昨日は高血圧の人は成人ではとても多く、高いまま放っておくと、突然死の原因になる可能性があると言うことについて書かせていただきました。今日は、「既に何年も血圧は高いまま過ごしてしまっています」という方に、命に関わるイベントが起こりにくくなる生活スタイルについて追加させてもらおうと思います。
蒼野は脳外科医ですので、脳卒中の方を沢山見てきました。脳卒中は字の如く、「脳に卒然(急に)として中る(あたる)」ことからの言葉です。医学の知識がない時代には、元気だった人が突然、神様の矢が当たったように、意識が無くなったり、麻痺が出たり、言葉が話せなくなったりする状態を見て、脳卒中と呼ぶようになったのです。
血圧が10年も高いままであれば、全身の血管は、いつ破れたり、傷ついたりしてもおかしくない状態になっています。脳であれば、突然破れて脳出血を起こしたり、血管の内壁が傷ついて、修復のために集まった血小板が固まって、血管が詰まってしまい脳梗塞になったりします。これが心臓の冠動脈で起これば、狭心症や心筋梗塞になります。大動脈で起これば大動脈解離になったりするのです。
血圧は高くても、痛くも痒くもありませんが、突然こんな事が起こるのは避けたいですよね!そのためには、薬で血圧を下げるのは当たり前ですが、生活の上でも突発的に血圧が上昇するような行動を避けた方が良いのです。気を付けながら食事、運動、睡眠、ストレスコントロールに留意を続ければ、徐々に突然死のリスクは遠のきます。
交感神経が興奮すると血圧は上がります。朝のスイッチで交感神経は亢進し始めますので、血圧が高い方は朝イチから、きつい筋トレなどは行わない方が良いです。朝トイレでいきむのも止めましょう。蒼野は朝ストレッチと軽い筋トレからの冷水シャワーを行なっているのですが、血圧が高い方は、ストレッチと散歩にして頂きたいです。
寒い時期は、トイレや脱衣所、浴室などの温度差に注意しましょう。急に寒いところに出ると、体温を逃すまいと、末梢の血管が収縮するため、血圧が上がります。特に浴室は要注意です。寒い浴室に入り、熱いお湯に浸かり、長湯してから冷水を浴びて上がるというのは、高血圧が長い人には危ない行為です。
これはヒートショックとも呼ばれていますが、入浴中に亡くなる人は、国内で年間15,000人と推測されています。環境温度が目まぐるしく変わると、血圧は乱高下します。急に上がれば、脳、心血管病につながりやすくなります。急に下がれば意識消失し、転倒して頭を打ったり、湯船で溺水する場合もあります。もちろん寒いトイレでいきむ場合も危険です。
血圧が高い人の安全な入浴法としては、脱衣所を温めておく事、浴室も熱いシャワーや、湯船の蓋を開けて温めておく事、40度までのぬるめのお湯に、ゆっくり浸かることや半身浴が薦められます。トイレも温度差が小さくなるように気を付けましょう。便秘も要注意です。
もちろん高血圧や心臓病の方はサウナにも十分な注意が必要です。高温のサウナの中では、脱水にもなりやすく、血圧も下がりやすくなります。失神や脳梗塞、心筋梗塞などのリスクは高まるのです。そういえば西城秀樹さんが小脳梗塞になったのもサウナだったと思います。無理をせず、めまいや立ちくらみがあればすぐにサウナを出ましょう。
そして水風呂は血圧の急上昇を招きやすいです。日頃から十分に血圧が下がっていて安定している状態で無ければ、お勧めはできません。動脈硬化が強い人では、血管はビニールホースではなく、鉄管のような状態になっています。血管が硬ければ、少し圧力が変わっただけでも、血圧は変動しやすいのです。
また冷たい飲み物や、かき氷などの冷たい食べ物を一気に摂取することにも注意しましょう。冷たいものが一気に身体に入ると、交感神経が刺激され、反射的に呼吸が浅くなったり、心拍数が増加する場合があるからです。高血圧の人では急激な血圧上昇につながりやすくなります。美味しくて爽快ですが、冷たいビールの一気飲みには注意して下さいね!
昨日の食事についての追加情報になりますが、血圧が高い人は減塩だけに気をつけるだけでは、病気予防の効果は薄い事が分かっています。単一のものを減らしただけでは、血圧は少し下がっても、生活習慣病の予防にはつながらないのです。
血圧にはナトリウムだけではなく、カリウムやマグネシウム、カルシウムなどが関与している事が分かっています。特にナトリウムとカリウムのバランスは大事で、ナトリウムだけが過剰になるような、外食や超加工食品の摂取が多いと、脳卒中や心血管病のリスクは下がりません。
最近の研究では、カリウムの重要性が見直されてきています。高血圧のある60才以上の2万人に対して行った、普通の塩(塩化ナトリウム)と塩代替物(75%塩化ナトリウム+25%塩化カリウム) のランダム化比較試験では、塩代替物群が、脳卒中、心血管病、あらゆる原因の死亡が少ないことが分かりました1)。
またインドの研究でも、食卓塩と調理塩をカリウム強化塩代替物に置きかえる事により、年間の心血管死の約8%から14%を防ぐとされています。もちろん慢性腎臓病患者では、カリウム過剰によるリスクは考慮されますが、それを補う以上のメリットがあるとのことです2)。
カリウムは、健康な成人であれば一般的に1日あたり2,000-3,000mg程度が適切な摂取量とされています。腎臓が悪い場合には、軽度であれば2,000~2,500mg、中等度で1,500~2,000mg、透析が必要な10度の場合には1,000~1,500mg以下に制限が必要です。
カリウムが豊富な食べ物は、昨日書いたDASH食とも重なります。野菜や豆、果物、魚介類、ナッツなどになります。特に手軽に撮れてお勧めなのは、バナナやアボカド、納豆などです。塩を選ぶのであれば、ヒマラヤ岩塩がお勧めです。もちろん海水から作る天然塩もありますが、最近の海洋汚染などで、マイクロプラスティックなどが混じる可能性があります。
ヒマラヤのピンクソルトに関しては、カリウム、マグネシウム、カルシウムなども含んでいますので、取り過ぎても病気に繋がりにくいと言えるのです。カリウムを多く摂取していれば、少々ナトリウムが多くても心配無いようです。またナトリウムを制限しすぎると死亡率が上昇するという論文さえも存在します。
23のコホートと2つのランダム化研究(274683人)のデータを検討したところ、低ナトリウム摂取量群と高ナトリウム摂取量群の両方が死亡率の増加と関連しており、適正なナトリウム摂取量が重要であることが分かっています3)。
我々医師も、血圧が高いと塩分を控えましょうねと言ってしまいがちなのですが、減塩は工夫しないとご飯が美味しくないので厳しいですよね! 大切なのはカリウムとのバランスであることが分かってきているので、野菜や果物を増やして、美味しく食べることが大事なのだと思います。
厳しい塩分制限をすると、脳の報酬系が興奮し、高カロリーの脂肪や糖質が食べたくなることも報告されています。肥満になると血圧はさらに上がってしまうため、健康的で、満足できる食事を目指しましょう。
血圧が下がって、冷水シャワーもサウナの水風呂も堪能できるのが幸せな蒼野でした。
参考文献:
1)Effect of salt substitution on cardiovascular events and death. ; N Engl J Med. 2021; 385:1067–1077.
2)Estimated benefits and risk of lowering dietary sodium through potassium-enriched salt substitution in India: a modelling study. ; Hypertension. 2022; 79:2188–2198.
3)Compared with usual sodium intake, low- and excessive-sodium diets are associated with increased mortality: a meta-analysis. ; Am J Hypertens. 2014 27(9):1129-37.
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