漢方医療の名医である、山本巌先生は、『治らない病は瘀血と考えよ。難治性の病、慢性疾患のほとんど全てに瘀血が絡み合っている。ことに女性は瘀血の存在に注意が必要だ』と述べられておられます。

 しかし『瘀血だけが単独で存在する病気はない』とも言われておられますので、西洋薬のように、この病気にはこの薬という訳にはいかず、一人一人に合わせて、生薬を組み合わせる必要があることも述べられておられます。

 瘀血の原因は、現代生活の中に沢山あります。偏った食事(糖質過多や、悪い脂、添加物の摂りすぎ、水分不足)、多量飲酒、喫煙、不規則な生活やストレス、デスクワークや運動不足、そして過労など誰でも思い当たることが沢山あります。打撲や外傷、手術、熱病、月経異常、出産、ステロイドなどの薬剤の長期使用なども、瘀血の原因になります。

 具体的な瘀血のサインとしては次の様なものがあります。唇が紫色っぽい、腹や足の静脈が浮き出ている、痔。黒便が出る、排尿量が多い、舌の裏側の静脈が暗い紫色に腫れている、舌の色が暗い赤紫色、月経の色が黒ずんで塊が混じる、生理痛がひどい、顔色や唇がどす黒い、さめ肌、目にくまができる、アザができやすい、関節痛がある、手足がしびれる、冷える、肩や首筋が凝るなどが、幾つかある様な人は、瘀血と判断できると思います。

 瘀血になり血流が滞ると、特に末端の流れが悪くなり、手足の冷えが起こります。また上半身に比べると下半身の流れの方が悪くなりやすく、瘀血では冷えだけでなく、冷えのぼせの症状も起こります。足は冷たいけど、顔がカーっとなるという症状に効く漢方薬はいくつもあります。

 また瘀血で流れが悪くなると、痛みを生じると考えられています。そのため、瘀血によって頭痛や肩こりなどの痛みが出やすくなります。特に瘀血による痛みは頑固で、鎮痛剤が効きにくく、一つの部位が刺されたり、締め付けられたりする様に痛みます、動いていない時の方が血流が悪くなるため、夜間に痛みが増悪しやすいのも特徴です。

 瘀血では、肌細胞に十分な栄養が届きにくくなるだけでなく、正常なターンオーバーが妨げられ、メラニンなど老廃物の除去も滞りやすくなります。シミやそばかす、さらにはクマやくすみもできやすくなります。肌に老廃物が残留しやすくなり、ニキビやイボなどの吹き出物や、皮膚が厚くなる角化症などの肌トラブルを、引き起こしやすくなるのです。

 瘀血になり血の流れが滞ると、生理の経血が暗赤色になる、経血に塊が混ざるなどの変化が見られ、放っておくと生理痛がひどくなる、生理が遅れる、無月経、さらには子宮筋腫などの婦人科トラブルを引き起こしやすくなります。

 残念ながら、瘀血に対応する西洋薬はありません。例えば、肝硬変で食道静脈瘤ができている状態は瘀血ですが、静脈瘤からの出血を止めようと止血剤を使うと、もっと血流が悪くなります、反対に血流改善剤を使うと、出血時には止まらなくなります。しかし漢方薬には血流を良くしながら、出血の時には止血する方剤があるのです。

 瘀血に対抗する漢方薬は駆瘀血剤と呼ばれています。代表的なものを幾つか紹介します。

桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)血のめぐりを良くする典型的な駆瘀血剤です。手足の冷え+のぼせなどを感じる方の生理痛、月経不順、月経異常などを改善します。蒼野は交通事故の後、早く治したくて長く愛飲しました。今でも時々飲んでいます

桂枝茯苓丸料加薏苡仁(けいしぶくりょうがんりょうかよくいにん)滞った血の巡りを促し、肌のターンオーバーを整え、シミをカラダの中から改善してくれます。

桃核承気湯(とうかくじょうきとう)気と血の流れを良くして、月経不順、月経困難症、月経痛などの症状をやわらげます。カッカしやすい人の便秘にも良く効きます。

 最近では西洋的な研究でも、漢方薬の抗酸化作用が注目され、証明されてきています。生薬の集まりである漢方薬は、生薬自体にポリフェノールなどの抗酸化物質が多く含まれています。複数の天然生薬からなる漢方薬は、おしなべて強い抗酸化力を持っています。漢方薬を服用することで、活性酸素の生成を抑制したり、外因性の抗酸化反応を増強させることができるのです。

 生薬に含まれるのは、アントシアニン、ポリフェノール類、ジアントロン類、フラボノイド、糖類、アスコルビン酸、カフェ酸誘導体、サポニン、カテキン、タンニン類、フェノール類、ステロイド、精油、アルカロイド、トコフェロール、リグナン、など多種多様です。これらの抗酸化物質がたっぷり入っています。

 動脈硬化や 病的老化は、生体での酸化ストレスを誘因とした慢性炎症によって進行するのに対して、生薬製剤である漢方薬には抗酸化の機能があり、それら疾病の進展予防に働く可能性が指摘されています。まさに未病のうちに、健康を取り戻す薬と言えるのです。このことを知ってから、蒼野は漢方を処方する頻度が増えました。

 抗酸化力を示す値に、ORAC 値という尺度があります。酸素ラジカル吸収能、活性酸素消去能を数値化したものです。駆瘀血剤を含め、様々な漢方薬で測定されているのですが、漢方薬のORAC値はとても高く、一日分の漢方の内服のみで、一日に必要なORAC値がクリアされるのです。(一般的に果物で10〜60、野菜で5〜25μmolTE/gですが、漢方薬は1位の薬で788、50位でも311μmolTE/g)

 現代病が糖化、酸化、慢性炎症から生じることを考えると、漢方薬は人類を救う、古くて新しい薬なのかもしれません。本場中国では、漢方医と西洋医は対立しており、同時に両方の治療を受けることは難しいと聞きます。両方の治療が提供できる日本に生まれて、本当に良かったと思います。

 どちらの医療にも精通して、様々な病態に対応できる医師になれるよう、今後も勉強を続けたいと思っている蒼野でした。

参考書籍:  山本巌流漢方入門    新井 吉秀

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