腸内細菌は関節痛の救世主になる!?

2023/05/15

 今日は関節の痛みに、腸内細菌が関係しているかも、という話を書きたいと思います。一見関係なさそうなのですが、関係が疑われるという論文は、幾つか出てきています。まず関節リウマチに関するものから紹介したいと思います。

 2013年に公開され、一つの転機となった研究があります。関節炎症の動物モデルで腸内細菌の影響がある事が判明したため、ヒトにおいてリウマチ関節炎患者と健常者の便サンプルを比較してみた研究です。結果として未治療のリウマチ関節炎患者の便中に、Prevotella copriという腸内細菌の割合が異常に増えており、善玉菌とされるBacteroidesの割合が減少していることが判明しました1)。

 慢性関節リウマチは、膠原病と呼ばれる自己免疫疾患の一つで、明らかな原因はわかっていません。しかし遺伝や環境、免疫系の異常反応などが関与していると考えられています。朝や長時間の静止後に悪化する、関節の痛みやこわばり、腫れや炎症が起こり、時間が経つと関節が破壊され、変形してゆきます。

 現時点では完治は難しく、症状コントロールと進行抑制のための関節の機能の維持・改善が行われている疾患です。薬は抗炎症と免疫の亢進を抑制する、ステロイドや抗リウマチ薬が使われます。関節の破壊が進まないように、一生気をつけてゆかねばなりません。痛み止め(NSAIDs)も常用が必要になったりもします。

 追加の研究では、関節リウマチ患者の子供さんにおいて、症状も自己抗体もないヒトと、症状は無いが自己抗体が見つかったヒト(発症前の予備ステージ)において、便の細菌の解析が行われました。2群を比べると、予備ステージの人においても、有意にPrevotella copriの割合が増えていて、健全な腸内細菌叢が保たれていない事が判明しました2)。

 Prevotella copriが何者かという問題ですが、普通の人の腸内細菌叢にもいる細菌の一種です。食物繊維を分解する能力が高く、バランスが崩れて増えすぎることで、他の食物繊維をエサとするBacteroidesなどの善玉菌が減ってしまう事があるようです。まだ判明はしていませんが、Prevotella copriが産生する物質によって、免疫系の炎症反応を引き起こす可能性も指摘されています。

 腸は全身の免疫系の要でもあり、最近の研究では、慢性関節リウマチ以外の自己免疫疾患と、腸内細菌叢の関係についての研究も、行われています。健常な人の腸内細菌叢と比較すると、多発性硬化症や、1型糖尿病、クローン病や潰瘍性大腸炎などでは、大きく異なる腸内細菌叢になっていることが確認されています。

 腸内細菌叢と腸の健康は、炎症を通じて様々な病気に影響しているという考え方は、これらの論文を見ていると、蒼野も正しいのだろうと思います。体内に慢性炎症があれば、あちこちの関節などが痛くなってもおかしくないのです。様々な不調の改善のためには、腸内細菌と腸の状態を良好に保つ事が必要です。

 具体的には1、プロバイオティックスとプレバイオティックスをしっかり摂取すること、2、リーキーガットを防ぐこと、3、ストレスをしっかりコントロールすること、の3つが鍵になると思います。今までのブログのおさらいにはなりますが、それぞれについて書いてみます。

 最初は、よく言われている発酵食品と食物繊維です。特に善玉菌の中の酪酸を産生する菌をしっかり摂取しましょう。酪酸菌は糠漬けに多いと言われています。薬局で売っているミヤBMやビオスリーといった整腸剤にも酪酸菌が入っています。多様な菌を食べることは重要ですので、納豆やヨーグルト、サワークラウトやキムチ、漬物類などを日替わりで食べましょう。

 酪酸菌の餌になるのは水溶性食物繊維です。海藻類やオートミール、インゲン豆や芋類、チアシードやキヌア、柑橘系のフルーツやリンゴ、青いバナナやキウイフルーツなどを、毎食食べましょう。これらには腸内環境を整えるポリフェノールも入っています。ベリー類や緑茶、赤ワインやダークチョコレートなども選択肢に加えてください。

 リーキーガットに関しては、耳にタコかもしれませんね。腸粘膜上皮は1層の細胞から出来ており、栄養はしっかり吸収する必要がありますが、細菌や毒素などは排除したいという相反する性質を持っています。細胞同士の結合が緩んでしまうと、細菌や毒素、未消化の食べ物などが体内に入り、免疫系が活性化されて炎症が起こります。

 血流に乗って全身の炎症を起こす原因になると言われており、リーキーガットを起こしにくい食生活を送ることが、とても重要なのです。まずは避けたい食品です。高糖質なものは、腸に穴をあけやすいです。野菜ジュースも含めて、特に甘い飲み物は飲まないようにしましょう。

 加工食品に含まれる食品添加物も、リーキーガットの原因となります。砂糖も加工食品も、悪玉菌を増やし、腸内細菌のバランスを乱すため、最低限にしましょう。小麦のグルテンや、牛乳に含まれるカゼインなども腸に穴をあけやすい食べ物です。基本はお米、特に玄米や五穀米などを主食にしましょう。適量を超えるアルコールも腸に穴をあけますよ!

 逆にリーキーガットを起こしにくくする食べ物には次のようなものがあります。食物繊維、発酵食品、オメガ3脂肪酸、男性20g、女性10g/日以下の適量の飲酒、特に赤ワインや日本酒、甘酒などが良いようです。また十分な水分摂取も大事になります。ナッツやチアシードなどの種子類は、腸の健康を増進します。

 最後はストレスです。ストレスを感じると、ヒトは緊急事態を宣言します。アドレナリンやコルチゾールなどのストレスホルモンを出し「闘争か逃走か」に備えます。一時的なものであれば問題ないのですが、長期になると健康に重大な影響が及び、腸にも穴が空いてしまいます。全身の代謝が高まり、ミトコンドリアからの活性酸素も多くなるため、全身の炎症につながるのです。

 ストレスは考え方の癖を変えることで、耐性が上がります。悪いことに注目するのではなく、良いことに目を向けましょう。何事もポジティブに考える癖をつけることはとても効果的です。過去に注目して、後悔したり、未来に注目して不安に感じるのは得策ではありません。現在の良いこと、楽しいことに注目することが、ストレスコントロールの基本になります。

 適度な運動や、バランスの取れた美味しい食事、入浴や十分な睡眠の優先順位を高めましょう。瞑想などのリラクゼーションのテクニックを磨き、ゆっくり呼吸して、自律神経を整えます。それが腸の健康、ひいては関節の痛みに効いてくると思います。

 今日は普通に考えると、関係ないと思える、関節の痛みと腸内細菌の関係について考えてみました。慢性関節リウマチで、処方される薬は、炎症を抑えるために免疫を抑えてしまう 抗リウマチ薬や、炎症を抑えるステロイド薬、痛みの軽減のための非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などになります。これらは症状をコントロールするだけで、根本治療につながる薬ではないのです。

 一時的にはこれらの薬を使いながらも、生活習慣で体内炎症を抑え、関節の炎症も抑えてゆくことが、副作用につながらない根本治療法になる可能性があります! 現時点では腸内細菌と病気との関係は明らかではありませんが、徐々に解明されてくることと思います。もし今までの治療で、痛みがコントロール出来ていない人は、少しずつで良いので、腸活にトライしていって欲しいです。

 歳はとってきましたが、まだあちこちが痛くなってはいない蒼野でした。

参考文献:
1)Expansion of intestinal Prevotella copri correlates with enhanced susceptibility to arthritis. ; eLife, 2013   https://doi.org/10.7554/eLife.01202

2)Prevotella copri in individuals at risk for rheumatoid arthritis. ; BMJ journals 78(5)2019  http://dx.doi.org/10.1136/annrheumdis-2018-214514

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