偏食な生物の秘密は腸内フローラにある!

2023/05/19

 今日は腸内フローラの話を書きたいのですが、人間の話ではありません。蒼野の大好きな生物の腸内フローラについて、興味を持ったので調べてみることにしました。ウチにいる柴犬ですが、大好物があります。なんと納豆とヨーグルト、そしてチーズです。発酵食品が好きな犬って多いのでしょうか? そこで動物の腸内フローラが気になり始めました。

 ネットで調べてみると、その専門家というのは多くは居られません。獣医の免許を持ちながら、東京農業大学生命科学部分子微生物学科で教授をされておられる、野本康二先生の記事にたどりつきました。犬の腸内フローラはどうなっているのでしょうね?

 研究室の人や、その家族が飼っている12頭の小型犬の腸内フローラを調べたところ、ヒトとの大きな違いは見られなかったそうです。0~2歳の若齢犬では、調べる度に変動が見られ、細菌群の構成が不安定な傾向にありました。また13歳以上の高齢犬では、菌の多様性が低く、大腸菌やディフィシル菌などの、ヒトでは悪玉菌と呼ばれる菌の比率が高くなっていました。

 2~13歳までの成犬では、腸内フローラの構成は安定していました。野本先生が飼っておられる兄妹犬ですが、同じブリーダーさんのところで生まれ、8歳まで同じエサを、同じ環境で、同じ時間に食べ、同じ時間に散歩し、同じように寝ていたにも関わらず、腸内細菌の構成が違っていたそうです。もちろん飼い猫との比較でも、大きく菌は異なっていました。

 最近の研究では、同居する家族との接触の仕方によっても、犬の腸内フローラが変わるという研究もあるようです1)。そして、犬が食べる物は、腸内フローラの主要な細菌に影響すると同時に、飼い主の腸内細菌群に似ているという研究もあります2)。善玉菌好きのうちのワンコは、おそらく良好な腸内フローラを維持していて、あんなに元気にはしゃぎ回っているのだと勝手に解釈しています。

 他の動物の腸内フローラも気になってきましたね! ヒトと似ている腸内細菌を持っているのはブタだそうです。違いとしてはヒトでは比率の高いビフィズス菌が少なく、逆にヒトで比較的少ない乳酸桿菌の比率が高いというのはあるそうですが、全体としてはよく似ているため、抗生物質の影響などを研究するのにとても有用だそうです。

 ウシやヒツジなどの草や紙を食べるような反芻動物では、第1胃に共生している原虫などの微生物が、セルラーゼといった消化酵素で、植物のセルロース(繊維質)を有機酸やグルコースに分解し、栄養分に出来ます。動物種によって、持っている腸内細菌が違えば、他の動物が食べれないものが食べられるようになるという事ですね!

 そう考えると、ヒトでも、海藻が消化できる腸内細菌を持つのは日本人などは、海苔や海藻を食べてきた民族です。牛乳はあまり飲んでこなかったため、日本人では、乳糖を分解する菌は少なく、牛乳でお腹がゴロゴロする乳糖不耐症が多いということは、納得しやすいです。

 特殊な食性を持つ生物は、それぞれが異なる腸内細菌を持っています。ジャイアントパンダは、元々は食肉目クマ科の動物です。消化器の構造も肉食動物なのです。しかし食べている物は、ほとんどが竹やササばかりです。パンダの腸内からは、竹のセルロースやリグニンといった難消化性食物繊維を分解する細菌が検出されます。

 しかし大きな身体を維持するためには、難消化性食物繊維の消化だけでは効率が悪いため、最近では、ササについているより消化しやすいヘミセルロースやデンプン類が、メインのエネルギーであろうと推測されているようです3)。

 昆虫で、腸内での共生を有効活用しているのは、シロアリです。シロアリの腸内では、まず共生している原虫が、木片のセルロースを酵素で分解し、糖に変えてくれます。腸内細菌は糖をエネルギーとして、空気中の窒素からアミノ酸やビタミンを合成して、原虫を養い、シロアリ自身の栄養としても使われています。シロアリから興味深い細菌が沢山発見されているそうです。

 また飼育動物の飼料になる、ミールワーム(ゴミムシダマシの幼虫)は、腸内にポリスチレン(発泡スチロール)分解菌を持っており、発泡スチロールを栄養として利用できることが分かっています。もし我々の腸内で大量のポリスチレン分解菌と共生できたら、発泡スチロールを食べて生きてゆくことができるのでしょうか!?

 コアラはユーカリの葉だけを食べて生きています。他の動物はユーカリに含まれる、タンニンがあると、タンパク質が消化できなくなるため、タンニンを摂り過ぎると生きてゆけません。またユーカリにはテルペン類やフェノール系物質といった毒も含んでいます。

 コアラの腸内には、タンニンがタンパク質に結合して、消化できなくなるのを防ぐ細菌がいます。コアラは多種類の解毒酵素を肝臓に持っており、また鋭い味覚や嗅覚によって、なるべく毒性の少ないユーカリを選ぶことも出来るのです。他の動物と餌で競合することは無いため、生き残る上で非常に有利だったと考えられます。

 ユーカリには何百種類もあるそうです。好んで食べるユーカリは個体ごとに違うそうです。個体によっては単一種のユーカリしか食べないことが観察されています。この偏食の原因は、その個体の持つ腸内フローラで決まっているようです。その証明としては、マナガム種と言う種類のユーカリしか食べない個体に、メスメイト種と言うユーカリしか食べない個体の便を、カプセルに入れて飲ませたところ、メスメイト種も食べるようになったと言う実験結果が報告されています。

 コアラは感染症に弱く、特にクラミジア感染症が流行し、保護のために抗生物質が使われることがあります。しかし抗生物質で、コアラ特有の腸内細菌が死滅すると、ユーカリが食べれなくなって死んでしまう場合があるようです。ヒトの食事は偏っていないため、これほどの影響はないかもしれませんが、抗生物質によって、腸内細菌は死に、1回飲んだだけで半年くらいは元の状態に戻らないと聞くと、さまざまな不調が抗生物質の使用によって生じる可能性はあるのだろうなあと、考えざるを得ません。

 動物の場合も、ヒトと同様に、腸内フローラの多様性が重要です。多様であれば、さまざまな物質が作られ、バランスが取りやすくなり、健康な腸環境が維持されます。コアラの例があるように。動物保護の分野でも、その腸内フローラを考えて、対策を立てることが求められています。

 モンシロチョウの幼虫がキャベツを好み、アゲハチョウの幼虫がみかんの葉を好む様に、昆虫の幼虫も、持っている腸内細菌によって、食べるものが決まっていることが分かってきました。蒼野の腸内には、お好み焼きを分解する菌の割合が多そうですね(笑)。

 生物においても、腸内細菌が変われば、食べるものや機能が変化してしまうのですね! 遺伝子のスイッチを変えることも大事ですが、我々が健康的に変わってゆくには、食べ物で、腸内細菌の種類を、良いものに入れ替えてゆくのが一番手っ取り早いかもしれないと、妄想が止まらない蒼野でした!

参考文献:
1)Cohabiting family members share microbiota with one another and with their dogs. eLife 2013;2:e00458. doi: 10.7554/eLife.00458.

2)The canine gastrointestinal microbiota: early studies and research frontiers.; Gut Microbes,11(4):635-654, 2020.

3)Age-associated microbiome shows the giant panda lives on hemicelluloses, not on cellulose. ISME J, 12: 1319-1328, 2018

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