ヘルペス神経痛!?

2022/01/23

 今日は、寒い時期になって増えているなあと思う頭痛について書いてみたいと思います。後頭部や耳の上あたり、こめかみなどに、時々瞬間的に、『ビリっとくる』、『ズキンと響く』、『チクチクする』、『刺されるよう』、『殴られるよう』とかと、患者様が表現される頭痛です。

 これは頭皮や顔面の皮膚を走っている、小後頭神経や、大後頭神経、大耳介神経、三叉神経などに起こる神経痛です。間欠的に、間をおいて痛みが起こり、痛みと痛みとの間は全く痛くありません。痛みの持続時間は、数秒間ですが、電撃痛で強い痛みのため、眠れないと言われて駆け込んで来られる方も多いです。

 片方だけに起こることが多く、昔からの解説では、第一頚椎と第2頚椎からの後頭神経が、頚椎症による椎間孔の圧迫や、頚の凝りのための筋肉の圧迫などによって起こることが多いとされているのですが、診察していて、蒼野は片側だけの凝りが、神経痛に一致していることが少ないため、別の理由があると考えています。

 色々調べてみたのですが、明らかな文献や研究が無いようなので、ここからは蒼野の私見になりますのでご容赦ください。頭皮を触っても痛い、髪を梳かすと痛いと言われる患者様の中に、数日後に痛みの領域に皮疹が出る方がおられます。

 これは頭皮の帯状疱疹に伴う神経痛です。帯状疱疹は、子どもの時にかかった水ぼうそうの原因ウイルスが、神経の中(神経根)に潜んでいて、何年か経ってから、何かのきっかけで再活性化して、暴れるために起こるものです。ベースに疲労などによる、免疫力の低下があることが多いです。

 発疹が見られず、片側の痛みのみの場合には、現時点で確実に診断する方法がありません。臨床的に一番特徴的なのは、アロディニア(異痛症)です。これは風が吹いても、帽子を被っても、メガネをかけても、そーっと触っても痛いという症状です。神経障害性疼痛の一つの症状でもあります。

 電撃痛があって、アロディニアが見られる患者様の全員に、皮疹が出てくるのなら、診断は簡単なのですが、出てくる方は稀です。しばらく痛みで辛い時期があるけど、自然に治ったりすることも多い印象です。一般的には皮疹が出なければ、抗ヘルペス剤は投与せずに待つ方が一般的のようです。

 一つ前のクリニックでは、最初はヘルペス抗体価を調べたりしていましたが、結果が出るのに1週間くらいかかるため、その間NSAIDsや、テグレトールやリボトリールといった神経痛に効く薬で様子を見たりしていました。確かに抗体価が上昇していて、ヘルペスが暴れていることが分かる症例の方が多かったのですが、皮疹は出ないまま治ってしまったりするのです。

 ヘルペス抗体価の検査は、高価なため、レセプトで切られることが分かり、それ以後はあまり調べなくなりました。見切り発車で、口唇ヘルペスに使う量で、抗ヘルペス剤を投与すると、3日後くらいから神経痛が消えることが多いことが分かってきました。

 文献的には、片側性の神経痛がある57名を1カ月間、経過を見たという報告がありました。57例中2例に帯状疱疹が発症しています。ただ、報告は少ないので、片側性の痛みがどれだけ帯状疱疹が関与しているのかはわかりません。ウイルス感染や再活性化による症状は、各々の免疫力によって、皮疹が出るほと悪くなる場合も、皮疹が出ずに神経痛だけで終わってしまう場合もあると、蒼野は考えています。

 水痘と帯状疱疹のウイルスは同じものになります。子供の頃に感染しても、多くの神経節に隠れていると言われています。大人になって、どうして部分的に再活性化して、症状が出てくるのかという正確な機序はわかっていません。しかし帯状疱疹の既往のある患者様の、頭部神経痛はひどい痛みが多いように思います。

 また、臨床でみていると、口唇ヘルペスがよくできる人、時には性器ヘルペスの既往がある方にも、神経痛で来院される方が多い印象があります。こちらは帯状疱疹ウイルスではなく、口唇ヘルペスはⅠ型単純ヘルペスウイルス、性器ヘルペスはⅡ型単純ヘルペスウイルスが原因となる事が多いとされています。

 単純ヘルペスも、感覚神経に親和性が高く、その神経節に潜伏感染しています。日本人の成人の70%が保菌者といわれています。蒼野は、頭皮が触って痛いようなピリピリしたアロディニアを伴わない、後頭神経痛やこめかみ痛の場合は、単純ヘルペスウイルスが原因の神経痛では無いかと疑っています。

 寒くなってきて、頭部の神経痛患者様が増えています。本当に忙しくて疲れている方が多いです。帯状疱疹ウイルスでも、単純ヘルペスでも使う薬は一緒です。初回から抗ヘルペス剤とNSAIDsを合わせて投与することが多いのですが、良くなる方が多いように思います。

 現時点では、皮疹が出ていなくても、ヘルペスの薬を出す医師は少数派のようです(3割程度?)。蒼野が尊敬する、月間6000人の頭痛を見ている清水俊彦先生は、「アロディニアを伴う片頭痛には帯状疱疹ウイルスが関係している」という新説を2007年の、スウェーデンで開催された国際頭痛学会で発表されています。

 群発頭痛においても、帯状疱疹ウイルスとの関係が明らかになってきており、まだ保険では認められてはいませんが、水痘ワクチンを、発作間欠期に打っておくと、4年半で99%の人が、群発頭痛が起こりにくくなったと報告されています。長くなるので群発頭痛の詳細は別の日に書かせてくださいね。

 突然起こる顔面神経麻痺も、ヘルペスウイルスが関与していることが多いと言われています。それ以外にも、脳血管障害、アルツハイマー型認知症、多発性硬化症、片側性眼瞼けいれんなどの、さまざまな神経系の病気に、帯状疱疹ウイルスが関係している可能性があると疑われており、現在も研究中なのです。

 風邪、ストレス、心労・疲労、抗がん剤治療や紫外線への暴露など、体力の低下し、免疫力が落ちた際に、ウイルスが再活性化し症状が現れます。一般的な注意には、なってしまいますが、日常生活においては 、食事のバランスに気を付けること、睡眠を十分にとること、適度な運動をすることで、疲れや ストレスをためないようにしましょうね。

 頭部神経痛の治療については、まだ蒼野の私見ですので、各自でご判断いただければ幸いです。まだまだわからないことだらけの、蒼野でした。 

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