『卑弥呼は片頭痛だった?』 天気が分かる人の話は昔から、色々あります。みんなが雨乞いしている時に、雨を予測して降らせる巫女さんの話や、最近では、新海誠監督のアニメ『天気の子』なども天気がコントロールできる人が描かれています。こういう人は、昔から何人もいて、中にはかなり正確に予測ができる力を持っていたと思いませんか?
片頭痛の患者さんを沢山見ていると、日本の天気は全く晴れていて、あまり気圧の変動も無いのに、南の海に台風が発生すると、分かる人がいます。国内だけで推定840万人の患者がいる、とされる片頭痛患者さんですが、過半数に天気に関係した頭痛が認められているのです。
人類の進化の過程で、どうしてこんな遺伝子が残っているのかと不思議になります。しかしよくよく考えると、現代と違って、安全に身を隠す建物を持たなかった原始人にとって、 天候は“生命にかかわる”重要な問題だったはずです。環境の変化をいち早く感知することで、少しでも命の助かる行動をとることの重要性が、天気に関わる頭痛の遺伝子が、現代まで残っている理由では無いでしょうか?
獨協医科大学副学長で頭痛専門医の平田幸一先生が、約200人の片頭痛患者に片頭痛の発症状況を、克明に記録してもらい、それを気象台の発表する気象データと照合してみると、片頭痛患者のうち、およそ6割の人が何らかの形で、気象条件が関与していることが分かりました。いずれも『頭痛が起きた後に気圧が下がる』という共通の現象が認められたのです。
「台風だけでなく“雷”の発生を片頭痛で予測する人もいます。中には地殻の変動という危険、つまり「地震」を片頭痛によって察知する人もいるといわれています。その人に備わった“感知能力”によるものと考えられ、うまく使えば、危険を察知して、一族を救う予言者になることもできたでしょう。卑弥呼や巫女さんなど、予言者に女性が多いのも、女性に多い片頭痛患者が持つ、繊細な感受性の関与が示唆されます。
動物や魚、昆虫の中には「ロレンチーニ器官」という感覚器を持つものがいます。この器官は微弱な電位差を感知します、サメやナマズは人間の10万倍の感度を持っていると言われています。世界では120匹、日本でも20匹ほどしか発見例のない「メガマウス」というサメが熊本地震の前日や、東日本大震災の2ヶ月前に捕獲されたとのことで、海底でのプレートのズレからの電位変化の影響が疑われています。
1978年から1992年までの16年間、ナマズの異常行動と東京都での震度3以上の地震について調べた研究があるのですが、87回の地震に対して、明らかに10日前に異常行動が見られたものが27回あり、3割1分程度の確率でナマズが暴れたとのことです。
人間でも、平田先生の患者の中にも、東日本大震災の発生を直前に察知して、片頭痛の発作を起こしたという人は複数いました。そのような片頭痛患者は、気圧の変化や音や匂いなど、いくつかの発症要因を複合的に持っていて、いろいろな変化に敏感に反応する方だったとのことです。
しかし、天気予報が発達した現代では、気象変化による片頭痛発作は、辛いだけでメリットはあまりありません。しっかり頭痛がコントロールできるよう、あの手この手でアプローチするべきです。
人間の場合、内耳が気圧の変化を感知するセンサーのような役割をしています。気圧が変化すると、脳の中枢にある自律神経に、気圧の変化を伝えます。脳が敏感な片頭痛の患者さんは、気圧や気温の変化に過剰に反応してしまい、自律神経が失調状態に陥りやすくなっています。
特に女性では、月経周期や更年期などのホルモンバランスの変化が加わると、気象変化による自律神経反応が助長され、頭痛が誘発されることが多い様です。もちろん自律神経には、ストレスの関与も大きいため、いわゆる片頭痛の誘因が、幾つも存在することになるのです。(片頭痛 その2 参照)
改善方法はまず、内耳の血流を改善して、センサーを鍛えて、自律神経失調につながらないようにしてゆく方法があります。これは天気痛ドクターの佐藤純先生が考案した方法で、『くるくる耳マッサージ』と言います。とても簡単な方法ですので、天気頭痛に悩ませされている人は是非、習慣にしてみてください。
1.耳を軽くつまみ、上・下・横に5秒ずつ引っ張ります。
2.そのまま軽く引っ張りながら、後ろに向かってゆっくり5回まわします。
3.耳を包むように折り曲げ5秒間キープします。
4.耳全体を掌で覆って、ゆっくり円を描くように後ろに向かって5回まわします。
※朝・昼・晩の1日3回行うのが目安
また、運動を習慣にして、汗をかける身体を作っておくのも予防方法のひとつです。体の余分な水分が抜けやすくなるのです。激しい運動でなく、じわっと汗をかける軽い運動でOKです。しっかりストレッチをしたり、少し早く歩くなどで普段から身体を鍛えておけば、自律神経が整いやすくなります。もちろんベースになる睡眠と食養生も必要です。
『明日は雨が降る。頭が痛くなりそうだ』と感じたときに、漢方薬を服用することで、頭痛が起きにくくなる患者様もおられます。身体に合えば、著効する方がおられ、『天気が悪くなる時でも、頭痛が起きなくなりました』と報告頂くと、こちらまで嬉しくなります。
一つ目は【五苓散(ごれいさん)】です。体内の水分バランスを整える漢方薬で、水分不足の時は補い、水分過多の時には排出してくれる便利なものです。雨の前に気圧が下がると、特に体はむくみやすくなり、血管が広がりやすくなるため、片頭痛が起こりやすくなりますから、五苓散が聞くのだと思います。
二つ目は【呉茱萸湯(ごしゅゆとう)】です。体を温めて、首こりを改善する効果、嘔吐を止める効果もあります。片頭痛の漢方の特効薬であり、雨の前の頭痛にも効きます。痛い時に2包いっぺんに飲むと頓服の頭痛薬の代わりにもなります。苦いですが、効く人は問題なく飲めると言われています。
もちろん先日書かせていただいたトリプタンやNSAIDsでの対応は基本です。本日はなるべく体に優しい天気頭痛の治療について書かせて頂きました。
『卑弥呼は片頭痛持ちだった』と信じている蒼野でした!
参考書籍: 『低気圧頭痛』は治せる 佐藤 純