毎日しっかり眠って、気持ちよく目覚め、昼間は活動的に身体を動かし、また夜を迎えるというのが、本来の健康的な生活であることは皆様も納得ですよね!リズムが乱れた生活になると、食べ過ぎで太ってしまったり、夜目が覚めることで疲れが取れなかったりした経験は誰にでもあるのでは無いでしょうか。
蒼野も学生の頃、夏休みに時給が高いことに惹かれて、繁華街の夜中から明け方までやっている焼肉屋さんでバイトしたことがあったのですが、20代だったにも関わらず、仕事以外何も出来なくなった覚えがあります。医者になってからも、夜中の呼び出しが続いたりすると、無性に食欲が増した経験もあったりしました。
それがどうしてなのかということが最近の研究で分かってきたので、書いてみたいと思います。これにはいくつかのホルモンが関係しています。ホルモンというのは、体内の細胞間をつなぐ情報伝達系の一つです。我々が健康で過ごすには、細胞がお互いに連携を取ることで、体内の状態を一定に保ち、必要なエネルギーを得たり、反応を起こしたりすることが必要です。
ヒトも動物ですから、夜は休息のための時間であり、昼間は活動時間です。その調整を行なっているのがホルモンの役割です。一番有名なものは睡眠ホルモンであるメラトニンです。脳の松果体というところから分泌されるホルモンで、規則正しい生活であれば夜20時から22時くらいに濃度が急上昇し、良い睡眠を作ってくれます。
朝の光の刺激によってメラトニンの原料となるセロトニンが作られることで、濃度が上昇します。太陽の光を浴びた14~15時間後から分泌が高まるのです。休みの日に昼まで寝ていると、その夜はしっかり眠れなくなりますし、加齢によってもメラトニンが作られる量は減ってゆくので、夜中に目が覚めやすくなります。
メラトニンを出す松果体というのは、ニワトリやサカナなど多くの動物では、光を感じるいわゆる第3の目に当たります。インド医学では額の真ん中のチャクラがこれに当たると言われており、昔から重要な器官と認識されてきました。漫画でも、「三つ目がとおる」とか、ウルトラセブンも額の真ん中には大きな力があると描かれていますよね!
元々のヒトの体内時計は、光のない洞窟などで生活させると、25時間前後になります。毎日規則正しく起きて、第3の目に光の刺激を届けることで、メラトニンが分泌され、体内時計が補正され、体内のリズムが整うのです。
体内リズムに重要なホルモンはもう一つあります。1991年に日本人の柳沢正史先生が発見したオレキシンです。遺伝子操作でオレキシンが出ないマウスを作ると、突然強い眠気に襲われる病気である、ナルコレプシーを発症することから、覚醒に必要なホルモンであることが分かりました。
体内でオレキシンが活性化していると、しっかり覚醒し、オレキシンが少なくなると眠ってしまうことが分かっています。自律神経の最高中枢である視床下部から分泌されており、1、空腹 2、体内時計が朝になる 3、ストレスで気持ちが昂るなどの刺激によって分泌が増します。
お腹が空きすぎると眠れませんよね! 逆に満腹になると眠たくなるのはオレキシンの分泌が低下するからです。特に血糖値が影響します。甘いものや炭水化物を食べると眠くなるのは、食後の低血糖の影響もありますが、基本的にはオレキシンが低下するからなのです。
朝になるとオレキシンが分泌され、日中の覚醒が維持されます。オレキシンはエネルギー代謝にも関与していて、筋肉への糖の取り込みを促進してくれます。ヒトも元々は野生動物ですので、朝になってお腹が空くと、エサを探さないといけません。狩りをするのも、木に登って果実を取るのも、木の実を拾うのに歩き回るのにも、沢山のエネルギーが必要ですし、細心の注意が必要です。
それを可能にしてくれるホルモンがオレキシンなのです。意識を最高レベルにまで覚醒させ、インスリンに頼ることなく、筋肉でのエネルギー利用を促進します。インスリンは脂肪細胞にも糖を取り込ませて太らせますが、オレキシンは筋肉で糖を使わせる経路なのです。
これで一つ謎が解けます。朝や昼に食べても太りにくいけど、夜遅く食べると太るというのはオレキシンの影響が大きいのです。オレキシンが下がらなければ眠れません。オレキシンが下がった状態で栄養が入ってくると、睡眠中は筋肉で使われることはないため、全て脂肪細胞に溜まってしまう事になるのです。
ストレスによってオレキシンが活性化されるのも理に適った作用です。敵と戦ったり、全力で逃げる時にも、最高レベルの覚醒と、エネルギーが必要となります。ストレス時に出てくるコルチゾールは、戦いの時のエネルギーの確保のために筋肉を分解してでも血糖を上昇させ、またインスリンを効きにくくして血糖を上げる作用があります。人はオレキシンとコルチゾールのおかげで、原始時代を生き抜き、現代に至ったと考えることができるのです。
困ったことに現代のストレスは、メンタルからのものが多くなり、簡単には片付けられないものが増えています。心配事があると眠れませんよね! 蒼野も我が家の柴犬が居なくなった夜は眠りにくかったです。つまりオレキシンと同時にストレスホルモンであるコルチゾールが出ている状態です。
これは現代病の一つである肥満に大きな影響を与えています。ストレスがあるとオレキシンが活性化して眠りにくくなります。睡眠不足の状態になると、満腹ホルモンであるレプチンは低下し、空腹ホルモンであるグレリンの血中濃度が上がります。つまり食欲が増大してしまうのです。
これは実際に健常人を対象とした実験的研究で確かめられています。2日間十分睡眠を取ったあと、 2日間4時間睡眠にすると、血中グレリンは28%上昇し、血中レプチンは18%低下しました。空腹感や食欲も23~24%増加し、特に高糖質食に対する食欲が32%も増加しました1)。
睡眠不足だと甘いものが食べたくならないでしょうか?これは蒼野も経験があります。ストレスでコルチゾールが上昇すると、筋肉が減りやすく、インスリンの効きが悪くなりさらに血糖が上昇します。ストレスが続けば、オレキシンが下がらない事によって睡眠不足も続いてしまいます。食欲が増して食べてしまうとどんどん太るのです。
恐ろしいですよね。ストレス太りはいくつものホルモンが、現代特有のストレスによって、不眠と過食の悪循環を繰り返す結果なのです。ちゃんと眠れない事で、セロトニンも出なくなるため、メンタルも悪化し、ますますストレスが処理できなくなってしまうのです。
現代の日本のメタボリックシンドロームの原因は、睡眠不足や生活リズムの乱れが、かなりのウェイトを占めている様に思えてなりません。患者様で糖尿病を改善しようと思っても、睡眠時間が短ければなかなか改善しない人をよく見かけます。
毎日規則正しく過ごすことで、セロトニン、メラトニンが整い、ストレスに強くなります。最近ではメラトニンを上げる事で眠りやすくなるメラトニン製剤であるロゼレムや、オレキシン受容体拮抗薬(オレキシンの作用を低下させ、覚醒レベルを下げる薬)であるベルソムラやデエビゴは処方でもらうことができます。ある程度自然な眠りに近い効果があり、副作用も少ないため、不眠で困っている時には処方してもらうと良いかも知れません。
朝日と共に起きて、昼間活動的に動き、暗くなったら眠るというのは、体内時計やホルモンの変動から考えても、本当に必要な健康法なのだなあ、と改めて思った蒼野でした。
1)Brief communication: Sleep curtailment in healthy young men is associated with decreased leptin levels, elevated ghrelin levels, and increased hunger and appetite. ; Ann Intern Med 2004; 141(11): 846-850.
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