エナジードリンクは控えめに!

2021/11/26

 カーレースやバイク、飛行機競技、スケボーや音楽イベントなどのスポンサーでもあり、コンビニでも買える、おしゃれな飲み物。甘くて美味しいけど、ジュースより高価で、飲むと頑張れそうな気がするエナジードリンクは、若者の間で人気の飲み物の様です。

 例えば「Red Bull」は、250ml、330ml、355mlで、少量のビタミンB群と、アルギニン、カフェイン、糖質が入っています。効果として・眠気覚まし・テンションアップ・利尿作用・滋養強壮などが謳われています。糖質が27.5g/250 ml、小さい缶で4gの角砂糖で約7個、カフェインは80mgでコーヒー1杯分です。

 また「MONSTER ENERGY」は、現在日本では11種類発売されており、ビタミン以外にも、高麗人参成分が入っていたりして、いかにも効きそうなイメージです。糖質量は「Red Bull」と同じですが、カフェインが増量してあり、1本あたり142mg入っています。

 近年、エナジードリンクの常用から、カフェイン中毒、カフェイン依存になって健康被害に至るケースが増えています。調べてみると、摂取許容量は国によって違う様です。「MONSTER ENERGY」では、北米では480mg、オーストラリアでは160mgまでが望ましいと記載されています。蒼野も、CMのカッコ良さから、飲むと翼が生える様な気がして、喜んで飲んでいた時期がありましたが、摂取量に基準があることは知りませんでした!

 日本の355 ml缶の表示には「1本あたり142 mgのカフェインが含まれています。適量の飲用をお願いします。」や「お子様、妊娠中または授乳中の方、カフェインに敏感な方にはお勧めしません。」と少し曖昧に書かれている様です。これを読んで飲むのを止める人はいないと思うのは、蒼野だけでしょうか?

 2012年にはアメリカメリーランド州で、14歳の少女が、「MONSTER ENERGY」700ミリリットルを24時間以内に2本飲用し、死亡して訴訟になりました。病理解剖の結果では、「カフェインの毒性による心臓の不整脈」が死因とされていますが、会社としては、世界中で80億本売っているのに、他に症例は無く、直接の死因ではないとしている様です。

 カフェインは脳の神経細胞を刺激し、眠気を防いだり、集中力を高めたりする効果があります。特にエナジードリンクのように、アルギニンと一緒に飲むと、脳内の興奮が高まり、さらに依存性が増強されると言われています。カフェインは短時間に過剰に摂取すると、致死量も設定されている薬物ですので、重大な健康被害をもたらすケースがあるのです。

 2017年の報告になりますが、日本でも急性カフェイン中毒で救急搬送された患者が、5年間で101人いたことが分かりました。症状は吐き気や意識の低下、中には心肺停止状態で運ばれた人もいました。そのうち3人が亡くなっています。搬送された人の平均年齢は25 歳。圧倒的に若い世代が多いのが特徴です。

 さらに5年間に、東京23区で、死因が分からず亡くなった人のうち、36人の血液から高い濃度のカフェインが検出されていたことも明らかになっています。

 急性カフェイン中毒になった経験がある、28歳の症例です。長時間の派遣の仕事を乗り切るため、立て続けにエナジードリンクを3本と栄養ドリンクを1本飲みました。しかし、その直後、悪寒が走り、手がしびれ、立っているのもつらくなりました。病院に駆け込んだところ、医師からカフェインの中毒症状と診断されました。ボトルには使用量の表示はなかったため、“3~4本なら問題ないだろう”と考えたといいます。

 大学受験の勉強中、眠気が取れ、集中できたことから、エナジードリンクのヘビーユーザーになっていた20歳の症例では、だんだんエナジードリンクだけでは効果がなくなってきたので、1粒に、エナジードリンクおよそ2本分のカフェインが入っている市販のカフェイン入りの錠剤を常用する様になり、より強い効果を求めてカフェインを大量摂取し、病院に搬送されました。

 日本中毒学会の調査で明らかになった、カフェイン中毒の実態は、病院に搬送された9割以上のケースで錠剤を摂取していました。しかも、致死量とされる5グラムを超すカフェインを摂取していたケースが62人。死に至った人が3人いました。

 致死量としては、「MONSTER ENERGY」では7本以上、そして錠剤ですと、5錠から10錠に当たります。しかし、カフェインへの感受性が強い人は、200ミリグラム(エナジードリンク1本半)でも、中毒症状が出る場合もあるようです。

 エナジードリンクで、カフェインの効果を10代の早い時期から体験してしまうと、それがエスカレートして、カフェインを次第に過剰摂取していくというような状況になりやすくなります。ジュースの様に飲める飲み物だけに、子供さんには飲ませないことが重要と考えます。

 カフェインも糖質もドーパミン分泌を促します。報酬系を刺激するため、ダブルで摂取すると依存症になる可能性が高いと言われています。さらにアルコールと混ぜるカクテルもある様ですが、さらに依存を強めるものですので、トリプルで本当に危険です。酔って沢山飲んでしまう危険も高まりますので、止めておきましょう。

 さてエナジードリンクの実際の効果については、実験があります。健康な男女に、カフェイン200mg入りのエナジードリンクを飲んでもらい、認知神経学的な作業を行なってもらいました。自覚的には元気で疲れにくくなった自覚があったようなのですが、実際の作業効率は、エナジードリンクの有り、無しで変化はありませんでした1)。

 脳が興奮して、元気な気分になるけれど、パフォーマンスは上がらないということです。しかも飲むと血圧や心拍数は優位に増加しており、作業中の脳血流の低下も確認されました。その他、明らかな睡眠の質の低下や、アルコールの同時摂取での、致死的不整脈の増加が指摘されています。

 長期的な安全性のデータもありません。エナジードリンクで命を削りながら、仕事や勉強をするよりも、30分の仮眠をとってから、仕切り直して取り掛かることをお勧めします。

 蒼野の外来にも、エナジードリンクを常用して、片頭痛が慢性化している若者が、時に訪れます。エナジードリンクのリスクについて、一生懸命説明させて頂いております。

参考文献:
1)The effects of energy drinks on cognitive performance. ; Tijdschr Psychiatr. 2008;50(5):273-81.

参考書籍: 医師がすすめる少食ライフ  石黒 成治

医師がすすめる 少食ライフ [ 石黒 成治 ]
価格:1518円(税込、送料無料) (2023/3/10時点)楽天で購入