睡眠時無呼吸症候群の新しい治療法!

2023/10/04

 今日は、蒼野が最近知った、睡眠時無呼吸症候群の新しい治療のお話です。睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に何度も呼吸が止まる病気です。1時間に5回以上、10秒以上息が止まる『無呼吸』を繰り返す人は、この疾患と診断されます。

 大事な睡眠の質を大きく下げてしまう疾患です。寝ているようでも、無呼吸によって血中の酸素濃度が下がると、身体中に警戒のサイレンが鳴り響きます。サイレンに脳が対応せざるを得ないため、ぐっすりと眠れず、身体中に酸素を送るために、心臓や血管にも負担が掛かります。睡眠時無呼吸症候群を放置していると、脳卒中や狭心症、心筋梗塞などの、突然死の可能性が高い疾患につながる可能性があるのです。

 硬いものを噛まない生活を続けることで、現代の日本人は、顎が小さくなり、気道が狭い人が増えてきました。寝ている時に睡眠が深くなると、全身の筋肉は脱力します。深睡眠中に舌の筋肉が脱力して軌道が狭まり、イビキをかきます。気道が閉塞して無呼吸が起きると、危険を知らせるサイレンで脳が目覚め、深睡眠の時間は減ってしまうのです。

 深睡眠の時間が減ると、身体の疲れは取れません。日中もだるく、眠気が取れず、高いパフォーマンスは望めません。頭痛や鬱、ちゃんと眠れないことで認知症リスクも増大します。放置すれば、若い人でも、高血圧にも繋がり、脳卒中や心臓による突然死の原因に、なり得ます。

 日本では約500万人が睡眠時無呼吸症候群を持っていると言われています。しかしちゃんと治療を受けている人は10%くらいしかいません。重症の睡眠時無呼吸症候群を放置すると、3分の1が5年以内に血栓が原因となる脳血管障害、心筋梗塞などを引き起こし、場合によっては命に関わります。かなり怖い疾患なのです。

 気道が狭くなりやすい小さな顎や、気道に余分な肉がついて狭くなる肥満、大きな扁桃腺、舌根が落ちやすくなる飲酒や睡眠薬の使用などが、睡眠時の気道閉塞のリスクになります。物理的な気道閉塞で生じる睡眠時無呼吸症候群以外にも、メカニズムがまだよく分かっていない、脳が呼吸の命令を出さなくなる中枢性の無呼吸症候群もあります。

 実は蒼野は10年ほど前に、睡眠時無呼吸症候群の検査をしたことがあります。家族にイビキを指摘されたことがあり、簡易検査と言って自宅にアプノモニターを持って帰って、付けたまま眠りました。鼻や口での呼吸の状態と血液中の酸素濃度を測定するものです。この頃は毎晩、晩酌をしており、体重も今より5kgくらい重い状態でした。

 簡易モニターの結果、睡眠時無呼吸症候群の疑いがあると言われ、さらに泊まりがけで脳波を測定しながら行う、ポリソムノグラフィー(PSG)まで行いました。頭中に電極をつけたまま、外れないように気にしながらの検査は、あまり眠ることが出来ず、結構大変でした。

 結果としては、1時間のうちに1~5回程度無呼吸が見られ、軽度~中等度の睡眠時無呼吸症候群があると診断され、マウスピースを作るように言われました。しかしマウスピースを付けると、違和感が強くて、眠りにくいですね。そのまま治療からは脱落し、今に至ります。しかし深酒しなくなってからは、イビキは減っているようですので、大丈夫かなあ??

 無呼吸が1時間に20回以上見られるような、重症の睡眠時無呼吸症候群では、ひどいイビキは特徴的です。繰り返しになりますが、放置すると、心血管病による死亡や、昼間の眠気による事故などでの死亡率が高くなるため、ぜひ治療するべきです。

 最も一般的な治療はC-PAP治療(持続陽圧呼吸療法)です。鼻にマスクをつけCPAP装置から気道に空気圧を送り、睡眠中に気道が塞がらないようにする治療です。毎日ちゃんと付けて寝ることが出来れば、無呼吸が減り、睡眠の質が改善します。健康保険の適応で使用可能です。

 蒼野は経験はありませんが、マウスピースでも眠れなかったのに、鼻マスクを強く密着させ、呼吸の度に圧力がかかる機械をつけたまま、眠れるかと言われると、ちょっと自信がありません。ぐっすり眠れて、昼間もすごく快調になったと言う患者様もいますが、半数はC-PAPを付けると眠れないという人がいるのも事実です。

 そこの部分が、睡眠時無呼吸症候群の新しい治療法=舌下神経電気刺激療法で解決できるかもしれないのです。これは埋め込み型の電気刺激装置を鎖骨下に手術で植え込み、本人の呼吸に同期して微弱な電気で顎下にある舌下神経を刺激します。舌下神経が舌の根元の筋肉を収縮させると、気道が広くなるのです。

 マスクを密着させる不快感は必要ないため、C-PAP治療が上手くいかなかった、気道閉塞で起こる中等症以上の睡眠時無呼吸症候群患者様が適応となります。治療を受けた人を、C-PAP治療の人と比べると、主観的な眠気の改善は、舌下神経電気刺激療法が優っていました。

 これは2021年6月に保険適用が認められた新しい治療法です。適応は、18歳以上で、20回/時以上の無呼吸が見られ、C-PAP治療が継続できない人。BMIが30kg/m²未満(30以上の人はまずはダイエットからです)。扁桃肥大などの解剖学的な気道狭窄が無い人。薬物睡眠下内視鏡検査において、口の奥の天井に部分である軟口蓋が虚脱して、上気道が狭くなっている人は、舌根沈下による閉塞では無いため適応外となります。

 睡眠時無呼吸症候群の有病率は、男性で4~24%、女性では2~9%です。半数以上に肥満が見られます。睡眠時無呼吸患者の内、C-PAP治療に順応できなかった患者に対する、舌下神経電気刺激療法の有効性と安全性を検討した、2015年のレビュー論文を紹介します1)。

 この6つの前向き研究のレビューでは、200人の患者で12ヶ月間のフォローが紹介されていました。評価項目としては、無呼吸-低呼吸指数(AHI)、酸素飽和度低下指数(ODI)、昼間の眠気(ESS)について検討されています。

 手術を受けることによって、1時間あたりの無呼吸と低呼吸の回数(AHI)は治療前と比べて、平均で17.51回(14.34~20.69回)減っていました。また1時間あたりの酸素飽和度の低下回数(ODI)は13.73回(10.58~16.87回)減っていました。

 最後の昼間の眠気はESS (Epworth Sleepiness Scale)というスケールで比べています。日常生活の8つのシチュエーションにおいて、0(全く眠くない)から3(高い確率で眠る)までの4段階で評価し、合計した点数で、治療前と比較しています。これは平均で4.42点(3.34~5.39点)低下しています。治療によって患者たちの日常生活での眠気が明確に減少したことが示されました。

 イビキが酷い人といいうのは、一定数おられます。治療法も進歩してきているようですし、まずは検査してみる事は、決して損にはならないと思います。重症の睡眠時無呼吸症候群は放置してはいけない疾患ですので、気になる方は睡眠外来を受診してみてくださいね!

参考論文: 
1)Hypoglossal nerve stimulation in the treatment of obstructive sleep apnea: A systematic review and meta-analysis. ;  NA Laryngoscope, 125:1254–1264, 2015 

参照ページ: 舌下神経電気刺激装置  植込み実施医一覧
http://www.jssp.umin.jp/general_public/Inspire-uas/index.html

ちなみにまだ日本では、大学病院を中心に、22人しか植え込みできる医師はいないようです。

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