世界N0.1テニスプレーヤーである、ノバク・ジョコビッチは、ピザ屋の息子でした。順調にキャリアを重ねていましたが、2010年全豪オープンでは、第4セットから急に体調がおかしくなり、フルセットの末、ダブルフォルトでツォンガに敗れました。それまでも、しばしば試合途中で、体調不良に見舞われていたのです。
その試合を見ていた母国セルビアの栄養学者が、不調の原因を見抜き、ジョコビッチにアドバイスしました。ジョコビッチは、軽いグルテン不耐症だったのです。食事からグルテンを抜き、18ヶ月後、ジョコビッチは2011年7月に、ウィンブルドンで優勝しました。世界ランキング1位になり、その後の活躍は、皆様の知るところです。
これはある程度有名な話なので、お聞きになった方もおられると思います。グルテンを止めると、パフォーマンスが上がることはわかった。しかし自分には関係がないと思われていないでしょうか?
グルテンアレルギーの最も重症な病態は、セリアック病です。ほんの少しグルテンを体内に入れただけで、小腸の強い炎症を起こし、筋肉の痙攣や下痢、疲労、吹き出物、肥満などの症状に苦しむことになります。日本人には少ないと言われています。
次がジョコビッチのようなグルテン不耐症です。欧米では5人に1人は、何らかの形でのグルテン不耐症が見られます。疲れやすい、脳に霧がかかったようにもやもやする。太りやすい、メンタルが弱くなる、などですが、いつもグルテンを食べている場合には、気が付かずに過ごすことも多いです。日本人でも20%程度はおられる様です。
そして疑われているのが、グルテンの腸管に対する反応です。通常、腸の粘膜細胞同士は、通常密接に繋がっており、腸管内のものが、体内に容易に入ってくることはありません。グルテンは腸の細胞に働きかけて、細胞同士の密着を解除し、隙間を作ります。この状態をリーキーガットと呼びます。
リーキーガットは元々、排除すべき病原体や毒物が侵入してきた場合に、粘膜細胞の間隙が開いて、水分と免疫物質、免疫細胞を放出して、下痢という形でいち早く体外に排出するためのメカニズムです。リーキーガットの確認が難しいことから、ヒトでの前向き研究はありませんが、蒼野は多くの患者様や家族、自分の経験などを考えると、グルテンが多くの人のリーキーガットに関与しているのは間違いないと思っています。
グルテンを摂るたびに、腸粘膜細胞に隙間ができると、腸の中にある毒素や細菌、通常は、分解されないと入ってこないタンパク質などが、体内に入り放題となり、それに反応して、全身に、慢性的な炎症を起こすことになります。
最近の研究では、リーキーガットが自己免疫疾患と強く関連していることがわかってきています。体内に入ってきた異種蛋白に対して、免疫応答で抗体が作られますが、体内の蛋白質と似た、蛋白質に対する抗体は、自分の体の中の蛋白質も攻撃するようになるということです。1型糖尿病や、クローン病、多発性硬化症、強直性脊椎炎などが、そういった免疫の過剰反応によって生じていると考えられています。
蒼野は、興味もあって、外来のMRIで、脳内の小血管が詰まって生じる、慢性虚血性変化が、年齢の割に多い患者様に、食生活について質問してまいりました。同じ夫婦でも、夫は出ていないのに、奥様に出ていることなども、よく目にするのですが、聞いてみると、夫はごはん党ですが、奥様がパン好きで、毎食のように食べているという方が、圧倒的に多いことに気づきました。
あくまで私見ですが、リーキーガットがその一つの理由で、血管内の炎症が、脳内の小さな血管に波及して、変化を起こしやすいのではないかと考えています。それ以外にも、パンにはショートニングという形で、トランス脂肪酸がたっぷり入っていることや、小麦の血糖上昇は、蜂蜜よりも早いと言われていて、激しい血糖スパイクが、血管炎症を助長することが考えられます。
蒼野は、アレルギーはないのですが、小麦を減らして、もう10年くらいになります。認知症を防ぎたくて勉強していた時に、小麦の影響が大きいことを学んだからです。最初はパンが恋しくて、仕方がありませんでした。それは小麦が持つ依存性で、血液脳関門を通過し、脳の報酬系に作用するグルテン由来モルヒネ様化合物が含まれているからです。麻薬がやめられないとの同じ理由で、パンや麺はやめにくいのです。
『欧米では何世代も前からパンは食べられてきたではないか。パンを主食にする人種は皆、健康被害があるのか?』という質問もあるかと思います。その答えは、『現代食べられている小麦は、先祖が食べていた小麦と違うから』ということになります。
現代の小麦は、高度な技術で、遺伝子操作され、収穫量が多く、病気や日照り、高温にも耐える様になっており、モチモチの食感などが追求されています。生み出された新たな品種は、動物実験も、人体への安全確認の試験も行われていません。世界中の飢餓状態を無くす目的で、直ちに食糧供給に投入されたからです。
品種改良で、グルテンの構造が大きく変化しています。14種類の新しいグルテンが確認されており、血糖値の上昇スピードも桁違いに早くなってしまいました。何百もの新たな遺伝子操作が加えられ、昔の小麦とは似ても似つかない物に、変化しているのです。簡単に沢山収穫できる小麦に市場は占有され、昔ながらの小麦を作る農家は無くなり、世界中の小麦が品種改良された小麦になったのです。
小麦は中枢神経への影響が大きく、アルツハイマー型認知症、統合失調症や自閉症、ADHDなどへの影響が示唆されています。また過敏性腸症候群、2型糖尿病、アレルギー疾患、自己免疫疾患など、慢性炎症が関わる、現代病の全てに関わっていると考えても過言ではないと思います。
自身への小麦の影響を知りたければ、2週間、できれば4週間、小麦を断ち、その後沢山食べてみると分かります。蒼野の経験では、2週間くらいまでは食べたくてしょうがありません。その後落ち着いてきて、腸内環境が良くなるため、お通じが良くなったり、下痢しなくなったり、頭がスッキリしてきたりして、やる気、エネルギーが増してきます。そして久しぶりに思い切り食べると、気持ちが悪くなり、ゲップが出続けて、気分も沈みました。そして小麦が自分にも悪いことが分かり、ようやく毎日の小麦から離脱することができました。
もちろん小麦は、パンや麺だけではなく、揚げ物の衣とか、ケーキ(大好きです!)やスナック、シリアル、ビールなどにも入っています。蒼野の場合、深刻なアレルギーはないため、週に1回くらい、多くなりすぎない程度を食べるのは、あまり体調に影響しない様です。うどんやラーメンは、ここ何年も食べていませんが、サンドイッチやケーキは時々食べています。
食べ物は、大きな楽しみでもあるので、ストレスを溜めない範囲で、健康に影響する食べ物の頻度を減らしていくのが良いと考えます。全く小麦を止める勇気が出ない方は、下記の本を読むと、しばらくは食べたくなくなるかもしれませんのでオススメです。好みの問題もあるとは思いますが、日本人には、お米が一番合っていると思います。玄米や五穀米、もち麦ご飯にして、腹八分目で食べてゆきましょう。
参考書籍: いつものパンがあなたを殺す デイビッド・パールマター
小麦は食べるな Dr. ウイリアム・デイビス
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