インフルエンザ?コロナ?の対処法

2023/01/16

 年が明けて、蒼野の病院の発熱外来でもインフルエンザが陽性になる人の割合が増えてきています。今からインフルエンザも爆発する可能性があり、ニュースでも取り上げられていました。コロナとの同時感染も心配です。そこで今日は、インフルエンザ初期にどのように対応するのが良いのかについてお伝えしておきたいと思います。

 厚生労働省のページを見ると、現在どのくらいインフルエンザが流行ってきているのかが数値で分かります。定点医療機関からの総患者報告数を定点医療機関数で割った数で比べることになっています。去年までの報告数はずっと0.01でしたが、12/12-12/18が0.53、12/19-12/25が1.24、12/26-1/1が2.05、1/2-1/8が4.73と、倍々ゲームで増えていっています。

 コロナも第8波真っ只中で、気候も寒暖差が激しく、対応しにくい日が続くため十分な注意が必要だと思います。コロナもオミクロン株中心になってから、症状は普通の風邪で発症します。インフルエンザも高熱が出て関節痛を伴うことは多いものの、やはり風邪症状です。どちらでも無い普通の風邪に罹ることもあるため、症状では判別出来ないと思ってもらって間違い無いです。

 くしゃみが出たり、鼻水が多くなった、喉が痛くなった、体がだるいなどの、本当の風邪の初期に皆様はどうやって対応されていますか? 一番正しい対処法は、仕事なんてすぐにやめて、帰って栄養たっぷりの鍋などを食べて、沢山睡眠を取ることですよね! でも軽い症状でそれができる人は一握りだと思います。

 熱も出ていないこの時点でやって欲しいのは、うがいとマスク、ハチミツ(できればマヌカハニー)です。インフルエンザは喉(気道)の粘膜細胞に最初に入り込む為、うがいや鼻うがいで洗い流して、ウイルスの絶対量を減らせば、我々の免疫が勝りやすくなります。乾燥しているとインフルエンザウイルスが生存しやすくなるため、マスクで保湿したり、蜂蜜で保湿、抗ウイルス、咳止めを行うと、咳で喉の粘膜が傷んで感染が広がることが防ぎやすくなります。

 高熱が出れば、お医者さんに診てもらうのが正解なのですが、インフルエンザ検査も早過ぎると、ウイルス量がまだ多くなっておらず陽性にならない事があります。一番良いのは12時間から48時間位での検査です。合わせてコロナも検査してもらいましょう。しかし夜中や休日、仕事が忙しいなどで受診できない人も多数おられることと思います。

 そうなると最初に頼りになるのはドラッグストアでしょうか? 薬選びには注意が必要なので覚えておいて下さいね!まずは安易に熱冷ましを使わないことです。多種多様の熱冷ましが売られていますが、余程の高熱(38.5度以上でしんどい)の時にだけお勧めできるのが、アセトアミノフェン(カロナール、タイレノール)です。

 イブプロフェンやロキソプロフェン、ジクロフェナクなどのNSAIDsは、インフルエンザの場合にはインフルエンザ脳症を起こす危険性があります。インフルエンザ脳症は稀ですが、致死的な病態ですので、誤った薬のために命を取られないためにも是非覚えておいて下さい。

 今ではオミクロン株になって若者の重症化は少なくなりましたが、コロナの場合においても、アセトアミノフェン以外の熱冷ましは、コロナ重症化の引き金を引いてしまうと言われていましたので、安全に熱を下げるにはアセトアミノフェンなのです。

 また一般的な総合漢方薬にも、解熱剤の成分は入っています。体温が1度下がると、免疫力は30%低下します。ウイルス侵入を食い止めようと、身体が体温を上げているのを薬で邪魔してしまうと、ウイルスが抜けるのが遅くなります。高熱でしんどい時だけアセトアミノフェンということを覚えておきましょう。熱冷ましはアセトアミノフェンも含めて、腎臓が悪い人には使ってはいけないことになっているのも知っておいて下さい。

 選ぶべき薬は麻黄湯、葛根湯、麻黄附子細辛湯です。麻黄湯はもともと元気な人の漢方におけるインフルエンザの特効薬です。特に元気で体力のある子供さんなどには有効で、論文によるエビデンスもあります。ウイルス抑制効果のある桂皮、免疫系サイトカインの調節抑制効果のある桂皮と麻黄、免疫賦活作用のある杏仁と甘草が含まれ、感染初期の風邪に有効です。

 インフルエンザに対する西洋の抗ウイルス薬には、ノイラミニダーゼ阻害薬(NAIs)(=タミフル、リレンザ、イナビル)やキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬=ゾフルーザ などがあります。いずれも病院でインフルエンザキットで調べて、陽性になると初めて貰える薬です。

 2019年のインフルエンザに対する「麻黄湯とNAIsの併用 vs. NAIs単独」あるいは「麻黄湯単独 vs. NAIs単独」を比較した臨床研究のシステマティックレビューおよびメタ解析では、 1、NAIsに麻黄湯を併用することで発熱期間が短縮した。2、 麻黄湯単独とNAIs単独の比較ではあらゆるアウトカムに差はなかった。という結果が得られました1)。

 小さいながら前向き研究も二つほどあり、平均年齢5歳の60例を、タミフル群、麻黄湯群、併用群に振り分け使用したところ、投薬後の発熱期間の短縮は麻黄湯群で6時間、併用群で9時間程、タミフル単独群よりも有意に短くなっていました2)。

 もう一つは平均年齢はインフルエンザワクチン接種後の28.7歳の41例を、麻黄湯群、タミフル群、リレンザ群に分けて比べたもので、それぞれの発熱期間は、29時間、46時間、27時間で、麻黄等はリレンザと同等、タミフルよりも有意に発熱期間を縮小する効果を認めました3)。

 麻黄等はドラッグストアに売っていますので、これを見ると、普段から市販薬の漢方を用意しておき、引き始めに間髪入れずに飲み始めるのが、一番簡単で、経済的であるように思います。ただ漢方の効きには『証』が関係します。『証』を考えて漢方を選びましょう。

 麻黄湯は子供のように、もともと免疫力が高く元気な『実証の人』に合っています。熱はあるが比較的元気で、まだ汗がまだ出ておらず、水分が摂取可能な状態が適応です。量は大人との体重比で決めます。汗が出るまでの時期に、できるだけ早く、出来たら多めに飲みましょう。

 そこまで元気で無い人であれば『中間証』の葛根湯です。またすごく疲れていて風邪を引いたとか、高齢の方などの『虚証』には麻黄附子細辛湯の方がよく効きます。これらはいずれも汗が出て熱が下がるまでの短期間の薬です。最初に免疫に働きかけて、一気にウイルスとの戦いに勝ってしまうのが早く治す方法なのです。成人では,2~4時間毎に反復投与をするという方法もあります。

 コロナに関しても、ようやく漢方の論文が出てきています。東北大学の研究で、コロナ感染者161人を漢方群と、通常の解熱剤やせき止めの群に分けて経過を比べています。その結果、発症から4日以内に漢方薬を使った患者は通常治療グループの患者より回復が早く、酸素吸入を必要とする重度の呼吸不全へのリスクが低胃事が分かりました4)。

 以前ご紹介した柴葛解肌湯(葛根湯+小柴胡湯加桔梗石膏)の効果が実証される結果となりました。現在のコロナの抗ウイルス薬は、高価な上、リスクが高く無ければ使えないため、一般の人にはやはり漢方がお勧めです。ただコロナ禍になって、漢方薬は原材料の生薬不足から供給が限定されており、現時点では小柴胡湯加桔梗石膏が入って来にくくなっています。

 インフルエンザで効いて、コロナでは効かないということは基本的にはありませんので、風邪を引きかけているなとか、熱が出た場合には、早期に麻黄湯、葛根湯、麻黄附子細辛湯などを使ってみることもお勧めしたいと思います。

 例年よりもインフルエンザの流行開始は遅れているようです。3年間流行が無かったことで、我々のインフルエンザ抗体は低下しています。今からでもワクチン接種は、感染時には有利になりますので、心配な方は打たれることも合わせてお勧めしておきます。

 マスク無しという動きも出てきているようですが、感染予防にはマスク、手洗い、うがい、咳エチケットはマストですので、こちらもお忘れ無く!

参考文献:

1)The use of maoto(Ma-Huang-Tang), a traditional Japanese Kampo medicine, to alleviate flu symptoms: a systematic review and meta-analysis. ; BMC Complement Altern Med 2019; 19: 68

2)Antipyretic effect of Mao-to, a Japanese herbal medicine, for treatment of type A influenza infection in children. ; Phytomedicine 2007; 14: 96-101

3)A randomized, controlled trial comparing traditional herbal medicine and neuraminidase inhibitors in the treatment of seasonal influenza. ; J Infect Chemother 2012; 18: 534-543

4)新型コロナウイルス感染症の急性期症状に漢方薬 漢方薬投与による発熱緩和、重症化抑制を確認(プレスリリース) https://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press20221128_02web_kanpo.pdf

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