慢性頭痛は脳の興奮で起こる!?

2023/04/08

 今日は久しぶりに頭痛のお話です。世の中の頭痛持ちの大多数は、明らかな原因が見つからない片頭痛や緊張型頭痛です。すぐには命にかかわらない頭痛であるため、頭痛に関心のない医師に診てもらうと、画像チェックで異常がなければ、鎮痛剤を渡される以上の治療は行なってもらえず、生活のアドバイスなども貰えないことが多いのです。

 日常で起こる頭痛は早く治したいですよね。そういう時に忙しい現代人に選ばれるのが、市販の頭痛薬です。需要があるためテレビCMでもよく見かけます。頭痛回数が少なく、市販薬で治るのであれば、その対処で間違いではないのですが、内服の回数が月に10回を超えるようになると、薬剤が原因の慢性頭痛に、移行してしまうリスクもあるのです。

 慢性頭痛の代表は緊張型頭痛です。ゲームをしすぎたり、姿勢が悪い子供さんにも見られます。男女差はなく、頚部や背中の筋肉が凝って硬くなり、血の巡りが悪くなって、筋肉から乳酸やピルピン酸などの疲労物質が放出されて、神経を刺激するために痛みが生じます。また精神的なストレスや緊張によっても引き起こされます。

 現代ではデスクワーク、パソコン、スマホの見過ぎ、悪い姿勢などの日常生活が、この頭痛を増やしています。しかしこれらの生活習慣は、日常生活に支障をきたす確率が高い、女性に多い片頭痛の原因の一つでもあります。吐き気や嘔吐を伴う、拍動性の頭痛で、時には下痢などの胃腸症状や、光や音、ニオイに過敏になり、それが誘因にもなる頭痛です。

 片頭痛体質の人は、変化に弱く、個人差はありますが、生理周期(ホルモン変動)、天気や気圧の変化、温度の変化、感情の変化、睡眠不足や寝すぎ、先ほど出てきた眩しさや匂い、音などによって、体内でセロトニンが急激に放出されます。

 すると脳血管が収縮して血流が悪くなります。そのため生あくびが出る人もいます。これが視覚野である後頭葉で起こる人は、目の前がチカチカしたり、ギザギザしたものが見えたり、七色の光が見えたりします。これが頭痛の予兆や前兆(閃輝暗点)です。片頭痛持ちの人は痛くなる前に分かることが多いのです。

 セロトニンが一気に放出されると、代謝されて血中から減少してゆきます。一旦収縮した血管は反動で異常に拡張します。すると血管周囲に網目のように分布している、三叉神経が刺激され、脳は血管が拍動するのに合わせて、ズッキンズッキンと痛みを感じるのです。こうして書くと、緊張型頭痛と片頭痛は全く違う頭痛と思われるのですが、研究が進むにつれて、その境界は不鮮明になってきました。

 中には緊張型頭痛でも、慢性頭痛になっている人では、嘔気や嘔吐がある場合や、光過敏や音過敏も見られることが分かってきました。頭痛というのは、脳の過敏状態、興奮状態がベースにあるという考え方が出てきています。臨床でも、片頭痛と緊張型頭痛を、どちらも持っている人は多いと思います。しかしどちらも脳の興奮状態が誘発されている頭痛です。

 それゆえに、頭痛を抱えながらの仕事は、能率が上がりません。脳が興奮していることで、脳内の情報処理が上手くいかなくなるのです。ミスが多くなったり、うっかり忘れたりしやすくなります。気持ち的にも、ご機嫌ではなくなり、無口になりやすいです。脳の興奮が強い場合には、小脳の機能が低下し、頭痛時に字が震えてうまく書けず、細かい作業がしにくくなり、つまづいたりもしやすいのです。

 脳の興奮が慢性化すると、頭痛回数が増えやすくなります。気性も荒くなり家族関係にも影響しやすくなります。休みにほっとすると、急に副交感神経優位となって頭痛が起こります。休日に起こる頭痛は、家族でのお出かけも楽しくなくなります。今になって分かるのですが、蒼野の妻も片頭痛持ちで、休日に家族を喜ばせようと計画して出かけても、ちっとも喜んでくれない妻を見てガッカリしたり、腹を立ててりしていたことを思い出しました。知識の無かった自分が恥ずかしいです。

 海外では頭痛への理解が進んでいます。頭痛の時はしっかり休むことが勧められています。我慢は美徳と考えられてきた日本人は、頭痛くらいでは休めないとか、頭痛ぐらいでは病院には行かないと考える人がまだ多いです。頭痛回数が多くなれば、セロトニン低下状態の回数も多いことから、マイナス思考に陥りやすく、うつ状態にもなりやすくなります。

 数百万人の頭痛患者を診てこられた、東京女子医科大学の清水俊彦先生によれば、『泣き頭痛(crying headache)』という頭痛があるそうです。愛する者が亡くなった時などの、極度の悲しみに遭遇すると、数日間頭痛で寝込んでしまうことがあるそうです。

 頭痛持ちではない人でも、寝込んでもおかしくない状況です。しかし酷い頭痛を伴うのは、片頭痛体質の人です。悲しみの極みで、泣きじゃくっている状態では、交感神経が昂り、血管は一旦収縮します。お葬式が終わったりすると、反動で一気に副交感神経が優位となり、脳血管が拡がって三叉神経が刺激され、酷い頭痛で3日間も寝込んでしまうのです。

 この場合にはうつ病を疑って心療内科へ行かないことが重要です。うつ病はセロトニンが低下している病態なので、最近の第一選択薬は、血中セロトニンを上昇させる薬が選ばれることが多いのです。片頭痛の患者さんのセロトニンが過剰に活性化されると、脳が興奮しやすくなり、頭痛回数が増えてしまう事があるのです。

 清水先生の外来を初診される酷い慢性頭痛の女性は、驚くほど離婚歴が高いそうです。周囲の理解がなければ、頭痛で動けないのに「仕事ができない」とか、「怠けている」と思われたり、イライラして、家庭内で喧嘩になったりする事が多くなるというのは、理解ができます。若い女性では、恋愛が上手くいかない原因にもなりかねないのです。

 不幸なことがあれば、うつ状態になってもおかしくありません。しかし、気分が落ちがちの頭痛持ちの人は、セロトニンを上げる薬を使いすぎると、うつは改善しても、頭痛が酷くなることがあることを知っておかなければいけません。

 そして脳の興奮が強い慢性頭痛に対して、適切な治療を行わずに、頭痛薬だけで対症療法を行っていると、高齢になった時に、脳の興奮が、本来の後頭葉だけではなく、拡がって側頭葉や前頭葉まで興奮しやすくなる場合があります。側頭葉の聴覚野に興奮が起こると、聴覚過敏となり、ずっとセミが鳴いているような、厄介な治りにくい耳鳴り(頭鳴)になる事があります。

 また興奮が視床を経て、小脳まで広がると、ふわふわした浮動性の眩暈になることもあるようです。脳画像では異常は見つからず、通常使われる眩暈薬もほとんど効きません。前頭葉の興奮では、認知機能低下や怒りっぽくなるような性格変化が現れる事があります。これを認知症と勘違いして、脳を興奮させる認知症薬を投与すると、症状は悪化します。

 これらの脳過敏状態に対する治療はまだ確定はしていませんが、脳の興奮を抑える抗てんかん薬の投与によって、8割くらいの方は改善するようです。脳の興奮を引き起こす生活習慣を避けることは重要ですが、現実問題として、全てが避けられる訳ではないと思います。

 今から頭痛が起こりそうと分かる人や、寝込むような頭痛を持っている人、頭痛回数が多い人などは、やはり予防治療を含めた頭痛治療を行っておくことが重要だと思います。画像で分かる疾患ではないため、頭痛専門医の標榜のある、頭痛外来で相談してみて下さいね。

 一昨年に発売になった、片頭痛発症抑制の注射薬(CGRP抗体薬)を使い始めて2年近く経過しましたが、値段が高い以外には、経験上も大きな副作用は無く、頭痛が減って喜ばれる方が多いのを実感しています。使い始めるまでに、一度違う予防薬を飲む必要がありますが、お困りの方には本当にお勧めしたいと思う蒼野でした。

参考文献: 慢性頭痛への無理解が引き起こす種々の悲嘆と脳過敏症候群 ; 清水俊彦  グリーフケア第5号  2016年 22-39ページ