脳の霧

2022/02/13

 今日はかなりその概要がわかってきているオミクロン株についての、蒼野が気になる症状についいて書いてみたいと思います。急性期から24%の人に出現するというブレインフォグ(脳の霧)です。

 オミクロン株の主な症状は(1)鼻水(73%)、(2)頭痛(68%)、(3)倦怠感(64%)、(4)くしゃみ(60%)、(5)のどの痛み(60%)となっています。24%の人が訴えているブレインフォグは文字通り、頭にモヤがかかったような状態に陥り、思考力や集中力が低下する症状です。

 従来の新型コロナ感染症でも、後遺症として注目されてきましたが、オミクロンの場合、感染初期から「一般的な症状」として表れるのが、今までとは異なるところです。後遺症として残ってしまえば、今まで通りの社会生活が送れなくなるかもしれない症状だけに、注意が必要なのです。

 自覚的な症状であるため、実態が掴みにくく、今後更なる研究が必要です。具体的には、頭がボーッとする(思考力の低下)、目の前のことに集中できない(集中力の低下)、色々なことを考えてしまい混乱する、頻繁に物忘れをする(認知障害)、言いたいことがスラスラ出てこず、言葉に詰まるなどの症状になります。

 ブレインフォグは、コロナウイルスの後遺症のひとつとして2020年の夏頃から注目されていました。アメリカのノースウェスタン記念病院の最新研究では、コロナウイルスの軽症患者100人を対象にした調査で、「集中できない・忘れやすい」といった症状を訴えた患者が、81%に及んだという結果を報告しています。

 この原因はウイルス感染後に、脳が炎症を起こしている可能性があると言われています。新型コロナで亡くなった患者さんの脳を3人解剖したところ、1人の脳がコロナのウイルスに感染していることが判明しています。

 マウスの研究では、脳だけ、あるいは肺だけに新型コロナを感染させると、脳だけに感染させたマウスは、急激に病気になって1週間以内に死亡しました。しかし肺だけに感染させたマウスは死にませんでした。脳への感染の方が重篤になる可能性が示唆されました。

 もう一つは、脳に似た3次元の細胞培養(オルガノイド)を使った実験です。オルガノイドに新型コロナを感染させると、神経細胞に感染が起こってその周りの細胞が酸欠で死にました。新型コロナは、細胞の表面に存在するACE2受容体に結合し、ウイルス外膜と細胞膜の融合を起こし、細胞に感染することが知られています。

 ACE2受容体は肺に多く、ほとんど肺にしか感染しないと考えられていましたが、実は脳細胞にもACE2の発現があるため、神経細胞にも感染が起こることがわかってきています。実験的に、ACE2をブロックする抗体を加えるとオルガノイドへの感染が起こらなくなることで、証明されました。

 新型コロナウイルスが脳の神経細胞に感染すると、ウイルスを増やすために、感染した細胞自体は生かしていますが、その周りの神経細胞が、酸欠のために急激に死んでいき、脳のダメージを起こしているという結果が出ています。

 脳に感染するメカニズムは二つ考えられています。まず肺で増えたウイルスが、血流で脳に達して、そこから感染が広がるという場合と、鼻から直接、脳に神経細胞を通して感染が起こってしまう場合です。オミクロン株については、肺よりも、鼻やのどといった上気道の炎症を引き起こしやすいことから、直接神経細胞へ感染するリスクが高まっている可能性があるようです。

 ブレインフォグは、他の病気では、「筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)」という免疫疾患でよくみられる症状です。発熱やのどの痛みといった風邪の症状の後に発症することが多いため、主に呼吸器に感染するウイルスが引き金となって起きると考えられています。

  米国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長も2020年7月の会見で、後遺症に悩む人の症状についてME/CFSの患者にみられる症状に似ていると発言しています。共通する症状は、疲れて仕事に行けなくなることです。無理をして出勤しても、ボーッとして、集中力が全くなく、会議にもついていけない。数行のセンテンスも頭に残らない、本も読めないなど、これまで出来ていた仕事ができなくなるのです。

 ME/CFSは本来、体内に入ってきた異物を攻撃するはずの抗体が、間違って自分の体のたんぱく質を攻撃する「自己免疫反応」によって引き起こされると考えられています。ME/CFSの患者の血液中では、交感神経の受容体に対する抗体の濃度が高いことが報告されています。抗体濃度が高いほど、脳の特定の部位の異常が顕著だったのです。

 新型コロナでも脳内で強い免疫反応が起きている可能性が報告されています。コロナウイルスと戦うために発動された自身の免疫細胞が、ウイルスがいなくなった後も作られ続け、自分自身の細胞を傷つけることによって発症するのがコロナ後遺症ではないかと考えられているのです。

 いま試みられているのは急性期の上咽頭擦過療法です。多くの患者に鼻の奥の上咽頭に炎症が確認されており、この患部を洗浄する治療法です。上咽頭の炎症で出る炎症物質はブレインフォグの誘因かもしれず、炎症を取り除くことで、脳への悪影響を緩和できる可能性があります。

 今までのオミクロン以外のコロナ感染症での海外の統計では、後遺症でブレインフォグを患っている人が10~20%と言われています。世田谷区が昨年9月に公表した、新型コロナの後遺症に関するアンケートによると、「後遺症がある」と答えたのは1786人(48%)。30~50代では「ある」が半数を超えていました。

 こうした後遺症は、大半のケースで概ね1年以内には収まる傾向にあるようですが、中には1年以上も症状が続き、複数の症状を抱えたまま、社会生活の継続が困難になっている事例も少なからず報告されています。問題はこのような後遺症が、コロナ感染時には症状が出なかった、いわゆる無症状者にも20%~25%発症していることです。

 後遺症トップは嗅覚障害(971件)、次に全身の倦怠感(893件)が多い結果でした。全身の倦怠感を訴えた人のうち、かなりの割合がブレインフォグになっている可能性があるようです。慢性的な自己免疫反応を防ぐには早期治療が重要です。倦怠感がある時期には、無理をせず、安静にしておくべきです。無理をして出勤し、激務にさらされたり、いじめにあってストレスを受けたりした人たちが難治化しています。

 現時点では、自覚症状のみのブレインフォグは、家族にさえも理解されにくく、医師や職場ではなおさら、症状が理解してもらえにくい状況です。医療関係者が運動を勧めたり、「怠けずに仕事に行きなさい」といった指導をしたりすれば、症状が一気に悪化して慢性化するリスクもあるようなので、蒼野も肝に銘じようと思います。

 なかなか実態が掴みにくいブレインフォグですが、社会や周囲の理解がないために、難治化してしまう実態もあるようなので、皆様も知識として知っておく必要があると思いました。もちろんオミクロンは重症化しにくいので、完全に治ってしまう人も沢山おられます。しかし感染者数が増えれば、元々健康な若い方でも、長期間にわたって症状が続く方は、かなりの人数で出てくると思うのです。

 当たり前ですが、罹らないことが一番重要です。ワクチン、マスク、手洗い、湿度を40~60%に保つ加湿などを心がけ、毎日しっかり眠って疲れを取りましょう。栄養をしっかり摂って、腸活と体温維持で免疫力を保ちましょうね! 本当に早く終息して、明るい春が迎えられますように…… !

参考ページ: コロナ後遺症を甘くみてはいけない

           国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター   山村 隆

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