甲状腺機能亢進症の対処法!

2023/06/21

 昨日は甲状腺機能低下症について今まで知らなかったことを書きました。一緒に知識を増やしてておきたいので、今日は甲状腺機能亢進症について調べてみようと思います。疫学的には機能亢進症は機能低下症の約3割と、少ない様です。

 血中のFreeT4が正常でも、機能低下が有れば、下垂体からのTSH(甲状腺ホルモン刺激ホルモン)の値は上がり、機能亢進が有れば、TSHの値は下がります。日本の2004~2014年の10年間の健康診断データ、386846人のデータによると、潜在性甲状腺機能低下症は4. 02%、潜在性甲状腺機能亢進症は1. 23%でした。機能亢進症は減少傾向でしたが、機能低下症は年々増加傾向にあったと報告されています1)。

 潜在性甲状腺機能低下症は30歳代から60歳代までは女性に多く、50歳代から60歳代がピークで、70歳代以降では男性に多く認められました。潜在性甲状腺機能亢進症は90歳代を除くどの年齢においても女性の方が男性より頻度が髙くなっていました。

 昨日も書いたように甲状腺ホルモンは体の細胞すべての代謝に影響する重要なホルモンです。これが多くなり、体全体に様々な影響が出た状態が、甲状腺機能亢進症なのです。具体的には、交感神経が刺激されるため、代謝が亢進し、動悸、体重減少、指の震え、暑がり、汗かきなどの症状が起こります。エネルギーが使われるため、疲労も起きやすく、筋力が低下し、消化管の動きが亢進して下痢も起こります。

 生理が止まったり、精神的にもイライラしたり、落ち着かないなどの症状が出やすいです。眼球突出と言って、目が大きく飛び出してくることもあります。甲状腺ホルモンによって新陳代謝が良くなるため、痩せて、肌もキレイになり、目が大きくなる事から美人病とも言われます。しかし本人にとっては決して嬉しくはないと思います。

 全身の代謝が高いために、体内でカリウムは細胞内に吸収されやすくなっており、低カリウム血症が起こりやすい状態です。特に男性に多い様ですが、運動したり、血糖値が上がる様な食事を摂ると、血糖と一緒にカリウムが細胞内に入るため、低カリウム性の周期性四肢麻痺を起こすことがあります。急に手足の力が抜けて動けなくなるのです。

 甲状腺機能亢進症の主な原因は、自己免疫疾患であるバセドー病です。甲状腺機能低下症も自己免疫で起こる橋本病があるのですが、その違いは抗体の違いです。バセドー病の場合には、甲状腺ホルモン分泌細胞にある、TSH受容体に対する自己抗体が出来るため、それが結合すると、甲状腺ホルモンが分泌されるのです。一方、橋本病は甲状腺ホルモン分泌細胞を障害する抗体です。

 治療法としてまず使われるのが、抗甲状腺薬です。甲状腺ホルモンの産生を阻害する作用があり、甲状腺ホルモンレベルを下げる薬です。薬をやめれば産生は再開するため、機能低下になることは少ない治療法です。しかし逆にホルモンレベルが下がり、一旦寛解しても中止は難しく、再発率は高い治療になります。2年続けても薬が中止できない場合は、次の治療を検討します。

 次に簡易な治療としては、放射性ヨウ素を内服、または注射する治療です。甲状腺に取り込まれた放射性ヨウ素は、放射線を発生させて周囲の甲状腺細胞を破壊します。安全で効果が確実な治療でもあり、甲状腺の腫れも小さくなります。ホルモン値が下がりにくい場合には繰り返しますが、長期的には、甲状腺機能低下症になってしまう場合があります。壊れた甲状腺細胞から一時的に大量のホルモンが出てくると、眼球突出などが悪化することもあります。

 最後は外科的な甲状腺摘出術です。最も早く確実に治療効果が得られる方法ですが、全摘すると甲状腺機能低下は必発です。もちろん稀には、手術に伴い反回神経の麻痺(声がしゃがれる)や、副甲状腺機能低下症になって、低カルシウム血症や高リン血症による重篤な副作用が出ることもあります。

 治療しないと、心房細動などの不整脈が出て、重症の脳梗塞につながったり、心臓が酷使されるために心不全が起こったり、骨代謝の亢進は骨吸収の方がやや強いため、長期間放置すると、骨粗鬆症による病的骨折が起こったりします。「寝ていても、ジョギングしている」と言われる状態ですので、寿命も短くなります。これは放置できない疾患ですよね! 

 バセドウ病にはなりやすい遺伝子があり、家族にバセドウ病が居られる方は、20~40倍くらいバセドウ病になりやすいことが知られています。20~30歳代の若い女性に多い病気です。女性は男性の5倍多く、1000人中2~6人いるとされています。発症にはストレスや、生活習慣、出産など複数の要因が関わるとされていますが、いまだに確定はしていません。

 発症後に気をつけることは、真っ先に禁煙です。喫煙していると、眼球突出がひどくなり、薬の効きも悪くなりやすいです。ヨードの多い昆布や、イソジンうがい液などはやめておきましょう。さらにホルモンが増えやすくなります。ストレスやきつい仕事は避け、ホルモン値が下がるまでは、激しい運動も控えるべきです。もちろんホルモン値が下がれば、運動は再開した方が良いです。

 代謝更新のため亜鉛不足にはなりやすいです。亜鉛を含む食べ物は意識して摂ると同時に、サプリメントも入れておくべきです。また代謝の亢進のため、体内では通常よりも多く活性酸素が作られています。野菜や果物などに含まれる抗酸化物質を、より多く摂る必要があります。ビタミンA 、C、Eなどもサプリで摂るべきだと思います。

 自己免疫疾患は、免疫系の異常から生じてきます。免疫の中心は腸になりますので、近年、自己免疫疾患としての甲状腺疾患が増えてきている事には、食生活やストレスなどのライフスタイルの影響が強く働いている様に蒼野は思います。レビュー論文で欧米食と自己免疫疾患の関係について言及したものがあったので、紹介しておきます。

 西洋化した国での食生活は、高脂肪・高コレステロール、高タンパク質、高糖、過剰な塩分摂取、さらには加工食品や「ファストフード」の頻繁な消費は、自己免疫疾患の促進因子としての可能性が疑われています。いまだに確定的な証拠は無いものの、栄養、腸内微生物叢、腸粘膜免疫系、自己免疫病理とが深く絡み合っていることが、これまでの多発性硬化症(MS)や1型糖尿病(T1D)、炎症性腸疾患などの研究からわかってきているようです2)。

 全身の炎症を鎮静化するための運動、腸の炎症を避け、良好な腸内細菌を育てる食事、規則正しい生活や、良質な睡眠、マインドセットによるストレスコントロールなどが、高い水準でキープできれば、甲状腺疾患も起こりにくくなるように思います。

 現代のどんな慢性病でも、求められる生活習慣は本当に一緒なのだなあと、今回も思った蒼野でした。

参照文献:
1)健診データ10年間から見た 潜在性甲状腺機能異常症の疫学 総合健診.2017;44:485-491.

2)Role of “Western Diet” in Inflammatory Autoimmune Diseases. ; Curr Allergy Asthma Rep. 2014 ; 14(1): 404.

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