今日はまだ保険適応にはなっていませんが、自費診療で行われている関節痛の新しい治療について書いてみたいと思います。加齢と共に増える、肩関節周囲炎や変形性股関節症、変形性膝関節症などの、始まりの症状は関節痛です。現在日本では約3000万人が、その痛みに悩んでいます。
蒼野が最近目にした記事によると、関節の痛みに対する新しい治療が急速に普及し始めているようなのです。今までの関節痛の治療といえば、最初は病院では湿布と痛み止めと運動療法から始まります。そして電気治療や温熱治療、関節にヒアルロン酸を注射したりもします。それでもどうにもならない時には、外科的な人工関節手術が行われてきました。
まず関節痛の起こる原因です。「関節軟骨がすり減るため」と、よく言われるのですが、軟骨自体には神経が無いため正確には違います。軟骨がすり減ることで、関節の間隔が狭くなったりすると、関節周囲の靱帯や腱、筋肉などのバランスが悪くなり、骨同士がぶつかったり、筋肉が引っ張られたりして、スムーズに動かなくなります。するとそこに炎症が起きて痛み物質が作られてしまうのです。
一時的な炎症で済めば、湿布や痛み止めで症状を抑えながら、動かしているうちにバランスが回復し、炎症が治り、関節痛は軽快します。しかし何度も炎症を繰り返していると、関節を包む関節包の内側にある滑膜が腫れ上がり、水が溜まったりします。痛いので動かさないようにしていると、靱帯や筋肉が硬くなって、動きにくくなり、その痛みも加わることで、慢性の関節の痛みに変化してゆくのです。
もちろん身体には、元の状態に戻ろうという自然治癒力が備わっています。関節を取り囲む筋肉に、十分な筋力と柔軟性があれば、関節痛は良くなります。しかし筋力が強い男性は柔軟性が不足しがちですし、柔軟性がある女性では筋力が足らない傾向にあります。初期のうちであれば、ヒアルロン酸を関節に注射して、動きを滑らかにすると、関節が動かしやすくなり、運動療法によって組織が修復されやすくなります。
しかし長年の関節痛に対して、運動せずに痛み止めやヒアルロン酸注射だけで対処していると、徐々に関節は変形し、破壊されてゆきます。いわゆる変形性関節症です。ここまできてしまうと、人工関節手術しかなくなります。蒼野もこの手術を受けた高齢の患者さんを多く見かけます。しかし高齢者がこの手術を受けて、長くベッドの上に居ると、筋力が低下し、手術を受けたのに寝たきりになってしまう場合もあるのです。
関節の痛みの初期に行うと良い、画期的な治療法が、関節の再生医療です。現在盛んに行われている方法は次の二つです。1、自分の血液から組織の再生を促す成分を取り出し、関節内に投与する多血小板血漿(PRP)療法。 そして2、患者の脂肪組織から、どんな組織にも分化できる幹細胞を取り出して培養し、損傷部位に注入することで、損傷部位の組織を作る幹細胞療法です。
PRP療法は、血液中にもともと備わっている、新しい組織や細胞の修復を促す栄養素(成長因子)を遠心分離して取り出します。血小板が豊富に含まれている層に成長因子が多く含まれているのです。自分の血液ですからアレルギーはほとんど起こりません。変形性膝関節症に対する治療成績は、投与後6~12ヶ月で、患者様の6~7割の痛みが軽減しています1)。
効果が出やすいと言われているのは、まだ関節変形が軽く、軟骨が残っている患者さんで、O脚やX脚などの変形が無く、関節が不安定になっていない患者さんです。半月板の手術などで痛みが残っている患者さんも良い適応です。PRP療法は、体内にもともとある幹細胞を局所に集めてくれる作用があり、炎症を抑えて、組織の修復を促進します。
幹細胞治療は、患者から米粒ほどの脂肪を採取し、その中に含まれる幹細胞を体外で増殖させます。幹細胞は骨、軟骨、腱、神経、皮膚などの体を作る様々な細胞に変化する多分化能を持つ細胞です。受精卵が人間になることができるのは、この幹細胞のおかげです。
培養された自分の幹細胞を損傷部位に注入すると、損傷部位にくっつき、炎症を抑えて組織が修復されます。もちろん関節内にも、もともと幹細胞は存在するのですが、わずかしか無いため組織の修復よりも破壊のスピードが上回ってしまうのです。幹細胞を培養して増やし、注入することで、治癒力が高まります。
この方法は、お茶の水セルクリニックで、1000名以上を治療してきた寺尾智宏先生によると、接骨院や今までの整形外科的治療で改善が見られなかった人の7~8割に、症状の改善が認められたそうです。治療期間は3~6ヶ月、患者自身の幹細胞を培養するので時間がかかります。ただし変形や損傷が大きな関節では、修復には限度があるとの事です。
保険では認可されていないため、どちらの治療も現在は自費診療です PRP療法はクリニックによって、15万、30万、60万と様々です。幹細胞治療はもっと高額で、片膝3000万個で約120万円、両膝5000万個ずつで約170万円、片膝1億個で約160万円という治療費が出てきました。お茶の水セルクリニックは1箇所60万円で行っているようです。
もし清水の舞台から飛び降りて、治療を受けて関節痛が治ったとしても、重要なのは、また痛くならないように、今までの生活を改め、関節周囲の筋肉を鍛える事です。運動不足や栄養不足、悪い姿勢などをそのまま続けて、体のバランスが悪いままであれば、痛めた関節の負担は続きます。時間と共に痛みが再発する可能性は高いのです。
自分では、姿勢やバランスは分かりにくいため、正しい歩き方や筋トレを指導してもらう必要があります。プロのトレーナーや、理学療法士さんに教えてもらいましょう。理想としては、筋肉の柔軟性のためのストレッチは、毎日こまめに行う事。週3回くらいは30分程度の有酸素運動を行い、週2回は筋トレを行いましょう。正しい姿勢で、毎日動かしていれば、痛みとはおさらばできるのです。
逆に運動好きでやり過ぎる人も要注意です。正しいフォームで、適度な負荷をかけることが重要です。関節を痛めた人は決して無理をしないよう、お願いします。関節の再生医療は、スポーツ選手で言えば、大谷翔平選手や田中将大選手の、肘の靱帯の故障でも使われました。
田中選手はヤンキース時代にPRP治療を受けて、2ヶ月で復帰し、その後故障なく活躍しています。一方大谷選手はPRP治療+幹細胞治療を何度か受けましたが、最終的には靱帯を再建するトミー・ジョン手術が必要となり、復帰には1年以上必要でした。やはり全ての関節損傷が改善するわけでは無いようですね。
原理から考えても、早期治療が一番良さそうです。関節痛が続くなあと思う、初期の軽い状態で、試したいものです。しかし治療費を考えると、現時点では早期に踏み切れる人は少数派かもしれません。幹細胞治療は他人の細胞で作った幹細胞でも、安全性に問題がない事がわかってきていますが、まだ法律では、自分の細胞で作った物しか治療の認可が下りていません。
今後規制が外れて、幹細胞が大量にストックできるようになれば、コストも下がり、受診したその日に、痛い肩や膝や股関節が、注射一本で治る日が来るかもしれませんね。再生医療は今後最もホットな医療分野の一つになると、確信した蒼野でした。
参照文献:
1)Is local platelet-rich plasma injection clinically superior to hyaluronic acid for treatment of knee osteoarthritis? A systematic review of randomized controlled trials. ; Arthritis Research & Therapy 20 : 128, 2018
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