デトックス その1

2021/11/20

 現代社会では、毒素を避けて生活することはできません。PM2.1などの環境汚染、家の中にいても壁紙や、フローリングから出てくるホルムアルデヒドなどの化学物質、食事の中の重金属や、人工甘味料や保存料などの化学物質、水道水の中の塩素など、原始時代には無かった毒物に囲まれています。その上身体の中で作られるホルモンの調整や、代謝で出てくるアンモニアなどの毒なども、コントロールが必要です。

 人間は生きている限り、それらの毒物を、無毒化して、それを排出し続けています。入ってくる毒がキチンと処理できる範囲内であれば、人間は健康を保つことができるのです。元々人間にはそのためのシステムが備わっています。まず最小単位である細胞が、1日も休まずに、不要なものや毒素を分解、代謝して細胞外に誘導します。

 そして肝臓、腸、腎臓、皮膚、肺を通じて体外に排出します。便、尿、汗、呼気でデトックスされるという事なのです。排泄能力を上回る毒素を摂り続けたり、排泄器官の機能が低下したりすると、体内に毒素がどんどん溜まってゆきます。毒素は脂肪に溶ける性質があるため、肥満がある人は、深刻な毒素蓄積のリスクが高まっているのです。

 毒素が最も多く取り込まれるのは腸です。腸の状態が悪くなると、余計に取り込まれてしまうので、腸の健康を保つことが重要です。食品中の添加物、保存料、酸化した脂質、トランス脂肪酸、グルテンなどの炎症誘発物質、未消化の食事成分、腸内細菌などが体内に入ってきます。

 吸収された毒素は、まず肝臓のフィルターを通ります。細菌は肝臓内の免疫細胞で処理されます。化学物質などは、脂溶性で血流で運べないため、水溶性の形に抱合され、腎臓から尿として排出されます。胆汁の形でも、腸の中に捨てられ、便として排出されます。

 肝臓は、毒を無毒に変える最大のデトックス器官で、その他にも吸収されたアミノ酸を、身体を作るタンパク質に変える際に生じる有毒なアンモニアを尿素に分解します。またホルモンのバランスを調整するために、余分なホルモンも抱合処理されて、肝臓から胆汁内に排出されます。死んだ細菌の細胞壁から出てくるエンドトキシン(LPS:リポポリサッカライド)や、カビに含まれるマイコトキシンも処理しています。

 肝臓は沈黙の臓器と言われ、症状が出にくく、傷害初期には採血しないと悪化に気づけないことが多いです。アルコール過飲や、糖質やカロリー過多による脂肪肝、加工食品の中の添加物や保存料が多いと、機能が低下してゆき、気づかない間に、取り返しのつかないことになってしまう場合があります。なるべく料理は手作りのものを食べたり、お菓子を控えたり、休肝日を設けたりすることはとても重要です。

 蒼野の外来でも、料理をしない独身男性や、男やもめは肝機能が低下している人が目立ちます。以前病院に勤めていた時にも、脳卒中を発症して運ばれてきた人に、独身者が多い傾向がありました。女性では、甘いものが多く、お菓子で食事を代用しているような生活で、運動不足の方の肝機能が、脂肪肝になって悪くなっている傾向が見られます。

 次に大きな問題となるのは便秘です。せっかく肝臓が体内に入った毒素を処理できて、胆汁として腸内に排出しても、長時間腸内に止まることで再吸収されてしまうからです。食べた物は、胃から十二指腸、小腸を通って、栄養が吸収され、7~8時間で大腸に到達します。大腸通過時間は、便秘が無い場合、日本人男性で7.2時間、女性で31.8時間です。合計で男性は14~15時間、女性で39~40時間ほどで排出されることになります。

 しかし便秘の人の大腸通過時間の平均は110.4時間。5日弱もかかってしまいます。例えば女性ホルモンのエストロゲンは、代謝されグルクロン酸抱合された状態となって、胆汁で腸内に捨てられるのですが、便秘があると腸内細菌(エストロボローム)が抱合を外してしまい、体内に再吸収されてしまいます。これは月経過多や月経困難、更年期や閉経後の不調などに関係していると言われ、最近注目されてきています。またエストロゲン過剰の状態になると、乳がん、子宮体癌、卵巣癌のリスクが上昇し、太りやすくなります。

 食物繊維の多い食事は、便秘を改善するばかりか、エストロボロームの働きも弱めます。ベジタリアンの、便中のエストロゲンの排出量は通常の3倍で、血液中のエストロゲン濃度も低下していることが分かっています。男性は関係ないかというと、意欲や性欲低下につながる、男性更年期に関係すると言われています。

 便秘になると、腸の中で炎症が起こり、腸の内皮細胞をカバーしている腸粘液が減少してしまいます。腸壁の防御が弱くなることで、毒素や細菌が体内にどんどん侵入しやすくもなるのです。便をしっかり出すことが、最大のデトックスになるのですから、健康のためには、便秘はとても恐ろしいことなのです。

  デトックスのチェックには、便の観察が一番のバロメーターです。スルッと出てくるバナナうんちが理想です。固くてコロコロした場合には水分摂取や食物繊維が不足しています。運動不足も影響します。現代人は多くが便秘傾向です。体内の脂肪にどんどん毒素が溜まる前に、便秘の解消はとても重要な問題です。

 薬を飲んででも解消した方が良いのですが、便秘薬の選択には注意が必要です。即効性があるのはセンナ、センノシド、ピコスルファートなどの刺激性便秘薬ですが、これらは緊急避難的に使うべき薬です。外来でも他院で処方された刺激性便秘薬を、常用している患者様をよく目にします。長く飲むと効きにくくなり、薬剤量がどんどん増えていき、副作用もでてきます。

 その段階になると、マイルドで長く使える便秘コントロール薬は効果が乏しくなります。コントロール薬に変更を提案するのですが、結局効かないと言って元の薬を続ける方が多いのです。刺激性便秘薬の常用は、結腸壁内神経叢の障害から、腸管運動の低下や腸管拡張・伸長が誘発され、進行すると不可逆となり手術を要する場合もあると明記されていますので、薬局で買う場合には、酸化マグネシウムや漢方薬などでコントロールするのが無難です。

 洋式トイレよりも、和式トイレの方が自然に腹圧がかかりやすく、前傾になることで、直腸と肛門の角度が直線的になり、物理的に便を排出しやすい角度にできるため、望ましい排便の姿勢です。便秘で悩んでいる方は、洋式トイレでも、こぶし2つ分くらいの高さの足台を使ったりすると出やすくなります。

  デトックスは今健康のために、流行っていますが、大元である、肝臓の保護と便秘の解消が、まず最初のポイントとなりますので、たくさん水を飲んで、たくさん野菜や果物を食べ、いっぱい身体を動かして、軽やかに過ごしてゆきましょうね。

参考書籍: 医師がすすめる少食ライフ  石黒 成治

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