新しい認知症薬に思うこと!

2023/01/12

 今日は新たな認知症薬についてのお話です。2023年1月7日、アルツハイマー型認知症治療薬のレカネマブが米国で迅速承認されたというニュースが入ってきました。アルツハイマーの原因の一つと考えられているβアミロイドを減らす抗体薬の一つで、二つ目の承認薬になります。

 一つ目の薬はアデュカヌマブと言って2021年6月にアメリカで条件付きで承認された薬です。同じ系統のβアミロイド(Aβ)を減らす抗体薬ですが、前倒しで承認することで、臨床治験を増やし、さらなる薬の改良、開発につなげようという意図からの承認の様です。その薬価が年間630万円(体重72kgの人で)かかるというのが話題になりました。その金額と治療効果の点から日本では承認がおりませんでした。

 今度のレカネマブは、ほぼ半額の320万円/年となり、その効果がプラセボ群と比較して、27%有意に悪化を抑制したとされます。アデュカヌマブの悪化抑制効果は22%だったので、安くなって、効果も高いということになります。日本でも2023年の保険収載を目指すとのことですが、蒼野としては、患者様に使いたい薬とは言い難い結果だと思います。

 研究では脳内にAβが蓄積している早期のアルツハイマー病の患者ら約1800人を2グループに分け、一つのグループにはレカネマブを2週間に1回、もう一つのグループにはプラセボを投与しました。レカネマブを投与した群で、1年半後のテスト結果を見ると、プラセボで100低下する認知機能が73の低下で済んだということを意味しているからです。

 この結果はアルツハイマー型認知症の起こり方を考えると、ある程度仕方がないのかも知れません。多くの研究ではアルツハイマー病を発症する20~30年前から、脳内には少しずつAβが蓄積しています。やがて脳内にはリン酸化したタウ蛋白も溜まり始め、神経毒性を発揮する様になります。すると神経細胞が死に始め、一定量以上死んでしまうと認知機能が下がってくるのです。

 これらのAβを消す抗体薬は神経細胞が死ぬ前の無症状の時期から使うのが効果的であるはずです。神経細胞が死んでしまえば、薬には脳細胞を元に戻す力はないからです。ということはこの薬が本当に有効なのは、Aβは溜まってきているけど、物忘れも何もない中年期からの使用ということになります。

 現時点ではAβが溜まっていることを判別する手段としては、入院後腰椎穿刺をして脊髄液で調べるか、1回の検査が40万~60万円かかるアミロイドPETで判断する方法になります。世界中で血液検査などで、Aβの貯留がわかる検査の臨床応用が検討されていますが、今のところはまだ難しい様です。

 研究対象は早期アルツハイマー型認知症だったということで、すでに神経細胞が死につつある症例です。その時点で使っても進行が遅くなるという意味合いしか無い様に感じます。そして半額になったと言ってもこの薬価です。本当に対費用効果が有るのか疑問に感じてしまいます。

 対象者の試算は、日本で100万人、もしこの薬が保険収載されて、全員に使ったとすると、3.2兆円/年が使われます。癌の免疫チェックポイント阻害剤であるオプジーボは年間1090万円ですが、対象患者数は5万人程度ですので、5450億円/年。薬剤費で国が潰れるという議論もあながち嘘ではなさそうです。

 高額の薬剤は他にもあって、去年11月にFDAが認可した血友病Bの遺伝子治療薬に至っては、1回の治療で済むものの、薬剤費は350万ドル(本日の1ドル131円)で4億6000万円です。ウイルスが運ぶ遺伝子が、血友病で作られなくなった第IX因子を産生してくれるということなので、素晴らしい薬なのかも知れませんが、貧乏性の蒼野の感覚では、もっと違う治療は無いのかと探したくなります。

 アルツハイマー型認知症の話に戻りますが、Aβを減らしてくれる方法は、生活習慣の改善の中にいくつも有ることが分かっています。以前のブログでも書いたように、毎日のノンレム睡眠中に、脳脊髄液が脳内のAβを洗い流してくれます。毎日良眠することが大切です。

 またAβを分解してくれる酵素にネプリライシンがありますが、ネプリライシンはインスリン分解酵素と一緒になると働きます。毎日血糖スパイクを起こし、多量のインスリンが分泌される人では、インスリン分解酵素が不足してしまい、Aβの分解が進まなくなります。毎日甘いものを食べている人や糖尿病の人はアルツハイマー型認知症になりやすくなるのです。

 運動は脳の神経を成長させるBDNF(脳由来神経栄養因子)の分泌を促進し、神経細胞が減るのを防いでくれます。また運動で全身の血流が良くなることでも、アルツハイマー型認知症の発症率は下がるのです。週に3回以上、1日30分以上歩くことから始めましょう。可能なら毎日歩くのが理想です。

 アルツハイマー型認知症は生活習慣病です。体内炎症や重金属やカビなどの毒物、糖質過多、血流不全、外傷の既往、遺伝的要素など多要素が絡み合って起こってくるものと考えられます。もしAβが溜まることだけが原因であれば、レカネマブの様な根本治療薬は、もっと効いても良いはずです。

 実際に個別にアルツハイマーの発症に影響する因子を同定して、生活習慣を改善するリコード法の論文があります。100例の軽度認知障害や初期アルツハイマー症例の検討では、著明改善例や、職場復帰例などが報告されており、進行抑制だけの薬剤とは比較にならないほどの好成績が報告されています1)。

 認知症は老化が大きく関わる疾患です。超高齢化社会を迎えている今後の日本では、西洋医学では予防や治療が難しい疾患で有ると思います。アルツハイマーを発症してから対処するのではなく、Aβが溜まり始める40代からの生活習慣を整えてゆくことが一番重要です。

 さまざまな複合した原因が何年も続いて起こってくる疾患は、いくら高価な薬であっても、それだけでは病状はコントロール出来ません。普通に考えても、経験的にも、当たり前のことの様に思います。製薬会社はボランティアでは無いため、高い薬が売れるのが最終目標のはずです。

 せっかくの素晴らしい国民皆保険制度を続けるためにも、薬以外でも効果のある方法を、保険収載して、医療費を削減してゆくことも検討すべきだと、常々思っています。どんな企業でも対費用効果は検討すると思うのですが、医療界だけが「地球より重たい命を救うために」とか「わずかでも改善するために」という理想論に基づいて、バカ高い薬に税金を投入するのはいかがなものかと思います。

 開発サイドからの研究だけではなく、臨床の場や薬が使われた後の検証を行い、本当に生活習慣の改善に優るのかという検討は、営利的な部分は抜きにしてできると良いなあと思ってしまいます。生活習慣は人それぞれですので、全てを比べることが難しく、データが出し難いことは蒼野も感じます。

 もしアルツハイマーになりかけているときに、レカネマブを注射し続けますかと聞かれたら、いっぱい歩いて、ぐっすり眠り、身体に良い食材を買って美味しく料理し、家族や友人と食べる生活の方にお金を使いたいなあと思ってしまう蒼野でした。

参考文献:
1)Reversal of Cognitive Decline: 100 Patients. ; J Alzheimers Dis Parkinsonism 2018, 8:5 DOI: 10.4172/2161-0460.1000450

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