マインドフルネスって効果があるの?!

2023/07/19

 今日はマインドフルネスについて書きたいと思います。ストレスに有効であるという記述をあちこちで見かけるマインドフルネスですが、蒼野は今までピンと来たことがありませんでした。何かスピリチュアルな感じがして、毎日坐禅を組んで座っているだけで、本当に効果があるのかなあという感じだったのです。仙人が悟りを開くようなイメージで、自分には無理と思っていました。

 しかしその効果の理由が、ようやく納得でき、そんなに難しく考える必要がないことが分かったので、是非皆様にもお伝えしたいと思います。マインドフルネスのキモは、今現在の周囲の環境、自分の考えや感情、体の感覚などを注意深く観察するという事です。別に坐禅を組む必要は無いのです。

 自分の心の中を、何度も観察する生活習慣を送っていると、自分の思考と感情がリアルタイムに把握できる様になります。これを何万回も繰り返すと、何万回もの深層学習で、ChatGPTが急に賢くなったように、我々は、いかなる現象や気持ちも、刻一刻と変化することを確信でき、それが腑に落ちるのです。

 すると自分を取り巻く状況がどんな状態であっても、またその時に気持ちがどんなに不安で、苦しいものであったとしても、それは必ず変化する、ある種の幻のようなものに感じられるようになります。自分の状態を俯瞰して見られるようになるのです。その状態に到達すれば、どんな欲望や感情もコントロールできるようになるという訳です。

 これはブッダが解く悟りに通じるものがあります。ブッダは『瞑想を使った自己観察』を提唱し、それを極めることで、「いかなる現象も、その時々で移り行くフィクションのようなもの」という境地に辿り着いたのです。決して特殊な精神状態や、行いではありません。

 マインドフルネスとは、改めて瞑想の時間を取る必要は無く、生活の中で、今に集中し、その時の自分の感情を言語化し、自分がやりたいことに集中することなのです。これは実は人類の長い進化の中で、狩猟採集していた人々の心理状態、時間感覚に近いものだと言われています。

 現存する狩猟採集民も、遠い未来のことはあまり考える必要がありません。今日の狩りに出かけ、獲物を捕って帰り、みんなで平等に分け、歌ったり踊ったりして、1日が終わります。つまり今に集中しておけば良いのです。人間も動物の一種であることが、その本質です。

 しかし農業が生活に入ってくると、人類は少し遠い将来のことを考える必要に迫られるようになります。季節の変化を予測し、収穫を計画し、食糧を保存するなど、未来に向けて行動を取る必要が出てきたのです。未来のことを考えると、不安という感情は生まれます。試験に通るのか、落ちるのか、と考えると不安になるのです。

 それまで不安というものに対処する必要がなかった我々の遺伝子は、農業革命以降のたかだか1万年では、現代の不安に対応出来ていないのです。現代社会は日々刻々大きく変化してゆくため、ますます未来予測は難しくなり、明日の事は全く分かりません。そして人間は必ず死にます。漠然とした死の不安は誰もが感じているものなのです。

 マインドフルネスは、ふと未来が不安になった時、感情の波に飲み込まれそうになった時に、自分を客観的に見る訓練だったのです。観察者として、その状態が把握できれば、それを大きなストレスとして感じて、過剰に反応する必要がなくなります。完全なフィクションとまでは思えなくても、必ず過ぎ去る一時的なものである事が、納得できるようになる訓練なのです。

 狩猟採集時代のストレスは、敵に遭遇し、戦うか逃げるかという具体的なものでした。結果はすぐに出て、ストレスが慢性化する事はありませんでした。しかし現代のストレスのほとんどは、人間関係の問題、過去の後悔、未来に対する不安など、我々を取り巻く社会的な環境や生活状況を、我々がどう感じるかによって発生する、慢性的に続きやすいストレスです。

 ストレスが続くと、身体の中ではコルチゾールが高まり、交感神経が昂り、バランスが崩れてしまいます。しかし、マインドフルネスで、感じ方自体が変わり、同じ環境でも、ストレスとして感じなくなれば、健康に大きく貢献するというのが、今回蒼野が納得したことになります。それではマインドフルネスに関する論文を見てゆきましょう。

 2014年に発表された、マインドフルネスに関するメタ解析によると、47の研究の3515人のデータでは、1日30~40分のマインドフルネス瞑想を8週間行うことで、不安は62%、うつ病は70%、痛みは67%も改善が見られています。薬物治療と同等の効果を示し、しかも副作用は皆無でした1)。

 2003年に行われたランダム化比較試験でも、8週間のマインドフルネス瞑想トレーニングを行なったグループでは、脳波測定結果で左脳の有意な活性化が認められ、ポジティブな感情が多くなりました。またトレーニング後に接種したインフルエンザワクチンに対する反応も、瞑想群で、非瞑想群に比べ、有意に抗体の数が増えていました。そして脳波の活性化の度合いに比例して、抗体数が増えていることもわかりました。マインドフルネスが、脳機能と免疫機能を、同時に活性化することが分かったのです2)。

 マインドフルネスが脳の構造自体にも影響することを示唆した研究もあります。初めて瞑想を行う健康成人16人を対象に、瞑想前と8週間の瞑想後の脳MRI画像を撮り、コントロールの17人と比較を行いました。すると左の海馬を筆頭に、後頭葉帯状皮質、頭頂葉と側頭葉の間の部分、小脳などの灰白質の細胞密度が増えていたのです3)。これらを考えると、スピリチュアルや気のせいでは無く、本当に有効なんだなあと、蒼野は感心してしまいました。

 これは日常生活にぜひ取り入れたいですよね。少し考え方の癖を変えるだけで、鋼のメンタルが手に入るかもしれないのです。今の時点の自分を、詳細に観察する訓練を繰り返すだけです。細かなテクニックにこだわる必要はなく、実は瞑想自体もする必要も無いのです。自分を見つめることを癖付けて、その感覚を日常生活で忘れないことが重要です。

 これは難しいことでは無く、我々の遺伝子に何百万年もの間刻まれていた、現在に集中するという原始人の感覚を取り戻すだけの事だったのです。日常のあらゆる状況が、マインドフルネスのトレーニング場となります。これを皿洗いで行った研究もあります。 

 51人の大学生をマインドフルネスを意識した皿洗い群と、普通に皿を洗った群に分けて実践後の感情についてテストしました。水の温度や洗剤の泡の間隔などに意識を向けて洗ったマインドフルネス皿洗いを6分間行った群では、不安や神経症のレベルが27%下がり、新しいアイデアを思いつく確率も25%上昇したのです4)。

 お寺で雑巾掛けや掃除を重んじるのも納得の結果ですね。全ての家事、毎日の歩行などをマインドフルに行えば、我々の不安は減ってゆきます。食事や入浴、布団に入った時なども集中してその感覚を味わいましょう。マインドフルイーティングは、ゆっくりと料理の見た目を楽しみ、匂いを楽しみ、口に入れた食感や、味を味わい尽くすことで、幸せを感じると同時に、心を鍛えることが出来ます。

 マインドフルネスは有酸素運動でも鍛えることが出来ます。149人を有酸素運動群とストレッチや深呼吸などのリラクゼーショントレーニング群、普通の生活群の3つのグループにランダムに振り分け、12週間生活してもらいました。有酸素運動を行うことで、他の2群と比べて、有意にマインドフルネスが増加し、精神的健康と相関していました5)。身体を鍛えれば、メンタルも鍛えられることも証明されているのです。

 毎日を幸せに過ごす確率を高める方法が、すでに分かっているという事ですね。蒼野も生活にこの視点を取り入れてみようと思います。生きにくい現代がもっと快適になるかもしれませんよ。皆様も一緒にトライしてみませんか?

参考文献: 
1)Meditation Programs for Psychological Stress and Well-being:A Systematic Review and Meta-analysis. ; JAMA Intern Med. 2014;174(3):357-368.

2)Alterations in Brain and Immune Function Produced by Mindfulness Meditation. ; Psychosomatic Medicine 2003 65 (4) 564-570 

3)Mindfulness practice leads to increases in regional brain gray matter density. ; Psychiatry Research: Neuroimaging. 2011 :191 (1)  36-43

4)Washing Dishes to Wash the Dishes: Brief Instruction in an Informal Mindfulness Practice. ; Mindfulness 2015  6, 1095–1103

5)Regular aerobic exercise increases dispositional mindfulness in men: A randomized controlled trial. ; Mental Health and Physical Activity 2014 7 (2) 111-119

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