脳にゴミを溜めない方法!

2022/11/09

 今日はちょっとマニアックな話題です。蒼野は認知症に興味があり、これからの高齢化社会においては、認知症の予防が本当に大事になると思っています。その代表でありアルツハイマー病は神経変性疾患と呼ばれ、細胞の外にアミロイドβが溜まった老人斑や、細胞内にタウ蛋白が溜まった神経原線維変化が、病理的な特徴になります。

 脳にゴミのようなアミロイドやタウ蛋白が溜まる事によって、多くの神経細胞が死んでしまうために、認知機能が低下すると言われています。40歳くらいから溜まってくるため、ゴミが溜まらないように、中年以降の生活習慣を整えてゆけば、認知症は防げるのだろうという考えは誰もが考えると思います。

 そこで思いつくのが、細胞を新しく生まれかえらせるオートファジーです。オートファジーを中年期から活性化しておけば、神経細胞内で、アミロイドやタウ蛋白が分解され、ゴミが掃除されてゆくため、認知症は防げるだろうと思い、蒼野も自分が認知症にならないために、去年から毎日16時間断食を行いながら暮らしています。

 しかし今日認知症関連の論文を読んでいると、蒼野が思っていた通り、カロリー制限による誘導性オートファジーが、神経変性疾患における異常タンパク質の凝集を防ぎ、症状を改善するとの結果が報告されている2004年の論文を読んで、嬉しくなりました1)。

 しかし逆にアミロイドβが細胞外に沢山貯留した状態で、断食を行なっていると、細胞内にアミロイドβが入ってゆき、オートファジーで分解しきれなかったものが神経細胞を殺すので、かえって海馬の細胞が減ってしまうという2015年の論文も見つけてしまいました3)。

 生きたマウスの脳でのオートファジー反応が可視化できる方法で、アミロイドβが細胞外に沢山溜まっている状態では、飢餓によってオートファジーは活性化するにも関わらず、細胞内に取り込まれたアミロイドβが十分に分解処理出来ずに、細胞が死んでしまうのが確認されたという事なのです。

 良かれと思って行なっている16時間断食が裏目に出ることもあり、かえってアルツハイマーを進めてしまうかも知れないと思うとちょっと怖くなります。しかし蒼野が見て来たアルツハイマーの患者様は、毎日饅頭を食べて、運動せずにテレビを見ている様な人が多く、過度なカロリー摂取などの生活習慣がアルツハイマー病進行を早める要素であることは、間違いないと感じています。

 断食、カロリー制限は、アミロイドβが溜まってしまって、ある程度アルツハイマーのリスクが高くなった状態では裏目に出る可能性がある、ということと捉えておくと良いのかも知れません。蒼野も患者様の指導の時には心得ておこうと思います。

 最近の研究で、細胞内のタウ蛋白に関しては、認知症モデルマウスの実験で、オートファジーに必要なP62というタンパク質を欠損させると、タウ蛋白の蓄積が著明となり、神経細胞が死んで、脳萎縮と脳内炎症が亢進することが判明しています。オートファジーが働けば、タウ蛋白を処理してくれるという事になります。

 アミロイドのような特殊な場合で無ければ、脳細胞内の変性蛋白を取り除く役割が、オートファジーにあることは間違いない様なのです3)。脳細胞内にタウ蛋白が溜まる、アルツハイマーや、前頭側頭型認知症などを起こしにくくする効果が、オートファジーにあると考える事ができます。

 もう一つ脳の老廃物を除去するシステムが、分かってきています。ロチェスター大学の2012年の研究で、脳が老廃物を排出する経路が発見されました。脳の中にある、リンパの流れの様なシステムで、血管周囲のグリア細胞が脳組織内に脳脊髄液を浸透させて洗い流す物です。グリア細胞とリンパ系を合わせた造語で「グリンパティック系(glymphatic system)」と名付けられました。

 これは深い眠りの間に活性化するシステムで、マウスの脳脊髄液の流れを観察すると、深い眠りに落ちて脳波がゆっくりになり、心拍数も減少しているときに、流量が増えて、効率的にタウ蛋白が除去されるのです。質の良い、深いノンレム睡眠を取ることで認知症になりにくくなるという事になります4)。

 このグリンパティック系を活性化するという方向でも、認知症薬の開発が進んでいます。しかし薬が出て来るまで、蒼野は待っていられませんので、夜更かしをせず、夜はなるべくブルーライトや強い光を目に入れず、アルコールを飲まずに、朝散歩して、良い睡眠を確保したいと思います。

 オートファジーの認知症予防効果に関しては、現時点での生きた脳での研究は、動物実験段階です。本当に人でどうなるのかについてはまだまだわからないのだと思います。今分かっているオートファジーの役割についてもう一度復習しておきます。現在わかっているオートファジーの働きは3つあります。

1、飢餓状態になった時に、古くなった細胞内器官を分解して、栄養源にする作用

2、細胞内の不要物質や古くなった有害物を除去して、作り直し、細胞を新しくする作用、これによって細胞は元気でいる事ができます。

3、病原体やウイルス、活性酸素が漏れている壊れたミトコンドリアや、変性疾患の原因となる凝集しやすいタンパク質などを排除して、病気を防ぎます。

 やはり素晴らしいシステムですよね! 理論的にはこれで沢山の病気の予防ができる気がします。これからも様々な実験で、色んな事がわかって来ると思います! しかし今日の論文を読むと、高齢になってからでは溜まってしまった神経変性蛋白は完全には除去出来ないのかもしれません。

 認知症にならないためには、40代くらいから、カロリー過多にならないよう注意し、しっかり定期的に運動し、しっかり眠る事が重要というのは、おそらく正しいのだと思います。結論はまだまだ先でしょうから、自分の信じる生活習慣を続けてみるしかないですね!

 まだ自分の脳にはそれほどアミロイドが溜まっていないことを信じて、1年やってみて調子が良いと感じている16時間断食は続けてみようと思う蒼野でした!

参考文献:
1)Inhibition of mTOR induces autophagy and reduces toxicity of polyglutamine expansions in fly and mouse models of Huntington disease. : Nat Genet 36, 585–595 2004

2)Fasting activates macroautophagy in neurons of Alzheimer’s disease mouse model but is insufficient to degrade amyloid-beta.  Scientific Reports. 5, Article number: 12115. doi: 10.1038/srep12115 Epub date: 14 July 2015

3)Central role for p62/SQSTM1 in the elimination of toxic tau species in a mouse model of tauopathy.  ; DOI: https://doi.org/10.1111/acel.13615

4)Glymphatic system clears extracellular tau and protects from tau aggregation and neurodegeneration. ; J Exp Med (2022) 219 (3): e20211275. https://doi.org/10.1084/jem.20211275

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