腸内細菌ダイエットの話!

2023/06/26

 腸内細菌と肥満の関係は、最近少しずつ、分かってきた分野になります。前回ブログの「禁煙でデブ菌が増える」というのは衝撃でしたが、腸活でヤセ菌を増やせば、ダイエットに直接繋がる可能性は高いと感じます。今日は、腸内細菌と肥満の関係について、深掘りしてみたいと思います。

 始まりは2013年の、興味深い研究からです。一卵生双生児で、一人は太っていて、もう一人は痩せている4組の兄弟の便を、無菌マウスに食べさせた実験です。無菌マウスの腸内には、それぞれの腸内細菌が移植されることになります。

 同じエサと環境で、それぞれを1ヶ月飼育したところ、運動量やエサの摂取量は変わらないにも関わらず、肥満の人の腸内細菌を移植されたマウスは、どんどん太っていったのです1)。腸内細菌が変化するだけで、同じ生活をしていても体重が変わってしまう可能性が示唆されています。

 デブ菌恐るべしですよね。蒼野は自分の腸内をヤセ菌でいっぱいにしたいと熱望してしまいます。逆に考えれば、腸内細菌叢を変えれば、同じ生活をしていて、お腹いっぱい食べていても、スリムなまま生きていける可能性があるということです。

 腸内にバクテロイデス(ヤセ菌)が多いと痩せやすく、ファーミキューテス(デブ菌)が多いと太りやすくなるというのは、その後の人間の研究でも観察されています。ではどうすればヤセ菌が増えて、デブ菌が減るのでしょうか?それはそれぞれの菌の好む食べ物の比率が鍵を握っています。

 脂肪を多く含む食事を摂るとデブ菌が増えます。特にラードやバターなどの常温で固形の脂=動物性の飽和脂肪酸がデブ菌を増やすことが分かっています。蒼野は今まで、太るのは炭水化物や糖質の摂取で、インスリンが上昇するためだと信じており、大好きな肉の油は躊躇せず食べていました。ちょっと考え直す必要がありますね!

 油の種類によって腸内フローラが変わるという動物実験があります。マウスを2群に分け、ラードを豊富に含む餌と、魚油を多く含む餌を与え11週間観察したところ、ラード群では、体重増加や血糖値が上昇し、メタボにつながる、腸の炎症や肥満を促進する腸内細菌が増えていることが確認されました2)。

 魚油群では、短鎖脂肪酸を産生し、腸の炎症を抑え、メタボの抑制に寄与するアッカーマンシア・ムシニフィラという細菌が多くなっていました。これはバクテロイデスとは、別の種類になりますが、短鎖脂肪酸を産生し、宿主の健康を維持するのに大事な菌の一つです。皆さん、刺身を食卓に上げる頻度を増やしましょう!

 もう少しこの点を深掘りします。動物性の脂肪の吸収には、より多くの胆汁が必要です。胆汁は脂肪を消化吸収するときに必要な消化液で、十二指腸から分泌されます。胆汁の作用を受けた脂肪は酵素により分解され、小腸から吸収されます。胆汁も小腸から吸収されますが、一部は大腸に達します。大腸に到達した胆汁が腸内細菌の組成を変化させるのです。

 胆汁はデブ菌を増やし、ヤセ菌を減らします。これは2016年の腸内細菌学会で報告されています。さらに同時に糖質を摂取すると胆汁の分泌量が2倍になることが知られています。マウスの実験でも、飽和脂肪酸投与マウス群と、不飽和脂肪酸投与マウス群に糖質を与えると、マウスの胆汁量は、飽和脂肪酸群の方が、不飽和脂肪酸群よりも1.7倍に増えていました3)。

 ファーミキューテス(デブ菌)も食物繊維を餌にしますが、その代謝産物が吸収されてエネルギーとなります。同じものを、同じ量食べても、エネルギーに変えられて、吸収されれば、当然食事から発生するエネルギーは増え、野菜を食べても太ることになる訳です。糖と脂が太るのは腸内細菌を介したメカニズムが大きいのですね! 一つ蒼野の謎が解けました。

 一方、ヤセ菌が増えると、食物繊維を餌として、短鎖脂肪酸を作ります。短鎖脂肪酸というのは、酢酸、酪酸、プロピオン酸の総称です。腸内細菌の中でも、善玉菌と言われるものの代謝産物は短鎖脂肪酸です。バクテロイデス(ヤセ菌)も、この短鎖脂肪酸を産生します。

 その他にも酪酸菌は、酪酸とプロピオン酸、ビフィズス菌は酢酸を作り、同時に酪酸菌の働きも促します。短鎖脂肪酸は、腸内皮細胞のエネルギーでもあり、腸内環境を整え、リーキーガットを防いでくれます。また吸収された短鎖脂肪酸は血流に乗って全身に運ばれます。

 短鎖脂肪酸の受容体が多い組織は、白色脂肪細胞と交感神経です。白色脂肪細胞には、GPR43という受容体があります。酢酸とプロピオン酸に反応し、インスリンの作用を抑制します。インスリンは糖質を脂肪細胞に取り込み、脂肪を蓄積させるホルモンですから、体内の短鎖脂肪酸が増えると、脂肪細胞に脂肪が溜まりにくくなり、太りにくくなります。

 交感神経には、GPR41という受容体があります。こちらは酪酸とプロピオン酸に反応し、ノルアドレナリンの分泌を促進します。交感神経活性が上昇し、心拍数や体温が上昇し、全身の代謝がアップします。全身のエネルギー消費が上昇するため、痩せやすくなるのです(参照ページ 腸内細菌と宿主の肥満をつなぐ受容体)。

 食べると脳内の報酬系に働いて、気持ち良さや満足感が得られる食べ物は、糖と脂です。現代でヒットしている加工食品は、糖と脂が詰め込まれています。その脂肪の種類は、安定しやすい飽和脂肪酸やトランス脂肪酸です。決して酸化しやすい不飽和脂肪酸は使われていません。日常的に食べていると、胆汁は出まくり、腸内細菌が変化し、太りやすくなるという訳です。

 食事の中の、加工食品の比率が上昇する毎に、落ち着くBMIが上昇してゆくメカニズムには、腸内細菌の組成が関与しているという事が分かります。一生続けられるダイエットは、食べる食品の内容を変えれば良いのです。短鎖脂肪酸が沢山出るバランスが基本になれば、肥満から発生する生活習慣病も起きにくくなるはずです。

 飽和脂肪酸と糖質の摂取をほどほどにして、加工食品を減らし、野菜、果物を増やしましょう。ビフィズス菌や乳酸菌が含まれるヨーグルトやキムチ、酪酸菌が含まれる糠漬けなどのプロバイオティックスの摂取を増やしましょう。そして善玉菌の餌となる水溶性食物繊維、キノコや海藻、押し麦やもち麦、牛蒡や菊芋、ネバネバの野菜やこんにゃく、果物を中心に摂りましょう。

 腸内細菌を整える食事にすれば、少しずつ理想体重に近づきます。一生続けて行ければリバウンドもしません。それ以上に脳力や気力や体力にも良い影響があ理、健康長寿に寄与するはずです。メカニズムが分かって、ますます良い腸内細菌を味方につける生活を心がけようと思った蒼野でした。

参考文献: 
1)Gut Microbiota from Twins Discordant for Obesity Modulate Metabolism in Mice. ; SCIENCE  2013 Vol 341, Issue 6150 DOI: 10.1126/science.1241214

2)Crosstalk between Gut Microbiota and Dietary Lipids Aggravates WAT Inflammation through TLR Signaling. ; Cell Metab. 2015 Oct 6;22(4):658-68.

3)脂肪酸の胆汁脂質に与える影響 ; 動脈硬化 15(1)1987 27-31 

参照ページ:腸内細菌と宿主の肥満をつなぐ受容体 東京農工大学 木村郁夫
https://www.brh.co.jp/publication/journal/086/research/1

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