誰も気付かない薬剤誘発性認知症!

2022/12/15

 蒼野は医者になって38年目になります。若かった頃は、薬のサンプルを貰ったり、手軽に処方できたりするため、自分自身もよく薬を飲んでいました。しかし経験を重ねるにつれて、薬って怖いなと思う気持ちが強くなってきました。今日はそんな話の一つ、薬剤誘発性認知症の話です。

 精神安定剤や、不眠症の薬は認知機能に影響があるかも?と言うことは知っていると思うのですが、市販薬も含めて、副作用で認知機能障害が起こる可能性があると言うことを知っている人は少ない印象です。と言うのも医師が出している高齢の方に対する処方でも、蒼野が認知症で診察した時に、何剤も重ねて処方されているのを、よく目にするからです。

 この知識の必要性が叫ばれ始めたのは、ごく最近のことです。これは加齢と共に、薬剤の代謝が遅くなり、影響が出やすくなることや、ベースに軽度の認知症が発症し始めていること、1剤では影響が無くても、老人では多剤を服用していることが多く、幾つもの薬が重なって、認知機能が低下する事などが分かってきたからです。

 日本老年医学会の『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン 2015』では、75歳以上の高齢者において、特に注意すべき薬を挙げています。まずは睡眠薬や抗不安薬です。もともと体内に長時間残るタイプの薬は、寝る前に飲んでも、高齢者では次の日にも影響が残ります。みかける処方としてはロヒプノール/サイレース、ユーロジン、ベンザリンなどでいずれも半減期が24時間以上になります。

 しかし短時間作用型の薬でも安心は出来ません。スパッと眠れると使い心地が好評で、これで無いと眠れないと言われて患者様に要求される薬の一つがハルシオン(トリアゾラム)です。キレが良い代わりに健忘症状が出やすいのです。ハルシオンは青いパッケージなのですが、かつて青玉と呼ばれ、アルコールを飲んで、眠らずに我慢していると、トリップできると言うことで、反社会組織が闇販売していて、問題になったこともある薬なのです。

 睡眠薬の種類としては脳の機能を低下させて眠らせる作用が強い薬になります。即効性が期待でき、効果も高く、超短時間型なので翌朝残りにくい事などが特徴です。患者様の感想も良いことが多く「先生、良い薬を処方してくれてありがとう!」と感謝されやすい薬なのです

 その依存性が問題になることが多い、ベンゾジアゼピン系の薬であり、海外ではもう使われなくなってきている薬です。一旦使い出すと減量も難しく、稀には乱用されたりもする薬です。若い頃から飲み始めても、高齢になってくると、認知症の要素との相乗作用で、物忘れが目立つ様になります。高齢者には飲んでほしく無い薬なのですが、世界的な処方量は減っても、未だに世界総販売額の約6割が日本で処方されています。

 次によく見かける薬は、以前のブログでも紹介したデパス(エチゾラム)です。蒼野も若い頃は、頭痛に良く効くため、多用していたことがあります。筋肉の緊張が緩むため、肩こりの頭痛やストレスの人の頭痛には効果抜群でした。これも短時間型ですが、やはりベンゾジアゼピン系であり、依存が起こります。

 未だにデパスを要求する患者様はとても多く、なかなか減量や中止が難しい薬です。寝る前だけに使っている場合は許容できる部分もありますが、朝晩とか毎食後に処方されていると、認知機能が低下してしまいます。しかし統計ではデパス(エチゾラム)は2017年でも75歳以上の高齢者で4億2157万錠/年も処方されています。

 2011年の国立精神・神経医療研究センターの調査報告では、睡眠薬・抗不安薬の処方の8割が、精神・神経科以外の「一般診療科」からのものであるとされています。蒼野は認知症専門医ですので、副作用を知り処方しなくなりましたが、若い頃していた処方がアップデートされないまま、処方を続ける医師が多いと言うことなのだと思います。

 日本精神神経学会の2017年の「認知症疾患診療ガイドライン」には、認知機能障害の患者の中で、薬剤に関連するものは2~12%あると推測されています。海外の論文でも10%前後の報告が多く、認知症400万人、軽度認知障害400万人時代を迎えつつある現代で、その1割と言うのは大問題だと思うのです。

 確かに経験的にも薬が整理できると、症状が改善する人も居られまるのです。短期の服用なら良いかもしれませんが、薬を飲み続ける場合には、飲んでいる人や家族が、その可能性を知っておくことが重要になります。医師が薬剤の危険性を知らなければ、副作用が起きても「お年ですから」と老化現象や認知症発症と認識されてしまったり、多剤を飲んでいると犯人が同定できない場合が多いからです。

 アルツハイマー型認知症や、レビー小体型認知症では、脳内のアセチルコリンが欠乏しています。アセチルコリンは神経伝達物質ですので、アセチルコリンを抑える抗コリン剤はさまざまな病態に応用されています。抗コリン作用がある薬を長期服用することで、認知機能が低下することに注目している医師は多くありません。

 ドーパミンが低下して対抗するアセチルコリンが強くなって、手が震えたり、動きが硬くなったりするパーキンソン病に、抗コリン薬が使われます。また風邪薬や、蕁麻疹、痒み止めや花粉症などで使うことがあるH1受容体に作用する抗ヒスタミン薬も、ヒスタミン受容体とアセチルコリン受容体の構造が似ているため、抗コリン作用を示します。抗アレルギー剤や風邪薬で眠くなるのは、脳への影響なのです。

 頻尿の薬も、抗コリン作用によって、膀胱の収縮を抑え、尿意の切迫感や頻尿を改善します。ガスターなどの胃酸分泌を抑える薬は、H2受容体に作用する抗ヒスタミン剤です。これもアセチルコリン受容体に影響する抗コリン作用を持っています。一般的に75歳以上になると40%が5種類以上、25%が7種類以上の薬を服用しています。

 頻尿で、体が痒く、薬が多いので胃がムカムカするお年寄りに、それぞれ薬が処方されていて、風邪をひいた時に、総合感冒薬を飲んだら、全ての抗コリン作用が重なり、認知症状が出たなんて言う場合が、容易に想像できないでしょうか? 今までは大丈夫だった薬ばかりです。薬剤誘発性認知症を意識していない、かかりつけの先生は気付くのでしょうか?

 もちろん高齢になる毎に、認知症の割合は増えてゆきます。男性は75~79歳で11.7%、80~84歳で16.8%、85~89歳で35%、90~94歳で49%、95歳以上で50.6%です。女性はもっと多く、75~79歳で14.4%、80~84歳で24.2%、85~89歳で43.9%、90~94歳で65.1%、95歳以上で83.7%にもなります。

 もちろんこの中に、薬剤によって余計に悪くなっている人がいるものと推測できます。自分で言うのも何ですが、医師も完璧ではありません。勉強を続けられない医師がいるのも変えられません。蒼野も知らない事が沢山ありすぎて、嫌になることがあります。しかし、一つ一つ勉強しながら、医療が原因で悪くなる人も減らしたい! と言う想いは持っています。

 ご高齢のご家族がおられる方は、頭の片隅に”こんなこともあるんだ”と思って貰えれば嬉しいです。蒼野は薬だけには頼らず、日常生活の中で、症状が改善する方法も追求してゆきたいと思っています。皆様も健康リテラシーを高め、今ある健康を失わないように、生活をアップデートしてゆきましょう!

参考ページ: 高齢者の安全な薬物療法ガイドライン 2015 
https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/info/topics/pdf/20170808_01.pdf

日本神経学会  認知症疾患診療ガイドライン
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/nintisyo_2017.html

過去ブログ:

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