皆様はお腹の調子は良いでしょうか? 蒼野は小学校低学年まではよくお腹を壊して、下痢をしていました。成長するにつれて症状は無くなり、最近ではお腹の調子が悪くなることは滅多にありません。ありがたいことだと思います。
身体は食べた物で出来ているため、消化器がちゃんと健康であることはとても重要です。口に入れてもちゃんと吸収されなければ、栄養として使うことができません。蒼野は脳外科ですので、お腹のことは詳しくありません。身体に良い食べ物の話をしても、まずお腹が調子が良い事が前提になるため、お腹の病気について、勉強したいと思いました。
今日は過敏性腸症候群(IBS=Irritable Bowel Syndrome)について調べて書いてみたいと思います。電車に乗っていると急にお腹が痛くなり、途中下車してトイレに駆け込むという話は、よく聞く典型的な症例です。他にも便秘が続いたり、便秘と下痢を繰り返したりと、様々な症状のバリエーションがあります。
定義としては『腸の検査や血液検査で明らかな異常が認められないにもかかわらず、腹痛や腹部の不快感を伴って、便秘や下痢が長く続く病気』ということになります。診断には、同じような症状を呈する腸のポリープや癌、憩室、潰瘍、潰瘍性大腸炎やクローン病などを否定する必要があります。
症候群と名付けられているだけに、はっきりした原因がいまだに特定できておらず、人によって、その原因もまちまちである可能性が高いです。しかし、ひどい症状になると、生活の質が下がる病気であることは間違い無く、健康長寿のためには、対策を立てる必要がある病態だと思います。
患者数はとても多く、日本人の10~20%、消化器症状で病院を受診する人の3割はIBSと言われています。思春期の女性や40歳代の男性などに多いようです。機能性の消化器疾患の一つであり、よく言われるストレスだけが原因では無いようです。原因が多岐に渡れば、その対応もそれぞれ考える必要が出てくるため、一筋縄ではいかない疾患でもあります。
最新の知見ということで、日本消化器病学会の機能性消化管疾患診療ガイドライン2020ー過敏性腸症候群(IBS)ーから、現在わかっているこの疾患の特徴をピックアップして、朧げながら、原因や対策を考えてみたいと思います。
まず診断基準からです。現在はRomeⅣ診断基準というものが使われており、腹痛が、直近の3ヶ月の中の1週間につき1日以上あり、それが排便の頻度や、便の形状変化を伴う、排便に関連する痛みである事が診断の目安となっています。お腹を壊しやすい人ならすぐに当てはまってしまいそうですよね!
もちろん器質的疾患の除外が前提ですので、消化器内科などで精査して、異常がないことを確認して、初めて診断される病名です。症状が続く場合には、私はお腹が弱いからと、単なるお腹の不調と片付けずに、消化器科で他の病気が無いか診断してもらうことが大切です。
まずはIBSに関する研究で、わかっている事から見てゆきましょう! 日本の調査でも外国の調査でも、男性と女性では女性の方が1.56~1.7倍ほど多いとされています。結構な地域差があり、人口当たりフランスやイランは1.1%ですがメキシコは35.5%、ラテンアメリカは17.5%ですが、アジアは9.6%、中東アフリカは5.6%です。
都市部の方が有病率が高く、アメリカミシガン大学の2500人の看護師を対象にした研究では、夜勤がある人に多いとのことです1)。軍の経験がある女性にも有病率が高く、我が国の2万人の男性の調査では、役職や年収が高い人に、下痢型のIBSが多いという統計が出ています2)。職業との関係ということはやはりストレスの影響でしょうか?
ウイルスや細菌などで腸炎になった後に、2~3年はIBSが出やすいという論文もあります。感染性腸炎後のIBSは9.8%で対象群は1.2%と有意差が出ています3)。7つの研究のメタアナリシスで、消化管の感染症の後、しばらくの間、IBSの発症は7倍になるという結論です。発症を高める因子としては、ストレス、女性、若年、急性炎症の重症度だったことなどが挙げられます4)。
腸脳相関と言って、腸と脳はお互いに伝達物質や自律神経を介して、影響しあっていることはご存知ですよね! これはIBSでも注目されている部分であり、IBS患者では、直腸の刺激に対して、感覚入力される帯状回がより強く反応することや、子供の頃の外傷ストレスで、より発症が多いことなどが判明しています。IBSになりやすい人は、様々なことに過敏で、同じ事が起こっても、悪く解釈しやすく、そのストレスがさらにIBSを悪くすることが疑われています。
またIBSの病態には腸内細菌や粘膜透過性亢進(リーキーガット)、粘膜の微小炎症が関与しています。これが中枢機能にも影響することが疑われています。IBSでは腸内細菌叢が健常者と異なり、小腸内での異常増殖(SIBO)をきたしていることも報告されています5)。腸内細菌が違えば、細菌が生み出す物質も異なり、腸内環境が悪化していることが予想されます。
IBSでは、腸粘膜の透過性が亢進しており、そこに微小炎症が起こっていることも確認されています6)。プロバイオティクスを投与して、細菌叢を変化させる試みもなされています。SIBOはIBSの約8割に合併しているとされ、プロバイオティクス投与で悪化することもあるので、治療は一筋縄ではいかないようです。
IBSでは扁桃体(危険を察知する部分)を中心とした興奮が強く、逆に情動を制御する前頭前野の働きが弱くなっています。ストレスへの対処が難しい状態と言えます。IBSではセロトニンが低下することで腸感覚が過敏となり、不安を伴って病態が悪化します。抗うつ剤であるセロトニン再取り込み阻害薬が効くこともあります7)。
コルチゾール分泌を促すCRH⇨ACTH反応に対して、大腸が運動亢進を起こしやすく、CRH負荷があると、扁桃体が興奮しやすくなっています。CRHと逆の作用をするオキシトシンの作用が働いていないようです8)。幸せホルモンであるセロトニンやオキシトシンが不足すると、IBSが起きやすいとも言えるようです。
IBSには、一卵性双生児では17.2%、二卵性では8.4%と一致率が高いことから、遺伝の関与があることや、母親との一致率が高いことなどから、IBSになりやすい生活習慣が受け継がれることなどの可能性も考えられています。
これまでの研究を見てみると、蒼野の私見ではありますが、IBSの改善につながる原因としては、ストレスコントロールやセロトニン、オキシトシンを増やすこと、腸内細菌叢を変えることや、SIBOの改善などが有効である可能性が浮かび上がってきましたね! つまり生活習慣が鍵になる様なのです。
今日はこの辺で、治療法については、明日また書きたいと思います。IBSは様々な病態が隠れているものだと思うので、悩んでいる方は、いろいろやってみるしかない様に思います。海外と日本ではアプローチも違う様なので、色んなやり方を知っておくと良いと思いました。
脳外科医なのに、健康長寿の追求で、どんどん間口が広がっている蒼野でした!
参考文献
1)Irritable bowel syndrome and dyspepsia among women veterans:prevalence and association with psychological distress. ; Aliment Pharmacy there 2009; 29: 115-125
2)日本人男性における下痢症状を主訴とする過敏性腸症候群患者の生活実態調査 新薬と臨床 2010;59:32-36
3)Postinfectious irritable bowel syndrome: a meta-analysis. Am J Gastroenterol 2006 ;101:1894-1899
4)Rome Foundation working team report on Post-infection irritable bowel syndrome. Gastroenterology 2019; 156: 46-58. e7
5)Small intestinal bacterial overgrowth in irritable bowel syndrome; systematic review and meta-analysis. Coin Gastroenterol Hepatic 2009 ; 7: 1279-1286
6)Irritable bowel syndrome(IBS). Nat Rev Dis primers 2016; 2: 16014
7)Acute tryptophan depletion alters gastrointestinal and anxiety symptoms in irritable bowel syndrome. Am J Gastroenterol 2006 ; 101: 2582-2587
8)Oxytocin increases thresholds of colonic visceral perception in patients with irritable bowel syndrome. Gut 1996; 39: 741-747
参考ページ: 機能性消化管疾患診療ガイドライン2020ー過敏性腸症候群(IBS)ー
https://www.jsge.or.jp/guideline/guideline/ibs.html
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