今日は不老不死について考えてみたいと思います。絶大な権力を誇った紀元前の秦の始皇帝が探し求めた、と伝えられているように、不老不死は、人類の永遠の夢でもあるのかもしれませんね!蒼野が大好きなインディジョーンズを始め、メリル・ストリープの「永遠に美しく…」などの映画でも何度も描かれています。
興味深く、面白いファンタジーとして捉えられる方が多いとは思うのですが、この広い世界には不老の生物や、不死の生物が実際にいるのです。これは人生100年時代、生物学的には120年までは生きることができると言われる人類にとって、研究すべき分野になると確信しています。
まずは不死の生物です。地球上にいる死ぬことがない生物はベニクラゲです。体調1cm足らずの小さなクラゲですが、針で突き刺されたり、海水の環境が淡水になったりと、生命の危機が訪れると、大人のクラゲの触手が消失し、肉団子のような状態となり、2日ほどすると、幼少期の形である、イソギンチャクのようなポリプという状態となり、ポリプからまた何体も大人のクラゲが育ってゆくのです。
もちろん同じDNAのクラゲが、若返り、新たな寿命を得て育つので、ベニクラゲは不死の生物と言われています。ベニクラゲのオスとメスから新しい生命も生まれます。死ななければベニクラゲだらけの世界になりそうなのですが、他の生物に常に捕食されており、消化されたベニクラゲが再生することは無く、この世から消えてしまいます。
一旦大人になるために分化した細胞は、通常は何にでも変化できる幹細胞、つまりiPS細胞に戻ることはないのですが、ベニクラゲはそれができるということです。人に応用できるとすれば、クローン人間のような感じなのかもしれませんね。一旦短くなったテロメアも、ベニクラゲは長くできるのです。
次は不老の生物です。これは何種類も見つかっています。アホウドリやゾウガメ、ハダカデバネズミなどがこれにあたります。癌などの加齢による病気に罹らず、歳を取らないまま生きていきますが、ある日突然死んでしまいます。まさにピンピンコロリです。寿命と健康寿命が完全に一致するように生きれるのは、我々が理想とするところではないでしょうか?
今まで蒼野は老化は仕方がない事で、死ぬのには例外は無いというのが常識だっただけに、こういう話を聞くと、とても不思議な気がします。その秘密を解く鍵がオートファジーなのです。ここでオートファジーについてもう一度おさらいしておきましょう。
オートファジーというのは、細胞内のリサイクルシステムです。皆様は新陳代謝はご存じだと思います。古くなった皮膚が垢となって落ち、新しい細胞で皮膚が作られると言ったものです。これは細胞ごと新しくなるという事なのですが、オートファジーは細胞の中身が掃除され、新しくなるというイメージです。飢餓の時に不足するタンパク質をリサイクルするだけの働きではありません。
皮膚は細胞ごと入れ替わることができますが、脳細胞をはじめとする神経の細胞、心筋の細胞などは一生入れ替わりません。細胞の中の器官(オルガネラ)、例えば壊れたミトコンドリアがオートファジーで新しくなります。脳細胞なら歳と共に溜まってくるβアミロイドやαシヌクレインなどのゴミが、オートファジーで、掃除されてゆきます。
細胞に入ってくる細菌やウイルスなどもオートファジーがやっつけてくれます。オートファジーは細胞一つ一つの健康を保つ、すごく良くできた、完璧なシステムなのです。細胞一つ一つの集合である、生物の身体も、オートファジーが働いている限り、老化して病気に罹りやすくなることはないはずです。
例えるなら、2000年前に石で作られたアクロポリス遺跡(パルテノン神殿など)は、経年劣化でボロボロになってきています(オートファジーなし)が、同じく2000年前に建てられた木造の伊勢神宮は、20年毎に式年遷宮と呼ばれる建替え(オートファジー)が行われてきたため、今でもピカピカです。
オートファジーは37兆個の身体の細胞の全てで起こるため、このシステムが働き続ける限り、老化はしませんし、死なない可能性もあるのです。脳細胞にゴミが溜まらなければアルツハイマー病やパーキンソン病になりませんし、心筋細胞が弱って起こる心不全なども起こりません。癌も含め老化で罹りやすくなる病気を遠ざけてくれます。
死なない生物や、歳を取らない生物は、まだ全ては解明されていないものの、オートファジーを利用し続けられる生き物なのです。その結果として、70歳のアホウドリが産卵して、普通のヒナが孵ったり、ゾウガメの推定寿命が250歳だったり、ハダカデバネズミが癌にならなかったりするのです。
しかし、これらの生物は少数派で、ほとんどの生物は老化しますし、死にます。もし種の保存に老化や死が必要が無いのなら、不老不死が多数派になっていてもおかしくありませんよね! これらの生物が示すように、老化したり死んだりしないやり方も可能なのに、ヒトも含め、動物は、進化の過程で、老化と死を選択していると考えられるのです。
老化と死は、遺伝子でプログラムされている計画である、と考える進化生物学者も多いようです。生物にとっては多様性が重要です。環境も変化するため、環境に合わせて遺伝子を適応させるには、個体は死んで、次の世代の多様な遺伝子の中の、環境に適応する個体が残ってゆくという作業が必要なのです。
シマウマの集団がライオンに襲われた時に、ヨボヨボの老化したシマウマから食べられるのは、次の世代の子供のシマウマが食べられるよりも、種の保存にとって有利です。ヒトの世界でもコロナなどの感染症で先に死ぬのは高齢者です。もし死ななければ、人口爆発が起き、食糧危機が勃発し、地球に住めなくなるのではないでしょうか。
老化も死も、定められた運命ではなく、種として選択的に選んできたものだと考えることができます。オートファジーは加齢と共に、活性が落とされているようにできています。オートファジーが起こりにくくなる60代から、急に癌が増えてきます。成長ホルモンや男性ホルモンなど、元気に関わるホルモンの分泌も低下してゆきます。
オートファジーを邪魔する物質がタンパク質の一種であるルビコンです。加齢と共にこのルビコンは増えてゆきます。オートファジーにブレーキをかけるタンパク質なのです。動物実験でルビコンができないようにしたマウスは寿命が1.2倍に伸び、病気になりにくくなります。線虫では80歳相当でも若い時と同じように、通常の2倍くらい動き回ることが観察されています。
もしオートファジーを活性化する薬(抗老化薬)ができれば、個別の病気に効くのではなく、老化で増える全ての病気を予防してくれるかもしれない可能性があります。今までの医療を、根本的に変える薬になるかもしれません。動物実験を見ると、健康寿命を伸ばしてくれる薬になりうることが十分に期待されるのです。
夢のような抗老化薬に関しては、現時点ではまだ研究段階ですし、蒼野の歳では間に合わない可能性がありますね。今日は書く事がいっぱいになってしまいました。具体的にオートファジーを活性化する方法やサプリメントについては、過去のブログに加えて、新たな知見もありますので、もう一度明日書きたいと思います。
最後の日まで、元気で動けて、あとは次の世代に託してコロッと死ぬアホウドリみたいな生き方がしたい蒼野でした。
参考書籍: LIFESCIENCE 長生きせざるをえない時代の生命科学講義 吉森 保
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