癌治療の進歩と免疫チェックポイント阻害剤!

2023/03/31

 今日は質問いただいたので、日本人の死因の第一位である、癌の治療について書いてみたいと思います。癌は20世紀の半ばから急速に増加し、日本人の死因の第一位になりました。今や日本人の二人に一人が、一生の間に一度は癌に罹る時代になっています。

 癌の罹患者数も増加しましたが、検診や治療技術の進歩により、一部の癌においては死亡率が低下しています。胃癌や乳癌、大腸癌などの生存率が向上している一方で、肺癌や膵癌などでは、いまだに死亡率は高いまま推移しています。

 蒼野が医者になった当時は、癌(蒼野の場合は脳腫瘍ですが)の治療は、手術、放射線治療、抗がん剤による化学療法の3つしかありませんでした。悪い物が出来たらできるだけ取ります。完全に取る事ができれば、体内の癌細胞はゼロになり、治ったということになります。

 手術で全部取れなかったり、すでに転移しているような場合には、残った癌細胞は放射線で殺したり、抗がん剤で殺したりします。これらの方法でゼロにする事はできませんが、癌細胞を減らす事はできます。最後に残った少量の癌細胞が、もともと身体が持っている免疫力でゼロに出来れば、癌細胞がなくなり、治ったということになります。

 現実はこんな風にはいかないので、癌は不治の病と言われています。癌細胞は我々全員の体の中で、毎日5000個も作られています。免疫システムが正常であれば、どんどん退治されてしまい、ゼロになるので癌を発症する事はありません。免疫をすり抜けたり、我々の免疫システムの不調が起こったりすることで、癌細胞が生き残り、どんどん増殖して塊として認識できるまでに成長したものが、いわゆる癌種です。

 すでに体内の免疫システムでは対応できなくなっている物なので、上記の治療を加えて治そうとしてきた訳です。放射線は細胞分裂している途中のステージを障害します。癌はどんどん分裂するので、分裂する事は稀である通常の細胞は傷害されにくく、癌細胞が傷害されやすいという性質があるので、癌だけを減らす事はできるのです。しかし癌がゼロになるまで放射線で焼き尽くすと、もちろん正常細胞の多くにも影響が出てしまうため、治療に限度があるのです。

 抗癌剤も同様です。様々な抗癌剤がありますが、基本的には細胞毒性を持った物質です。やはり分裂の途中で効く薬が多いため、癌細胞をより傷害する物質です。しかし分裂が盛んな正常細胞、例えば毛母細胞や、消化器官、造血細胞などは影響を受けやすく、脱毛や悪心、口内炎、貧血などの副作用が起きやすい性質があります。癌がゼロになる量を使うと、副作用のために死んでしまうことになるという事です。

 そこで工夫され、進化してきたのが免疫療法です。主には「がんによる免疫のブレーキをはずす治療法」と「がんに対する免疫(がん免疫)を増強する治療法」に大別されます。今日はその中でも、「癌がかけている免疫ブレーキをはずす治療法」である、免疫チェックポイント阻害剤について解説してみます。

 米国のジェームズ・アリソン氏と日本の本庶佑氏によって開発され、2018年にノーベル生理学・医学賞の受賞につながったオプジーボが、免疫チェックポイント阻害剤の先駆けです。簡単に言うと、癌細胞が細胞の表面に発現するタンパク質(PD-L1)が、T細胞のPD-1受容体と結合すると、T細胞活性が抑制され、免疫からの攻撃を避ける事がわかりました。

 このPD-L1とPD-1受容体の結合を、免疫チェックポイントと呼びます。オプジーボはPD-1受容体に対する抗体で、投与されると、結合を邪魔するのです。癌は免疫からの攻撃を避ける事ができなくなるため、体内の免疫で退治されてゆくと言う事です。ちょっと変な例えですが、刺青をした悪い人でも、普通の服で普通にしていると職質される事はありません。オプジーボでタンクトップに着替えさせられたら、逮捕されやすくなる、みたいな感じでしょうか?

 オプジーボによってT細胞が再び活性化し、癌細胞を攻撃する能力が回復します。非小細胞肺がん、メラノーマ、腎細胞がんなどに特に効果が高いことが判明しています。同様の薬は他にも開発が進み、同じ抗PD-1抗体薬では、キートルーダがあります。また抗PD-L1抗体薬も、テセントリクと言う薬が開発されました。

 またT細胞の表面にある別の受容体に、CTLA-4というものがあります。この受容体にもT細胞の活性を抑制する役割があります。抗CTLA-4抗体薬として開発されたヤーボイは、CTLA-4をブロックし、T細胞の抑制を解放し、活性を回復させることで、癌細胞を攻撃できるように変えます。この薬もメラノーマ(悪性黒色腫)患者に著効する事が報告されています。

 体内の免疫細胞を活性化し、スーパー免疫細胞に変えて癌をやっつけると言うのは素晴らしい方法のように思えます。しかし問題はあるのです。CTLA-4とPD-1/PD-L1経路は、免疫系をコントロールするために元々体内に備わっている機能なのです。免疫反応や炎症反応を抑制する、Tレグ細胞の働きに深く関わっているのです。

 例えば正常な細胞でも、一部はPD-L1を発現しています。免疫細胞の中の樹状細胞(抗原提示細胞)やマクロファージはPD-L1を発現しています。血管の内皮細胞も、PD-L1を発現することが報告されています。皮膚や消化管、気道などの上皮細胞や骨髄内の造血幹細胞もPD-L1を発現しているのです。

 オプジーボなどによって、これらの作用が抑制されれば、免疫が過剰に反応しやすくなります。副作用として、関節炎、腸炎、肝炎、皮膚炎、甲状腺炎などの自己免疫疾患、コロナの大きな死亡原因であるサイトカインストーム、全身的な慢性炎症の状態となり、感染に弱く、疲労感や倦怠感につながってしまう場合があるのです。これが免疫チェックポイント阻害剤の副作用になります。

 そしてこれらの抗体薬は本当に高額です。オプジーボや、テセントリクは、1ドル110円計算でも、年間1870~2800万円、ヤーボイは1540~2310万円必要です。円安だともっとかかりますね。蒼野がいつも感じるのは『我々の身体は、本当にうまく出来ている』という事です。本当の健康はバランスが超重要です。

 生活の変化に伴って、癌も増えてきたように、バランスの悪い状態を続けていると病気になります。病気になった後から、新しく開発された素晴らしい薬を投与しても、1方向への反応を促進するものが多いため、バランスをとり戻すことにはなりません。バランスが戻らなければ、どこかに不調が出る! それが副作用の本質なのだと思います。

 医学の進歩は素晴らしい事ですが、ノーベル賞をとった薬でも、その奏効率は、一番効く悪性黒色腫でも約40~45%。他の癌に関しては、高くても20%台なのです。極論っぽいですが、癌になりにくかった20世紀前半の生活習慣に近づけ、汚染された環境や食べ物の発がん物質をなるべく避ける、定期的にがん検診をして、早期で見つけるといったアプローチの方が、癌になってから慌てて治療するよりもずっと重要な気がしています。

 これらの高額な免疫療法の特許は、ほとんどが海外が持っています。これ以上日本が貧乏にならないためにも、もっと予防に目を向けた取り組みが注目されることを望む蒼野でした。

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