認知症予防のための新戦略!?

2023/12/20

 今日は認知症のお話です。新しい認知症薬のレカネマブ(レケンビ点滴静注)が日本でも販売承認され、先日薬価がついたというニュースはご存知の方もおられるかも知れません。認知症を心配される患者様の間でも話題になっているようで、今日も外来で、息子さんから89歳のお母様の「物忘れに使えますか?」との質問を頂きました。

 もう一度解説しておくと、レカネマブは脳の中に溜まっていたアミロイドβが顕著に減少する抗体薬で、2週間に一度点滴を続けることにより、プラセボと比べて、1年半後の臨床症状の悪化が27%抑制されたという薬です。これは症状の進行を約7.5ヶ月遅らせる効果に相当しています。

 日常生活能力においても、プラセボと比較すると、37%ほど悪化を防ぐ効果がありました。12月13日に日本の薬価も決まりました。1回10mg/kgを2週間に1回投与するのですが、40kgの人なら1回91554円、50kg以上の人では通常500mgを使用するため、1回114443円になります。年間52週で考えると、体重によって238万円~298万円あまりがかかることになります。

 蒼野はまだ受けていませんが、処方する医師の方も、バカ高い薬だけに、研修を受けたり、施設認定を受けたりする必要があります。当初の見込みでは、年間32000人くらいに投与されるのではないかと推測されており、約986億かかる計算となっています。メーカーによれば、その分介護費用が縮減する効果が期待されるとの事ですが、今後の費用対効果の検討が必須と考えます。

 今までになかった画期的な作用機序のある薬であることは間違い無いのでしょうが、蒼野自身は、老化の一部分でもある認知症が、一つの薬で解決できるとは思っていません。最初に書いたように、このレカネマブは症状の進行を遅らせる効果が確認されている薬であって、認知症を元に戻す薬では無いのです。たくさん使われれば、製薬会社が大儲けできる薬だとは思います。

 日本で使う場合には、高額医療制度がありますので、申請すれば年間144000円以上はかからないことにはなっていますが、本当に症状の改善を望むのであれば、薬だけに頼るのではなく、様々な生活習慣も同時に変えて行ってほしいと思います。

 まずは認知症リスクを高める薬をなるべく使わないことです。アメリカの研究では、認知症を認めない65歳以上の3434例を7.3年間フォローしたところ、797例が認知症を発症しました。それぞれの過去10年間の抗コリン剤の累積使用について調べてみると、認知症発症との間に相関関係が認められました。91~365錠の使用では1.19倍、366~1,095錠で1.23倍、1095錠を超える場合には1.54倍になっていました1)。

 抗コリン剤というのは、さまざまな薬に入っており、市販のものでは風邪薬、鼻炎などの抗アレルギー剤(第1世代抗ヒスタミン薬)、三環系抗うつ薬、頻尿に対する膀胱の薬、腹痛の薬など多岐に渡ります。処方薬が多い人では、抗コリン剤の成分が含まれていることも多いため、歳を取るほど、薬には慎重になって欲しいと思います。

 もう一つの薬はベンゾジアゼピンです。これも多くの研究で認知症リスクが増大することが示されています。ドイツの公的健康保険データを使用した、認知症のない60歳以上の研究では、他の因子の影響を調整した結果、定期的なベンゾジアゼピンの使用によって、認知症は1.21倍に増えることが報告されています2)。

  薬以外にも認知症を防ぐ生活習慣は沢山存在します。今日は以前からたくさん紹介している睡眠や運動、食事以外の要素について説明したいと思います。運動以外の身体活動もアルツハイマー病リスクに影響します。文献を集めたメタ解析による研究を1つ紹介します。

 29の前向き研究を含め、206万8,519例について解析すると、他の因子を調整しても、身体活動が活発な人ほど、アルツハイマー病の発症が少ないことが判明しています。中程度の身体活動では15%、高度の身体活動では44%も有意に認知症発症が少ないことが分かりました。軽度の身体活動では有意差は認められていません3)。

 逆に動かない事での認知症リスクについても研究があります。座位に代表されるエネルギー消費量が1.5メッツ以下の行動、つまりパソコン作業や、テレビ視聴、読書など、じっとして行う行動を「座位行動」と呼びます。イギリスの研究で1週間加速度計を装着できた60歳以上の4万9841人を対象に、平均6.7年追跡しています。

 その間に414人が認知症と診断され、座位行動の時間と認知症発症の関係が検討されています。座位行動が10時間を超えると、認知症は1.08倍、12時間で1.63倍、15時間で3.21倍と有意に多くなることが判明しました4)。まあ一日中寝転がってポテチを食べながらテレビを見ていたら認知症になりやすいと言われると納得できますよね!

 それではどんな活動をすると認知症になりにくいのかという研究も紹介します。日本の国立長寿医療研究センターで日常生活や社会的役割を含むライフスタイル活動と認知症発症との関連を調べた研究があります。65歳以上の高齢者4,564例を対象に、平均42.6ヵ月フォローし、219例が認知症を発症していました。

 ライフスタイルの中で認知症発症率を下げたものとしては、日常的な会話が44%の減少、自動車運転が37%の減少、ショッピングが43%の減少、フィールドワークやガーデニングが29%の認知症発症の減少効果があることが分かりました5)。

 さらに人生に対する姿勢も、認知症リスクと関連しているという研究もありました。45~74歳の日本人3万8,660例を平均9.4年フォローし、4462例の認知症が認められました。自己記入式アンケートによって人生のエンジョイレベルを調べ、認知症リスクと比較したところ、人生が楽しめていない人に比べて、ほどほどに楽しい人では25%、とても楽しんでいる人では32%ほど認知症の発症が少ないことが分かりました6)。

 特に低~中程度の精神的ストレスを抱えている人では、人生のエンジョイレベルが高まるほど、認知症リスクが下がっていることが分かりました。毎日意識して人生を楽しめれば、認知症リスクが32%下がると言う事なのです。楽しまないと損ですよね!

 さて皆様は、認知症が心配な時、期待の新薬を使われますか? それともライフスタイルを見直すでしょうか? 蒼野自身は、91歳の母との付き合いを通して、一緒に美味しいものを食べたり、いろんな話をしたり、身体を動かしたりすることの効果を実感しています。

 身体も脳も使い続ける事が本当に重要なのだと思います。認知症は脳の老化の先にあるものです。老化が進まないように、常に楽しく使い続ける事が、認知症を先送りできる正しい方法なのだと感じます。色々な患者様を見ていても、人生を周囲の人と一緒に楽しく過ごしていく事が、認知症の1番の薬になる! と強く思っている蒼野でした。

参考文献:
1)Cumulative use of strong anticholinergics and incident dementia: a prospective cohort study.; JAMA internal medicine. 2015 ;175(3);401-7.

2)Regular Benzodiazepine and Z-Substance Use and Risk of Dementia: An Analysis of German Claims Data. ; Journal of Alzheimer’s disease : 2016 ;54(2) ; 801-8. 

3)Effect of physical activity on risk of Alzheimer’s disease: A systematic review and meta-analysis of twenty-nine prospective cohort studies. ; Aging research reviews. 2023 ;102127. doi: 10.1016/j.arr.2023.102127. 

4)Sedentary Behavior and Incident Dementia Among Older Adults. ; JAMA. 2023 Sep 12;330(10) ; 934-940

5)Lifestyle activities and the risk of dementia in older Japanese adults. ; Geriatrics & gerontology international. 2018 18 (10);1491-1496. 

6)Perceived Level of Life Enjoyment and Risk of Developing Disabling Dementia: The Japan Public Health Center-Based Study. ;  The journals of gerontology. Series B, Psychological sciences and social sciences. 2023 ;78(12);2001-2008.

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