高齢者の物忘れは見過ごしてはいけない!

2023/02/12

 一昨日のブログで、健康長寿で100歳を迎えた人の認知機能について書かせていただいたのですが、100歳まで生きる事ができる、健康のエリートである人々でも、普通に会話が成り立つ人は男性53.1%、女性36.3%。日付が分かる人は男性45.1%、女性23.1%という事でしたので、健康長寿には認知機能の低下は避けては通れないことのようですね。

 また昨日のブログで書いたように、長く生きていれば、様々な感染のリスクも増えますし、新陳代謝で新しくなる事がない神経細胞で出来ている脳は、必ず劣化してゆくという事だと思います。患者様を診ていると、特に70代くらいからは、若い人以上に頭脳明晰な方と、ぼーっとしている方の差が開いてくるように感じます。

 ここで認知症について、具体的にどんな疾患なのかをもう一度振り返っておきたいと思います。現在のところ認知症の根本治療はまだ見つかっていません。認知症は脳の変性疾患が大半であり、その進行は緩徐なものが殆どです。ですから認知症の始まりの症状が分かっていれば、それを遅らせる方法を選択出来るからです。

 認知症は、一般の認知症に興味が無い先生に相談しても、かなり症状が進まない限り診断してもらえません。MCIや初期の段階では、簡便な認知機能検査の点数は下がらないからです。しかも進行はゆっくりですので、少し物忘れが増えてきても、本人もご家族も「歳のせいかな」と考える事が多いのです。病院で診察してもらい、点数だけで判断されれば、認知症じゃなかったと安心してしまいます。

 皆様もアルツハイマー型認知症で、脳の中にアミロイドβが蓄積を始めるのは、症状が出る20年前からという事を聞いた事があるのでは無いでしょうか? 蓄積の過程で最初に起こってくる症状が、新しい事が覚えられないという症状です。自覚的に物忘れが増えたかもと自覚できるのはこの段階です。誰にでもある事だし、私も歳をとってきたからだと、対策を取らないのは勿体無いです。

 アミロイドβが溜まっていても、生活習慣を変えることで認知症の発症はどんどん遅らせることが出来ます。症状が進んでゆくと、軽度認知障害(MCI)という状態に至ります。この時の特徴は、昨日の電話を覚えていないなどの、自分の体験がスポッと抜け落ちるような忘れ方です。MCI の状態で対策を取らなければ、3年で約60%が認知症を発症することになります。

 厚生労働省の試算では2025年に認知症になるひとは約700万人、5人に1人と言われています。2012年の調査で認知症患者462万人の時点で、MCIが400万人いると推計されていることから、2025年では高齢者全体が3640万人いる中で、1400万人前後が認知症+認知症予備軍となる計算になります。もちろんこれは高齢になる程割合が増えてきます。健康長寿を目指すのであれば、若い頃からの対策、せめて物忘れが気になり始めてからの対策は立てておくほうが良いと思うのです。

 アルツハイマー型認知症にしても、映画などで描かれるように、認知症と診断されたら、どんどん病気が進んで、脳を消しゴムで消すように、愛している人や家族が分からなくなったりする訳ではないことをまず意識しておく必要があります。進行すれば確かに徘徊とか、身近の人を泥棒扱いするとか、大声を上げて怒るなどという周辺症状が起こる事はありますが、介護で普通に暮らせる人の方が多い印象です。

 むしろ最初の症状は、物忘れが多くなると共に、少し元気がなくなり、今まで好きだった趣味をやめてしまったとか、料理を作るのが億劫になったとかから始まります。活動的だった人が1日中テレビを見ているような、大人しくなってしまう病気なのです。そういう日々が何年も続くうちに、段々何も出来なくなり、何もしなくなる病気なのです。

 外来でアルツハイマーになった人に訊くと、「物忘れなんかしません」と言われます。忘れた体験を忘れてしまうため、自覚できないためです。認知症中期までであれば、思考力や判断力もしっかりしており、話を合わせる力も普通にあるため、家族以外では気付けないことも多いです。自覚が無ければ、自分から生活習慣を変えることができる高齢者はおられません。

 だからこそ、MCI以前の、少し活動性が落ちてきたような、少し物忘れがある段階で、対策を立てることが重要になるのです。ここでもう一つの物忘れを起こす疾患についても注意しておく必要があります。それは老人性うつです。

 老人性うつも元気がなくなり、物忘れが激しくなる疾患です。メンタルが落ち込むとやる気がなくなり、集中力も無くなるため、経験したこと、聞いた事などが頭に残りません。若い人で物忘れで悩んで受診するひとは、圧倒的にうつ病の人が多いのです。うつ病は早期に気づいて、治療を開始するほど早く寛解する疾患です。

 厚生労働省の報告では、うつで心療内科にかかっている人は120万人とされていますが、世界的なデータで見ると、うつ病の有病率は3~5%です。現時点で日本には380~630万人のうつ病患者がいる計算になります。うつ病まで至っていない抑うつ気分の人まで含めると人口の10%、1260万人前後では無いかと言われているのです。

 現在人口の30%を占める65歳以上の老人性うつの人数は、若い人よりも発症率が高いこともあり、日本のうつ病患者の3分の1以上、つまり420万人くらいは高齢者であろうと推定されています。若い人が仕事や人間関係のストレスでうつ病になるパターンはよく知られていますが、歳を取ってからは、体の不調とか、暮らしにくさ、孤独などの問題が深刻である人が沢山居られるのでしょうね。

 老人性うつと認知症の始まりは一見似ています。なんとなく元気がない、やる気がない、一日中ぼーっとしているなどで発症するからです。発症したのが急で、すぐに分かるようならうつ、いつからか分かりにくいようなら認知症が疑われます。うつ病の物忘れは突然始まることを覚えておきましょう。

 また本人に自覚症状がある場合は、認知症でない事が多いです。うつの場合は急に自覚のある物忘れが目立つようになり、食欲がなくなり、眠れなくなります。寝つきが悪く中途覚醒が多くなります。認知症は自分ではあまり物忘れは気にならず、食欲はあり、以前よりも食べるようになったり、長く寝るようになったりします。

 老人性うつは早期であれば、投薬や生活指導などの治療で寛解させる事ができますので、早期の対応がとても重要です。うつ自体の症状も治療が遅くなるほど治りにくくなる上、何もできず動かない時間が増えてしまうと、筋肉が落ちてそれこそ寝たきりの原因になってしまうからです。また若い人よりも自殺率が高いため、認知症よりも注意が必要な疾患なのです。

 一般的にも加齢によって、元気がなくなったり、食欲が落ちたり、眠れなくなる人は居られるため、老人性うつは発見が遅れやすいです。急に物忘れが進んだ場合には、早めに心療内科などの専門医で相談しましょう。早期であるほどうつ病は治りやすいので、老人性うつという疾患の知識も頭に残しておいてくださいね!

 健康長寿のためには、認知症の始まりに気づくことと、老人性うつに気づいて早めに治療することが大事という事を、知っておいてほしいです。物忘れが出てくる高齢者は、認知症+MCI で1400万人、老人性うつで420万人と、老年人口の丁度50%です。どちらも早めの対策が本当に重要です。

 今日は対策についてまで書けませんでしたので、続きは明日書かせて頂きます。同じ話をよくするようになった90歳の母親は、蒼野の診断ではMCIなので、毎月会って生活を変えてゆきたいと思っています!

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