健康診断結果を見た時の考え方!

2023/07/25

 蒼野の現在の興味は予防医学です。このところ医療統計と健康の話を勉強しているのですが、またも衝撃の研究に巡り合いました。全国45施設の20~79歳の70万人の検診結果を検討した先生がいます。東海大学教授の大櫛陽一先生の研究です。

 蒼野は日本の健康診断の数値の基準はもちろん知っているのですが、これが海外とは違っていると言うことはよく知りませんでした。しかも欧米では「健康診断自体が意味がない」と結論づけられ、数年前から廃止されているというのです。これは日本の基準を元に診断し、良かれと思って治療してきた蒼野としては、とてもショックでした。

 日本の基準値は厳しく、幾つもの問題があるようです。確かに男女でも差があるはずですし、年齢が上がるにつれて、血圧やコレステロールは上がることが知られています。しかし日本の基準値は一つしかなく、元気な20代の男性と、動くのが億劫な70代以上の女性が同じ基準で診断されているのは、確かに不自然な感じがします。

 大櫛陽一先生は医療統計学のプロです。70万人のデータからは、日本の基準値で異常とされた人の多くに、病気が認められない事を指摘されています。会社の健康診断で異常値があると、病院に行くよう指示が出ます。そこで沢山の検査が行われ、異常値を補正するための薬が処方されます。そうしないと会社は、国にペナルティを課せられるため、逃げようが無いのです。

 異常値を補正すれば、病気にならないので、なる前に分かって良かったと思われる、素直な方は多いと思います。日本人は遺伝子的に心配症の人が多いのでそれで納得されるのは理解出来ます。しかしそこには、本当に病気が防げると言うデータがあることが重要ですよね! 異常値一つのために余計な検査を受けるリスクと、薬を飲み続けるリスクが加わるのです。

 欧米で健康診断が無くなったのはこの為です。検査リスク+内服リスクと比べて、疾病予防リスクが小さく、医療費の削減や、その治療を受ける人のメリットを考えると、健康診断自体が意味がないと、欧米では判断されたと言うことになります。それでは異常値について考えてみます。

 血液データや血圧などの正常範囲というのは、全体の95%の正常範囲内にある事を意味します。20項目検査すると、単純計算では0.95の20乗=0.36と言う数字が出てきます。64%の人はどこかで異常値が出ておかしくないという計算です。本当にそうなのでしょうか?

 2015年までは人間ドックのデータがあったそうですが、2016年からは集計されなくなっています。2015年までの人間ドックの正常率は何と6%だそうです。あまりに異常が多いという指摘があって集計自体が無くなったそうです。94%は異常とされ、お医者さんにかかるのを勧められます。一旦受診すれば、検査→処方というお決まりのコースに乗ってしまいます。

 国民皆保険であるが故に、これは日本だけで行われているのです。大櫛先生はこれが日本医療の過剰診断、過剰治療、そして加齢と共にポリファーマシー(多重処方)につながる一つの原因であると主張されています。医療費が国の財政を圧迫する一因でもあるのです。

 メタボ検診について考えてみます。腹囲が男性85cm、女性90cm以上はメタボとされます。しかしヘソの上で測るのは日本だけだそうです。海外ではBMIを元にして、ウエスト周囲長(肋骨弓下縁と前腸骨稜上線の中点)で測定しています。これを日本人に当てはめると、男性90cm、女性80cm以上となります。やはり日本は厳しめの基準のようです。

 BMIで言うと、海外では30以上が肥満で、25以上は過体重です。30以上から血管病などの病気が増えてくるため、薬物治療の対象になります。日本人は世界一スリムな民族で、BMI >30の割合は人口の3%しかいません。しかしBMI>25なら人口の1/4が肥満になります。そして日本肥満学会はBMI>25 を要治療としています。

 しかしBMIと死亡率の関係は、世界の統計で見ても、50歳男性で26kg/m2、50歳女性で25kg/m2が最も死亡率が低いのです。29の研究から200万人のデータを解析したメタ解析1)ですから、これが真実なのだと思います。確かに30を超えると死亡率は上昇してゆきます。

 ここに日本の医療の闇があるようなのです。メタボリックシンドロームの基準、肥満の基準を厳しくすることで、国民皆保険の日本で使われる薬は爆増します。人口の3%しか治療しないのか、25%を治療するのかでは、その学会のスポンサーも大いに変わってしまうのです。

 大櫛先生が指摘する、読売新聞2008年3月30日の記事には、メタボリックシンドロームの基準策定グループの医師に、3年間で1人4900万円から3億円強の資金提供があったことが掲載されています。大学教授を中心に、指針作成医の9割に、製薬業界からの寄付金が供与されたのです。

 バラバラの年度ではありますが、製薬会社からの医師への寄付金は2012年度では4793億円。一方2021年の年間薬剤費は12兆円に昇っています。ちょっと切なくなりますね!百歩譲って、基準値を厳しくした事で、疾病が防げるのかどうかと言うのが、蒼野としては一番気になります。

 それでは血圧で考えてみます。これも海外とはコントロールの基準が随分異なるようなのです。海外での血圧コントロールは、24時間血圧、48時間血圧計を生活の中で測定し、その一番低い血圧を治療の指標にするのだそうです。日本では一番血圧が上昇しやすい起床時や、測っていない人では緊張する診察室での血圧を基準にコントロールします。やはり基準が違っています。

 血圧というのは時間や状況によって、大きく変動します。24時間血圧を測ってみると、専業主婦が一番血圧が上がるのは、食事の献立を考える時だそうです。大櫛先生も普段は低いのに、論文を読みだすと20mmHg上昇し、英語論文だと40mmHgも上昇するのだそうです。脳が働くには十分な血液が必要です。必要に応じて、身体が血圧をコントロールしているのです。

 イギリスの血圧の治療基準は、1日の一番低い時が160mmHg以上になった時だそうです。日本では140を超えたら、降圧剤を勧められますよね! 実は蒼野も勧めていました。あまり下げすぎると動脈硬化が進行した高齢者では、脳への血液供給が減ってしまいます。これが高齢者の転倒骨折や、入浴時の溺水、運転中の意識消失による交通事故の多くに関与していると指摘されています。

 大櫛先生は65~85歳の血圧が160以上の人4418人に、降圧剤投与で140以下に下げた群と140~159の群の2群を2年間追跡するランダム化研究を行っておられるのですが、脳梗塞発症は36人:30人、脳梗塞死亡は2人:0人、総死亡も33人:24人といずれも下げすぎない方が少ないことが分かりました2)。

 また一般住民の血圧と死亡率の分析では、血圧が160/90までは総死亡リスクは変わりません。アメリカの研究でも男女別、年齢別に検討すると、65歳以上では男性160、女性170までは死亡リスクにはならないとされています3)。

 大櫛先生の70万人のデータでは、血圧の正常値は年齢+90、つまり60歳なら150、70歳なら160、80歳なら170で、疾病の増加は無く、低血圧によるリスクが下げられるということなのです。血圧を測るのも、低くなりやすい、寝る前で判断すると安全のようです。

 日本の高血圧基準にもその裏には闇があるのでしょうね。資本主義社会では仕方がない事かもしれませんが、これからの血圧アドバイスは、年齢や性別で変える必要がありそうです。測るタイミングにも注意しようと思います。

 蒼野も極度のストレス生活の時に血圧が上がり、降圧剤を飲み始めたことがあります。でも温泉に行ったときに、危うく意識を失いそうになってから内服をやめてしまいました。今の血圧は140の時もあれば、100位のこともあります。今日の勉強で、大丈夫だろうと思えたので良かったです。

 明日は今日書ききれなかった高脂血症について、お伝えしますのでお楽しみに!

参考文献:
1)Meta-analysis of the effect of excluding early deaths on the estimated relationship between body mass index and mortality. Obesity Research 1999; 7: 342-54. 

2)脳卒中発症と高血圧および高血圧治療の関係に関する疫学 脳卒中 29 : 777-781 2007

3)Systolic blood pressure and mortality. ; The Lancet 2000 355 (9199) 175-180 

参考書籍: 健康診断「本当の基準値」完全版ハンドブック  大櫛 陽一

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