昨日のブログで、脂質(脂や油)と砂糖(炭水化物)について、栄養学上での常識の変遷を書きました。もちろんどちらも大事な栄養素ではあり、沢山食べすぎなければ問題は無い物です。飽食の時代となった現代では、人類が食べて来なかった種類の油や、大量の炭水化物を食べ過ぎることが、我々の健康を蝕む事態となっているのが問題なのです。
原始時代からの飢餓の歴史で、人類を支えてきたエネルギーは、脂質であった可能性が高いと思います。最もエネルギーのある食べ物であり、植物の果実や根に含まれる炭水化物は多くはなかったと考えられるからです。石器時代の食事は、主に肉、魚、果物、野菜、根菜、種子、堅果(ナッツ)、昆虫などでした。
原始人の食事と現代人の食事との違いに関する研究があります。元々の人類の食事の栄養特性としては、1)血糖が上がりにくい 2)脂肪酸の割合が現代と違う 3)食材は少しずつしか取れないため様々な栄養を摂っていた 4)ビタミンミネラルが豊富 5)ナトリウム/カリウム比の違い 6)食物繊維が多い などが指摘されています1)。
また違う論文でも、古代人と、産業革命以降に激変した現代人の食生活やライフスタイルの違いが、アテローム性動脈硬化、本態性高血圧、多くの癌、真性糖尿病、肥満などの慢性疾患の強力な促進因子となっている事が指摘されています。推計すると、これらの生活習慣の違いが先進国の全死亡の75%を引き起こしていると結論しています2)。
人類がどの地域に住んでいても、炭水化物の割合が少なかったことは、容易に想像できますよね!人類は長い間そういう食べ物の割合で進化してきているため、大量の炭水化物には対応が出来ないのは当たり前です。また脂質に関しても、量と質が、現代とは大きく違う事が問題になるのです。
昨日、糖質を増やすよりも、脂質を増やす方が影響が少ないと書きましたが、増やす脂質の質が大きな問題です。今日は脂質について、もう少し深掘りしたいと思います。減らすべき脂質と増やしても大丈夫な脂質について、一緒に勉強しましょう!
まず脂質の種類についてです。脂質には飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸、トランス脂肪酸の3種類があります。飽和脂肪酸は主に動物性食品に含まれます。例えばビーフの脂でも飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸が混在しています。飽和脂肪酸は約50%、一価不飽和脂肪酸は45%で、その殆どがオリーブオイルと同じオレイン酸です。残りの5%が多価不飽和脂肪酸で、ほとんどがリノール酸(オメガ6)です。
もちろん飼育環境によって、栄養成分は変化しますが、食材として、肉自体はある程度安心できる脂肪の割合のように思えます。同様に大雑把に言えば、豚の脂は約40%が飽和脂肪酸、約45%がオレイン酸、15%がリノール酸です。鶏の皮は約30%が飽和脂肪酸、約40%がオレイン酸、30%がリノール酸です。
現代の食事で圧倒的に増えたのは植物油の割合です。昨日も書いたように、マーガリンが日本で広く使われるようになったのは1960年代。加工食品内に食用油が用いられるようになったのは1950年以降です。2021年の日本人の消費量から見ると1、キャノーラ油44% 2、パーム油28% 3、大豆油20% 4、米油4.5% 5、ごま油2%となっています。
脂質は身体にとって、多量の糖質よりも原始時代から使ってきた馴染みのある栄養素です。しかし、植物油が増え、オメガ6の割合が増えたこと、そして酸化脂質が増えたことが現代病の原因になっていると言われています。一つ目は不飽和脂肪酸割合の変化です。原始時代はオメガ6とオメガ3の割合は1:1でした。
しかし現在消費されている植物油のオメガ6/オメガ3比は、キャノーラ油20/9 パーム油9/0 大豆油51/7 米油42/0 ごま油19/0と圧倒的にオメガ6が多いのです。オメガ3を含む油としては、亜麻仁油、エゴマ油、魚油などになりますが、魚の消費が減っている現代日本では、平均すると8~10:1程度の比率になっています。
オメガ6は体内でアラキドン酸に変わり、体内炎症を促進します。一方オメガ3は、EPAやDHAに変化し、体内炎症を抑え、血栓を予防します。その比率がアンバランスになった現代では、体内炎症が亢進しっぱなし=慢性炎症の状態になっている人が多いと言えます。
炎症が血管で起これば、血管は活性酸素で傷つき、動脈硬化の原因になります。炎症でインスリン抵抗性が惹起され、太りやすくなり、糖尿病のきっかけになります。炎症は自律神経のバランスを崩し、不眠やうつ病消化管の機能不全を起こします。常に炎症状態となると、免疫反応が活性化して疲弊し、免疫力自体が低下してしまうのです。
もう一つの大きな問題は酸化脂質です。多価不飽和脂肪酸(オメガ3、6)は酸化しやすい脂質です。酸化脂質が細胞内に取り込まれると、フリーラジカルを増加させます。フリーラジカルは近くにある物質から電子を奪い、奪われた物質がまるでゾンビのようにフリーラジカルとなります。この連鎖は抗酸化物質などの作用で抑制されるまで続きます。
いわゆる身体のサビです。しっかりと食事から抗酸化物質を摂っていなければ、酸化脂肪が原因となった体内の酸化反応は続いてゆき、体はどんどん老化することになります。脂質は身体のあらゆる細胞の細胞膜の成分であり、特に脳では神経を保護するミエリンの成分でもあります。脳の60%は脂質であり、反応しやすいオメガ3主体の多価不飽和脂肪酸です。
酸化脂質は、高温処理、酸素に触れている時間が長いなどで増えてゆきます。もちろん揚げ物には多く、特に何度も揚げた油は酸化しています。外食や惣菜などの調理では、1回揚げるごとに油を変えるはずがありません。何百回、何千回と使い回された油であってもおかしくありません。揚げ物は美味しいですが、出来れば自宅で少量の油で揚げ焼きし、揚げたてを食べましょう。市販の揚げ油ではなく、酸化しにくいオリーブオイルを使うのがお勧めです。
表面積が大きく、作ってから時間が経っているポテトチップスなどのスナック菓子を筆頭に、揚げ菓子、インスタントラーメン、ドーナツやクッキー、パン、ケーキ、ピザ、パスタ、アイスクリームに至るまで穀物を原料とするものに含まれる油は酸化している事が多いのです。
こういう食べ物は、高齢になるにつれて危険なものになります。体内の抗酸化システムが衰えてくるため、1食食べた場合の体内の脂質酸化マーカーの上昇は、若い人なら50%増で済みますが、高齢者では15倍にも達します。食べる度に、全身の細胞、特に脳細胞が傷害され、老化してゆくのです。日常的には食べないように、そしてもし食べる場合には抗酸化物質を十分に補ってくださいね!
また特に多く摂取されているリノール酸は、高温加熱によってヒドロキシノネナールという毒性の強いアルデヒドを生成します。これはアルツハイマー病などの脳の変性疾患の原因の一つと考えられているのです。動脈硬化や癌の原因としても疑われている物質です。
情報量が多くなってきて、1日のブログでは書ききれなくなって来ました。ここまでをまとめると、現代社会では不飽和脂肪酸の摂取割合のバランスが取れていない場合が多いため、オメガ3の油を意識して摂る必要があるということ。そして外食や加工食品に含まれた不飽和脂肪酸は酸化していて、頻回に摂るべきではないと言うこと、体内の酸化反応を止めるために、抗酸化物質を意識して摂る必要があるということが言いたいのです。
オメガ3のαリノレン酸は亜麻仁油、チアシード、くるみ、アーモンドなどに多く含まれます。体内でEPAやDHAに代謝されますが、代謝効率は5~10%程度ですので、魚で摂るのが一番です。可能であればあまり火を通さない形で摂取しましょう。体内炎症の軽減には、毎食たくさんの種類の野菜と、せめて2日に1回は魚料理を食べるのが良いと思います。
明日も脂質について、追加して書きたいと思っています。なるべく刺身を食べようと思う蒼野でした。
参考文献:
1)Origins and evolution of the Western diet: health implications for the 21st century. ; The American Journal of Clinical Nutrition, 81(2), 2005, 341–354
2)Stone agers in the fast lane: chronic degenerative diseases in evolutionary perspective. ; The American Journal of Medicine, 84(4), 739-749.
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