痛み止めを飲み続けると、もっと痛くなる!

2023/06/15

 皆様は身体に痛い場所はありませんか? お陰様で蒼野は毎日痛みもなく過ごせています。頭痛や生理痛、腰痛や肩、首痛、膝痛など慢性的な痛みがあると辛いですよね。そんな時は痛み止めのお世話になる人も多いと思います。市販もされているため、手軽に使えることもあって、鎮痛剤は、最も使用頻度の高い薬の一つだと思います。

 今日も当院の看護師さんから頭痛の相談を受けました。10代から頭痛があり、30代の現在まで鎮痛剤でやり過ごしてきたそうです。だんだん頭痛の頻度が増え、最近では毎日鎮痛剤を飲んでいるとのことです。放置すると寝込むくらいの痛みになるため、仕方なく飲んでいるとのことでした。最近ようやく、近医で頭痛の相談をして、頭痛予防薬をもらったけど、飲むと吐き気がするということでの相談でした。

 以前から蒼野は、一般的な鎮痛剤であるNSAIDsやステロイドなどは、なるべく処方しない様にしています。痛み止め、炎症止めはあくまで一時的に痛みを感じなくさせる作用しかなく、対症療法だからです。どうして痛くなったのかを考えて、原因の部分にアプローチしなければ、問題の解決にはならないと思うからです。

 しかし一般の病院で頭痛の相談をすると、CTやMRIで頭部を調べ、異常がなければ「ただの頭痛ですね」と診断されて、痛い時に飲む鎮痛剤を処方されることは多いのです。整形外科で腰痛や関節痛を相談しても、画像で異常がなければ、やはり鎮痛剤の長期内服を進められる事が多いです。

 薬剤乱用頭痛という病名があります。毎日のように痛み止めを飲んでいると、「痛みが分からなくなると病気の警告ができなくなる」と脳が痛みの感受性を高めてしまいます。今まで痛くなかった、ちょっとしたことでも痛くなり、どんどん痛みの頻度や時間が長くなってしまう病態です。原因となっている痛み止めを、2週間ほど止めないと、感受性は戻らず、一日中痛みが続く辛い状態が続きます。

 これは痛覚変調性疼痛の一種でもあり、関節痛などで毎日痛み止めを飲んでいても生じる事があります。急性の痛みで始まったものが、慢性化してまうメカニズムがあるという事なのです。200万年以上生き延びてきた人類には自然の治癒力があります。痛い所があるというのは、その部分に炎症が起こり、修復する機転が働いているということを意味します。

 痛い時にNSAIDsやステロイドのような強い抗炎症作用のある薬を使うと、治癒までの期間が長引く事が報告されています。急性痛が慢性痛に変化するメカニズムの同定のために行われた研究結果が、2022年に報告されています。急性腰痛の98人の患者の好中球の遺伝子を3ヶ月にわたって追跡した研究です1)。

 経過中に痛みが改善した患者の好中球では、遺伝子スイッチの変更、つまりエピジェネティックな変化が、3ヶ月中になんと5500箇所以上認められたのです。しかし治らずに腰痛が慢性化した患者では、変化は認められませんでした。これは炎症で集まってきた好中球の遺伝子スイッチが変わることが、痛みを慢性化させないために働いていると考える事ができます。

 初期にステロイドやボルタレンを6日間使用した症例が痛みを感じなくなるまでの平均期間は80日でしたが、使用しなかった症例では40日で痛みが無くなっていたのです。痛み止めとして麻酔薬のリドカインやモルヒネを使った症例では延長しておらず、初期の炎症反応を抑えてしまうと、白血球の変化が起こらないことを意味していると解釈されています。

 ステロイドやNSAIDsの様な消炎鎮痛剤の使用は、急性の痛みが慢性の痛みに変化する割合を、1.76倍高めるという結論になっています。痛いからといって炎症を抑えるのは、治癒反応を止めてしまうことを意味している様なのです。NSAIDsは市販でも買えて、すぐに飲むことが出来るので、知っておく必要があると感じます。

 またNSAIDsもステロイドも胃を荒らし、潰瘍を作ることでも有名です。これはよく周知されているため、例えばロキソニンなどが処方される場合には、一緒にムコスタなどの少し強力な胃薬(胃粘膜保護剤)も処方されるのが普通です。しかし近年のカプセル内視鏡の進歩により、胃だけではなく、小腸や大腸も、NSAIDsやステロイドで傷害される事が分かってきています。

 研究では、健康なボランティアにNSAIDs(ボルタレン)を、胃酸抑制剤と共に1日2回、14日間飲んでもらうと、便中の小腸の炎症物質が75%で上昇し、68%に小腸の新たな粘膜病変が認められました2)。別の研究では、3カ月以上NSAIDs内服の関節炎患者の71%に、小腸粘膜障害を認め、コントロール群の10%に対し有意に高率であったと報告されています3)。

 大腸に関しても、NSAIDs内服による大腸炎は多くの報告があります。大腸に炎症が起こった場合、下痢、腹痛、排便回数の増加、貧血、便秘などの自覚症状が現れます。治療は服薬の中止です。相談された看護師さんも、下痢と便秘を繰り返していて、いわゆるIBSの様な症状があると言われていました。

 これらの薬により、腸内細菌叢のバランスも崩れる事が報告されています。リーキーガットにもなりやすくなり、腸が悪くなると、腸の炎症が全身に波及してしまうのです。頭痛にしても腰痛や関節痛にしても、全身炎症があると症状はひどくなります。以前のブログでも書いたように、食生活を変えると、頭痛が嘘の様によくなる症例は、蒼野も経験があります。

 今日の結論は、『痛みに対して、その原因に対処しないまま、痛み止めを安易に続けてはいけない』という事です。頭痛に関しては、凝りや片頭痛の誘引を避けるなど、頭痛の原因に対する様々なアプローチがありますし、最近は根本治療になる薬も出てきています。副作用が少ない、痛みに効く漢方やハーブも結構あったりするのです。

 関節痛や腰痛に関しては、関節を支える筋肉の衰えが原因になっている事が多いです。例えば座りっぱなしだと、太ももの内転筋や裏側のハムストリングスが硬くなり、関節を引っ張る力のアンバランスが生まれます。すると関節が捻れ、その状態で動かすと炎症が起こって腰痛や膝痛が出てくるのです。

 ストレッチや体操、筋トレなどを地道に続けてゆけば、嘘の様に治る人は多くおられます。痛みを放置するのはいけません。痛み止めで誤魔化すのは、慢性化する原因になります。腸も悪くなり、体の老化が進み、全身の他の病気にも繋がるからです。

 全てを良くするには、ライフスタイルの転換とその習慣化しかありません。食事、運動、睡眠、ストレスコントロール、メンタルコントロールの全てが大事なのです。まずはお腹の調子から整えてゆきましょう。気がつくと看護師さんに問診しながら、30分くらい説明していた蒼野でした。一度には無理ですが、少しずつ良くなってもらいたいと思っています。

参考文献: 
1)Acute inflammatory response via neutrophil activation protects against the development of chronic pain. ; Science Translational Medicine 2022 14 (644) : DOI: 10.1126/scitranslmed.abj9954

2)A quantitative analysis of NSAID-induced small bowel pathology by capsule enteroscopy.
Gastroenterology. 2005 ;128(5):1172-8.

3)Visible small-intestinal mucosal injury in chronic NSAID users. Clin Gastroenterol Hepatol. 2005 ; 3 (1) : 55-9.

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