ヘディングと認知症!

2023/04/14

 3月に出たスウェーデンの論文で、トップレベルの男性サッカー選手は、対照群の一般男性に比べて、認知症発症が1.6倍高まっていたとの発表を目にしました1)。蒼野は中学校の頃からサッカーが好きで、大学6年間もサッカーに打ち込んでいたので、この記事はとても気になりました。

 認知症になる一因として、繰り返す頭部への衝撃の可能性があるということなのです。ヘディングの少ないゴールキーパーの認知症リスクは、普通の人と変わりませんでした。蒼野自身の経験でも、雨の日の練習で、水を吸った重たいボールを何度もヘディングシュートしていた日の記憶が、スッポリなくなっているという経験があります。

 練習が終わって、ゴールポストに寄りかかっているところから、記憶が再開されています。チームメイトに聞くと、普通に動いていたとの事でしたが、あまりに記憶がないので怖かったのを覚えています。いわゆる脳震盪で、記憶が定着する前に飛んでしまったのだと思います。ヘディングは好きだったし、ある程度得意だったので、今回の記事を見て、調べてみようと思いました。

 論文によると、1924年から2019年までに、スウェーデンのサッカートップリーグの試合に出場した選手6007人(うちゴールキーパー510人)と、性別、年齢、居住地域などでマッチングした一般人56,168人とを比較しています。2020年までのフォローアップ期間中に、サッカー選手のうち537人(8.9%)、対照群のうち3,485人(6.2%)が神経変性疾患と診断されました。

 特にアルツハイマー型認知症は、サッカー選手に1.62倍、有意に多いことが分かりました。論文では、繰り返しヘディングをすることによる頭部への衝撃が、サッカー選手の認知症リスクを高めている可能性があると結論づけています。『頭を打つとバカになるよ!』と母親に言われていたことを思い出しました。

 他の競技でも、頭部への衝撃や反復的な外傷が認知症リスクを高める可能性が指摘されています。ボクシングやアメリカンフットボール、ラグビーやアイスホッケーなどの、コンタクトスポーツで、そういった例が認められています。ボクシングのパンチドランカー症候群(CTE)は有名ですよね。

 ボクシングで、頭部に沢山の衝撃を受けると、脳細胞や特に軸索(大脳白質)が壊れ、脳の命令の伝達が悪くなるため、運動能力の低下、記憶障害、認知機能の低下、パーキンソン症状、うつ病などの症状が現れることがあります。頭を守るのは大事です。

 調べているとスコットランドの研究も出てきました。プロサッカー選手7696人と、同じ年齢層・出生地から選ばれた一般人コントロール群23,028人の比較で、プロサッカー選手は一般人に比べて神経変性疾患にかかるリスクが3.5倍高く、アルツハイマー型認知症はなんと5倍、パーキンソン病のリスクが2倍高いことが示されています2)。

 蒼野はサッカーだけならまだしも、社会人になってからは、スノーボードにも、のぼせていました。一度逆エッジで、後頭部を強打してからは、ヘルメットを被るようになりましたが、年に10回以上は行っていたので、ここでも打撲の経験を積み重ねています。

 そして最後が2020年の交通事故、ヘルメット無しで頭頂部からアスファルトに叩きつけられ、頭蓋骨が割れ、外傷性くも膜下出血となり、髄液も漏れて、硬膜外血腫の手術を受ける羽目になりました。蒼野は将来の認知症リスクは高いと考えられます。

 どうして頭を打つと認知症になりやすくなるのでしょうか? まだその明確な因果関係は証明されてはいませんが、いくつかの仮説が唱えられています。

1、脳の炎症: 軽微であっても、頭部外傷が繰り返されることで、脳内に炎症反応が起こり続けます。炎症が脳内のアミロイドβやタウタンパク質の異常蓄積を起こすと言われています。炎症は酸化ストレスを起こし、脳細胞を傷害します。

2、血液脳関門(BBB)の損傷: 頭部外傷でBBBが傷つくと、通常は脳に入ってこない毒物やウイルス、細菌などが脳に入りやすくなり、脳内炎症を引き起こしやすくなります。

3、神経細胞の損傷: 持続的で軽微な外傷は、脳細胞の障害やストレスにつながります。脳細胞内で、アミロイド前駆体タンパク質(APP)から作られるアミロイドβが、通常の無害で消えてしまうものから、異常に折りたたまれて、沈着して、神経細胞毒性を持つものに変化してしまいます。これがアルツハイマー型認知症に見られる老人斑です。

4、神経細胞同士を繋ぐ神経回路の損傷: 外傷により軸索が切れたり、神経伝達物質が、不足や過剰の状態となったりして、シナプス伝達が上手くいかなくなることがあります。

 確かに外傷が原因で、これらが起こりそうです。一般的に、アルツハイマー型認知症の発症には、脳の慢性炎症、感染、中毒、酸化ストレス、および糖化ストレスなどが関与すると言われています。脳に溜まってくるアミロイドβは、最初は脳の炎症や感染に対する防御メカニズムとして機能しているという仮説があります。

 アミロイドβは、細菌やウイルスなどの病原体を捕捉し、これらの病原体を無力化する役割を果たす機能や、損傷した細胞や脳内の異物を取り除くためにも役立つと考えられています。しかし、頻繁に脳に影響する事象が起こっていると、アミロイドβの出番が多くなって蓄積しやすくなります。蒼野も、それでアミロイドプラークが溜まることが病態の中心だろうと信じています。

 蒼野は過去の頭部外傷の既往がたっぷりあるため、認知症にならないためには、他の要素をできるだけ減らしたいと思っています。アルツハイマー型認知症のリスク要因としては、糖尿病、高血圧、高コレステロール、喫煙、飲酒、肥満、歯周病や虫歯、リーキーガット、遺伝的要因、加齢、アルミニウムなどの金属や汚染物質の摂取、動脈硬化、睡眠障害、孤独、精神的ストレスなど多岐にわたります。

 これらを生活の中に集約すると、規則正しい生活で、十分に良い睡眠を取り、糖質少なめで血糖スパイクを起こしにくい食事を摂り、肥満を予防します。腸活を意識し、グルテン、カゼインは最小限とし、発酵食品を摂り、食物繊維を増やします。便通を整えて、デトックスを心がけ、水分をたっぷり摂って汗や尿で排出します。こまめに歯を磨き、歯間ブラシを使い、定期的に歯医者に行きます。適度な運動を習慣にします。家族や周囲の人を大切にし、一緒の時間を重視します。プラス思考でストレスを溜めない癖をつけることも重要です。本当にやることは多いですね。

 そして頭を打たないことが大切です。自転車のヘルメットも勧告が出ましたね!大怪我を防ぐだけでなく、認知症予防の観点からも、大事なことだと思います。サッカーに関しては世界的には2015年頃から、若年代でのヘディングの禁止と段階的なヘディングの導入ガイドラインを導入しているそうです。

 日本サッカー協会でも、2021年から幼児期から1~2年生までは、風船や新聞紙のボールでヘディングを練習したり、U-15までは、軽量のボールを使用したりして、段階的に安全にヘディングがマスターできるようガイドラインが作成されています。皆様も、雨に濡れて重くなったボールだけはヘディングしないようご注意を!

 人生の最後まで、認知症になりたくないと思いつつ、日々上記の事に気をつけている蒼野でした。

参考文献:
1)Neurodegenerative disease among male elite football (soccer) players in Sweden: a cohort study. ; THE LANCET Public Health 8(4) ,256-265.  APRIL 2023

2)Neurodegenerative disease mortality among former professional soccer players. ; The New England Journal of Medicine. 381(19):1801-1808 2019

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